企業の実務では、取締役が会社の経営や管理業務を遂行することが一般的である。この場合、当該取締役は、取締役としての商業的性質と、上級管理職としての雇用的性質の2つの関係性を同時に会社と結んでいる状態に置かれる。当該状況下では、この人物に対する適用制度の決定時に問題が生じることがある。例えば、会社が支払不能に陥った場合に、対象人物は給与保証制度を利用できるかどうかの判断時に、重要な影響を及ぼす。

上記問題の解決のために、スペインの判例においては、いわゆる「拘束理論」を展開する。このセオリーによれば、上級管理職の地位を有する会社の労働者が、同時に会社の意思決定機関に所属する場合には、前者に吸収される雇用関係よりも後者の商業関係が優先されるとしている。

欧州連合司法裁判所は、2022年5月5日付判決(案件番号:C-101/21号)において、当該問題を検討した。本件では、ある建築家が、2010年に締結の雇用契約に基づいて労働者としてある会社にサービス提供を開始したことに発端する。その後、同建築家は2017年に同社の取締役会議長に選任され、同社の取締役就任を定めた雇用契約の変更同意書に署名をした。

2018年、本件会社が破産宣告を受けた際、本件労働者/取締役は未払い報酬支払請求を会社に行った。しかし、国内(チェコ共和国)法では労働者とはみなされないという理由で、当該請求は却下された。本件労働者/取締役は当該決定に不服を唱え控訴したが、最終的に控訴審は、本件請求者は会社の取締役と取締役会議長を兼務しており、会社との間にヒエラルキーや従属関係はなく、国内法の下では賃金労働者に分類できないとの見解を示し、当初の決定を支持した。

本件請求者は当該新決定を再度不服とし、これを上告した。そしてこれを受理した裁判所は、本件問題を欧州連合司法裁判所に照会し、同裁判所は2008年10月22日付雇用主が倒産した場合の労働者の保護に関するEC指令 第2008/942/EC号 (以下「本件指令」とする。)第2条2項および第12条(a)(c)に基づき、雇用契約に基づく管理職、および取締役会のメンバーを兼務する者は賃金労働者として分類されず、したがって本件指令に規定されている保証の恩恵を受けることができないという国内判例を排除するものと解釈すべきかどうかを予備的に審理した。

欧州連合司法裁判所は、本件指令が「賃金労働者」の定義をしていないことを認めながらも、そのコンセプトの定義において加盟国が利用できる裁量は無制限ではないとみなした。いずれにせよ、本件指令の第2条2項1号は、雇用主が倒産した場合に、すべての被雇用者に最低限の保護を未払い債権の支払いによって保証するという指令の社会的目的に照らして解釈されなければならない。したがって、加盟国は、指令の社会的目的を危険に晒すような形で「賃金労働者」の概念を解釈してはならない。

欧州連合司法裁判所は、国内法が一般的に賃金労働者の地位を認めており、雇用関係から生じる雇用主に対する賃金請求権を有する者から、雇用主が破産した場合に本件指令が保証する保護を奪うことは、本件指令の社会的目的に反するとした。したがって、営利企業の管理職である者がその企業の執行機関のメンバーでもあるという事実それ自体では、雇用関係の存在やその者を賃金労働者として分類することの推定や除外を認めることはできないとした。

問題となったチェコ国内判例は、取締役職を遂行する管理職が、破産状況の創出に一部寄与した可能性がある限り、その会社の倒産による未払給与の受領を回避することを意図している。しかしながら、欧州連合司法裁判所は、個々のケースの具体的な要素を考慮し、推定の反証を提供することで当該推定は覆すことが可能であるとした。

 

 

ルビオ・ジョアン・ルイス (Joan Lluís Rubio)

ヴィラ法律事務所

 

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2022年7月29日

 

 

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