2016年9月15日付の登記・公証局の決定は、少数株主の監査要請権に基づき商業登記所が選任した監査人ではなく、会社自身が選任した監査人が作成した監査報告書が付された計算書類について、商業登記所に登録ができるかについて検討をしている。この中で登記・公証局は株主の監査要請権が制限されるための要件を示した。

本決定の宛先となる具体的な事案の内容は以下のとおりである。

テネリフェ所在の会社から2016年4月7日に提出がされた2011 事業年度にかかる計算書類の商業登記所への登録について、登記官が主として以下の2点を理由に登録不可と通知した。

1)    2010事業年度にかかる計算書類について不備の修正がされていないため、正式な登録が未了の状態であること。2011事業年度の計算書類を登録するには、まずは2010年の計算書類が正式に登録されていなければならない。

2)    2011事業年度の計算書類の監査を行った監査人が商業登記所の選任した監査人と異なる者であること。(少数株主の監査要請により、2010事業年度の計算書類について登記所により監査人が選任されていた。)

これに対し、当該計算書類を提出した会社は、主として以下の主張を根拠に当該却下通知に対し異議を申し立てた。

1)    2010年計算書類は独立した監査人による監査報告書が付されている。

2)    当該監査報告書は、登記所による監査を要請した少数株主にも提供されているし、計算書類の登録申請時にも添付がされている。

3)    最高裁の示すところでは、資本会社法第205条2項が定める株主の監査を要請する権利は、取締役が自主的に監査人による監査を実施した場合には弱められる。また、最高裁は、当該条項の目的は、特定の株主の要請に基づき監査が実施されることにあるのではなく、監査が間違いなく実施され、株主が会社の計算について正しく知ることにあると示している。

4)    登記・公証局は会社による自主的監査にかかる監査人の指名合意が少数株主による監査申請よりも前の日にちになされていることが証明される場合には、当該指名合意がこれに優越すると示している。

本決定において、登記・公証局は以下の見解を示した。

「会社の自主的な監査人選任により少数株主の監査要請権が弱められるのは、以下の2つの条件をみたす場合に限られる。(a) 商業登記所に監査人の選任を要請した日よりも前に会社が自主的に監査人を選任していること、及び、(b) 当該監査人が作成した監査報告書を株主が確認できる体制が確保されていること。この体制が認められるためには、監査人の選任が登記され、当該監査報告書が株主に提供されるか、計算書類一式に含まれなければならない。」

本件において、DGRNは、会社は、自主的な監査人選任の期間は2008年6月26日から3年間黙示的に延長がされており上記2つの要件は満たしていると主張するが、当該監査人の選任と株主の監査要請権の制限について検討するにあたって、登記手続き上の記録では、会社の監査人は、会社が自主的に選任した監査人ではなく、株主の要請に基づき選任された監査人であることから、上記の主張は考慮することができないとした。結果として、本件異議申立ては認められず、2011年の計算書類の登録を認めない登記官の判断が全体的に支持された。

 

 

大友 美加

ヴィラ法律事務所

 

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2016年10月7日