法人の刑事責任モデル
新刑法第31条bisの定めるところによれば、以下の場合には法人は刑事責任を負うとされる。
a)自己の名前または責任において、直接又は間接の利益のために、法人の法定代表者又は個人的又はその法人組織の一部として行為を行なう者のうち当該法人の名前で決定する権限が与えられていたり、組織の権限を有していたり、法人内のコントロールを行なう権限を有する者が犯罪を行った場合
b)前項に記載されている個人が、重大な過失により、その監督下にある被雇用者または従業員に対する監督者としての監督・監視・管理義務に違反したことに起因し、当該被雇用者または従業員が犯罪を行なった場合
本通達によれば、刑法第31条bisの責任は代理責任、つまり、法人の刑事責任は自己責任ではなく他者から移転されたものとされる。しかし、本通達は、改正後の条文には法人の過失及び自己責任を強化するような条項が存在するとしている。
他方、本通達は法人の刑事責任は客観的なものではないとしている。なぜなら、監督・監視・管理義務を履行しなかった上述b)に規定される者による犯罪及び上述a)に規定される者による犯罪は、コンプライアンス・システムを構築していれば情状として酌量されるからである。
本通達はこの点について矛盾を含むと考える。企業がコンプライアンス・プログラムの存在を立証しなければならない場合(上述のa)に規定する者による犯罪の場合)、もしそれを証明できなければ、法人の刑事責任は自動的なものになり、従って客観性を有するというのだろうか。もしそうであるならば、刑法第5条には反しないとみなされるのだろうか。
刑法第31条bis a)に規定されている者
議論を呼ぶ問題のひとつとして、誰が第31条bis a)の定義の範囲に含まれる者に該当するのかという点がある。本通達の定義は、あまりにも広すぎる。
法人の機関の一部をなす者と言うときに、資本会社法の定める業務執行機能を担う取締役とそうでない取締役の違いについての言及なのかは不明である。
また、会社名義での決定権を有する者は中規模または大規模会社においては多数存在する。「権限」といったときにどのような性質の権限なのかは明らかではない。会社を代表して契約を結ぶ権限を有する中間管理職(例えば製造に必要な資材の仕入先となるプロバイダーや業者を選択する役職にいる者)でその他の権限を何も有していないような者は、この定義に含まれるのか、判断ができない。
最後に、私見ではあるが、a)の定義の範囲に該当する者の有する管轄権を業務執行権とするのは適切ではないと考える。なぜなら、資本会社法第249条第3項の観点から業務執行権を有する者と解される範囲は、改正刑法第31条bis a)よりも大幅に限定されるからである。
第31条bis b)を構成する者
b)が包含する者の範囲は法人の従業員に留まらない。本通達は、自営業者、下請け業者、子会社の従業員も含むと述べている。
ここで二つの疑問が浮かぶ。まず、本通達が「下請け業者」と言った場合、すべての種類の下請け業者が含まれるのか、それとも労働者憲章法第42条の定める社会的責任の移転が適用される自身の活動に関する判例の定義する「下請け業者」にとどまるのか。
企業の部長職の指導権に従うと認められる下請け業者といった異なる基準を用いてみよう。この場合、新たな新たな範囲を定めなければならない。例えば、無料のファイアウォールをダウンロードするためにソフトウェアに侵入し、オフィスにルーターを設置した会社の従業員だろう。これは企業に利益をもたらし、かつ下請けがされている。
また、共通支配下にある子会社の従業員といった場合、またもや曖昧な基準が現れる。なぜなら、ある企業の共通支配下にある者が誰か、誰もわからないからだ。
ヴィラ法律事務所
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2016年3月11日
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