本稿では、2021年1月22日付法的安全・公文書管理局(以下「公文書管理局」という。)の決定、具体的には、専門有限会社の計算書類の提出に関するバルセロナ商業登記所の登記拒否判断についての分析を行う。
同決定は、2016年、2017年及び2018年の3会計年度における計算書類の提出の際に、登記官が一連の書類不備を指摘し、登記拒否の判断を示したことを不服とし、その解決を求めたこと発端する。一連の不備のうち、争点となったのは、少数株主が請求した監査報告書の取得必要性に関するものであった。本請求後、該当株主は正式に会社から排除されることとなったことに留意されたい。
第一に、本件の問題の明確な理解のために、株主排除権というコンセプトに言及する必要があろう。理論的には、会社の各株主は、自発的に(退社権)、または会社側の選択により強制的に(排除権)会社から離脱することができるとされている。本排除権は、資本会社についてはスペイン資本会社法(Ley de Sociedades de Capital)(第350条以降)にて、専門会社についてはスペイン専門会社法(Ley de Sociedades Profesionales)の第14条で規定されている。これらの法制度によると、法的、定款的観点からの異なる理由によるいくつかの要件(株主総会決議、独立した専門家の報告書、出資持分の妥当な価値の償還等)を満たす場合、会社は、株主を排除することが認められている。
今回の決定で争点となった問題を理解するためには、スペイン資本会社法第265条で認められている、会社の資本金の少なくとも5%を代表する株主の請求に応じて、いくつかの手続きを経れば、会社の管轄商業登記所の登記官には会計監査人を選任する権利が付与されていることも、言及する必要もある。
当該コンセプトで考慮しなければならないのは、株主排除の効力が発する時点である。スペイン資本会社法は、第14条3項において、株主排除決定は、対象株主が通知を受領した時点から有効となることを明確に定める。本件では2020 年4月16日、つまり、2016会計年度及び 2018 会計年度の監査人選任の請求がなされた後の日付となる。
監査報告書が提出されていないために、同報告書提出が請求された事業年度の計算書類の登記を登記官が拒否したことに関し、今回の申立人は、報告書を正式に請求した株主の排除にかかる公正証書に商業登記所は既にアクセスが可能であった。つまり、本報告書の提出への関心は既に消失し、過年度の会計について監査報告書を提供する必要性がないと主張することにより一連の不備を釈明し、是正しようと試みた。
登記官はこれに対し、手続に関する争点と背景に関する争点の2つを区別して、回答している。
背景については、スペイン会社法第265条第2項及び第279条に基づき、会社の少数株主が監査請求したにもかかわらず報告書の提出がない場合には、会社の計算書類の提出が完了したとみなすことはできないことを登記官は明らかにしている。従い、決算修正を要求された事業年度の計算書類の登記可否には、例え、監査請求を行なった株主が既に株主ではなく、同書に対する関心も消去していたとしても、呼応する監査報告書の提出が必要となるとの見解を示した。当該争点に関しては、監査報告書の請求日には、本株主はまだ排除されておらず、監査人選任手続が開始された時点に請求者が株主の地位にあったことが確認された。
手続きの観点からは、登記官は報告書の中で、当期間の登記拒否の判断に不服申立てたケースは、抵当権法(Ley Hipotecaria)第325条及びそれ以降の条文が定める手続きを実行する必要があるとし、登記官が登記の可否を判断した時点で提供されていなかった新書類やデータを提出対象とすることはできないことを明らかにし、公文書管理局の決定もこれを支持している。
本観点において、不服申し立ての当初の登記判断時に提出された書類とは異なる書類の受領を義務付ける法的規則がないことに根拠を求める選択肢があったにもかかわらず、提供された書類の見直しを進め、一部の不備については当初の判断を維持しながらも、特定の不備についてはこれを修正したとした本登記官の判断は、賞賛に値するといえよう。これは登記所側に、商取引を実行し、その後登記機関と関係のある事業者の利益、つまり手続き上の迅速化を図る意志があることを示している。
マデロ・ハイメ (Jaime Madero)
ヴィラ法律事務所
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2021年2月19日