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EU理事会は、2023年12月5日、共同体意匠規則及び意匠の法的保護に関する指令案に関して、暫定合意に達した。

この暫定合意の中で、自動車業界に大きく影響を与えるであろうスペアパーツに関する意匠権の問題について、本記事で情報を共有する。

I.-修理(スペアパーツ)条項が求められる背景

修理条項の必要性について、典型例として挙げられるのは自動車の修理の場面である。自動車は、多数の部品から構成されるが、その部品の意匠権を有する者は、その意匠権を侵害する部品に対して、権利行使が可能である。

そして、自動車については、部品の交換による修理が多く行われている。

意匠権者以外の者がオリジナルとデザインを同じくするスペアパーツを製造・販売する場合、意匠権の侵害に該当することになる。

しかし、自動車の部品には、ボンネットやドアなど、オリジナルの部品と外観を同じくする必要がある”must-match”が求められる部品が存在する。

意匠権者がmust-matchの部品に対し、意匠権を行使すると、消費者は意匠権者からしか修理のための部品を購入できなくなる。

しかし、それでは消費者の選択の幅が著しく制限されてしまう。

そこで、must-matchが求められる部品については、修理を行う場面においては、意匠権の保護を及ぼすべきではないという考えが生まれる。

II.-20241月現在の共同体意匠規則及びスペイン等EU各国の規制

この点、欧州共同体意匠保護に関する指令98/71は、修理条項について、次のように規定している。

14条 

経過規定

各加盟国は、第18条の規定により欧州委員会が提出する提案に基づき、本指令の改正案が採択されるときまで、複合製品をその本来の外観を回復させるように修繕する目的で使用される構成部品の意匠の利用に関するそれぞれの既存法規を有効に維持するとともに、かかる部品の市場の自由化が目的の場合に限り、それら法規を修正するものとする。

この第14条の規定により、EU各国の修理条項を置くか否かに関する対応が別れていた。

スペインでは従前より、上述の欧州共同体意匠保護に関する指令98/71を受け、意匠権の法的保護に関する2003年7月7日付法第20号第8条に定められている。

経過措置第3(複合製品の構成部品の意匠)

  1. 複合製品の構成部品の意匠の保護は、本法の規定に準拠する。ただし、意匠及び模型の法的保護に関する1998年10月13日付欧州議会及び理事会指令98/71/ECの改正であって、同指令第14条の規定に準拠して採択されたものがスペイン国内法化されるまでの間、登録意匠によって付与された権利は、以下の場合に限り、複合製品の構成部品の意匠の使用を防止するために行使することはできない:

a) 意匠が組み込まれた製品が、保護される意匠の外観が依存する複合製品の構成部品であること。

b)当該使用の目的が、元の外観を回復するよう複合製品を修理することを可能にするものであること。

他方、ドイツやフランスなど有力な自動車メーカーを抱えていた国々では、修理条項の導入が見送られていたが、2020年以降、修理条項が導入されるに至っている。ただし、各国で導入されている修理条項の内容は異なる。

III.-暫定合意の内容

暫定合意における修理条項の内容は次のとおりである。

・複合製品の構成部品を構成する登録意匠であって、その構成部品の意匠がその外観に依存し、かつ、その複合製品の元の外観を回復するように修理することのみを目的として使用されるものについては、保護を与えない。

・複合製品の構成部品の製造者又は販売者が、複合製品の修理の目的で使用される製品の商業的起源及び製造者の身元について、製品上又は他の適切な形式による明確かつ目に見える表示を通じて、消費者が修理に使用できる競合製品の中から十分な情報を得た上で選択できるように、消費者に正当に通知しなかった場合、上記を援用することはできない。

・複合製品の構成部品の製造者又は販売者は、その製造又は販売した部品が最終的

にエンドユーザーによって複合製品の元の外観を復元するための修理のみを目的

として使用されることを保証する必要はない。

今後、EU 理事会と欧州議会とで承認と正式な採択が行われる見込みであり、指令が発効した後は、36 カ月以内に EU 加盟国が指令に対応して国内法を整備することになる。

ただし、修理条項については、本指令の発効時に、加盟国にてスペアパーツの意匠について、適用除外とされておらず、保護を提供している場合は、指令が発効してから 8 年以内は、指令発効前に出願された意匠について保護を提 供しつづけるものとされている。

自動車業界の企業は、自動車メーカーであれ、スペアパーツのサプライヤーであれ、EU域内の変更に確実に対応していかなければならない。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

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2024年1月26日