会社が吸収合併を行う際、官報及び会社所在地で発行されている日刊紙に、吸収合併が株主総会によって承認された旨の公告を、吸収会社・消滅会社とも掲載しなければならない(2009年4月3日法第3号会社再編法第43条第1項)。なお、すべての株主及び債権者に個別通知を行う場合、公告を省略することが認められている(同法同条第2項)。

この公告において株主総会による合併承認の日の記載に誤りがあった場合、当該記載の誤りは、単なる記載ミスとして処理され得るものなのか、それとも、株主及び債権者の権利保護の観点から、重要な誤りとみなされるものなのかが争われるケースがビスカヤ県(スペイン、バスク地方)の商業登記所で発生し、2017年6月19日付で公証・登記局は以下のような判断を示した。

当該事案における吸収合併は、100%親子会社間の合併であり、(親会社が存続会社、子会社が消滅会社)親会社における株主総会による合併承認は、実際には2016年7月23日に開催された株主総会でなされた。当該吸収合併の公正証書が商業登記所に提出された日は2016年5月30日だった。 しかしながら、官報及び日刊紙(エルムンド紙)に掲載された公告には、吸収合併の株主総会による承認日が2016年2月8日と表示されていた。

登記官は、株主総会による合併承認の日付が実際は2016年2月8日ではなく2016年7月23日であり、当該吸収合併が2016年5月30日まで登記所に公示されなかったと、公告された日付に相違があることを理由に、本件合併の登記申請を却下した。

これに対して会社側は、日付の記載の相違は単なるミスであり、株主や債権者の権利を制限したり、阻害したりするようなものではないと主張し、当該却下決定に異議を申し立てた。

2017年6月19日付公証・登記局の決定では、公告内の日付の記載が間違っているという事実が、株主や債権者の権利の制限や妨害といった観点からどの程度の重要性をもち、単なる記載ミスとして処理され得るものかについての判断が示された。本決定は、当該誤記が単なる表記ミスとなるかどうかを検討するにあたって、吸収合併において債権者に与えられている異議を述べる権利(derecho de oposición、会社再編法第44条第2項)及び情報を請求する権利(derecho de información)の保護を考慮しなければならないとした。前提として、これらの権利が適切に保護されていない場合には明白な法令違反であることを確認し、異議申述権と情報請求権が相関関係にあり、密接に絡みあっていることから、公告又は債権者宛の異議申述権に関する個別通知が正しく行われていることが、債権者の権利保護のための必要条件であると述べた。

また、本決定は、公告の内容を定める会社再編法第43条は、公告又は債権者への個別通知の内容には吸収合併合意の全文を記載することを求めていないため、もし本件の公告において吸収合併承認株主総会の日が記載されていなければ、本件吸収合併の登記はなんの問題もなくされていたであろうと示した。

しかしながら本件においては、誤った日付が吸収合併承認株主総会の日として公告されており、実際にはその日に株主総会による承認はされていない。このことは債権者の異議申述権の行使の可能性に関して債権者に錯誤を生じさせる可能性がある。なぜなら、本件吸収合併が登記所に届出されたのは2016年5月30日であり、当該日よりも前に発生した債権を有する債権者は、それが公告に記載された合併承認株主総会の日(2016年2月8日)よりも後に生じたものであったとしても、異議申述権を有する。しかし、上記公告で誤った日付が掲載されたことで、債権者の異議申述権を妨げる結果を招きかねないことから、本件の日付の記載ミスは単なるミスとして処理することはできないとの見解を示した。

当事者にとっては単なる記載ミスであったとしても、債権者の権利保護といった観点に立つと大きな影響を及ぼす可能性がある。合併承認株主総会の日付の変更が生じる可能性があるのであれば、公告に承認株主総会の日付をあえて記載する必要はないことが、本決定から理解できる。

 

 

大友 美加

ヴィラ法律事務所

 

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2017年8月4日