事情変更の原則、又は「事情が変わらない間は」という一般法理は、契約両当事者が自由意志に基づき同意した内容に大きな影響を与えるものであるため、最近まで取り扱われることはさほど多くなく、裁判においても適用されることは少なかった。2008年の金融危機は事情変更の原則を広範に適用する判例傾向は生じたものの、あくまでも例外の範囲内であった。

Covid-19パンデミック及び非常事態宣言を受け、スペインではこの傾向に何らかの変更が見受けられており、裁判においても事情変更の原則の一定の規則性をもった適用が始められている。例えば、2020430日付マドリード第一審裁判所判決第60及び2020429日付サラゴサ第一審裁判所判決第3などである。これらの決定は、事情変更の原則に則って、予防措置の申請を認めた。1つ目の事件では、Jumboローンの実行手続きについて取り扱われた。本件では債権者が、債務者が特定の財務比率を満たしていないことを主張し、契約の解除を求めていた。裁判官は債務者の請求を認め、問題の根底が解決されるまでの間の契約解除手続き、支払期限及び支払を停止させた。2つ目の事件では、サラゴサ裁判所は予防的措置として、緊急事態宣言中における未払いを理由とした保証債権の実行を停止させた。

上記2事例は、事情変更の原則の適用を支持している点において、現時点では重要な決定となる。特に、マドリード裁判所の判決は、当該原則を制限的な基準で用いることを克服することが妥当であると評価し、2014年10月15日付最高裁判決で既に述べられているように「各事案における具体的な状況に配慮」する必要があると指摘している。また、重要かつ予見不可能という事実があるような場合には、事情変更の原則の概念の「標準的な適用」を広げるべきであるという意味で、2013年1月17日及び18日付及び2015年7月25日付最高裁判決のガイドラインに従った。それら判決においては、2008年の深刻な経済危機に応えるものであったが、その他の同等もしくはより深刻な場合にも同じことが言えるだろう。Covid-19パンデミックに対応する緊急事態宣言中のビジネス展開に関する政府による合法な規制は、非常に重要な予測不可能な経済的結果をもたらしたほか、その結果、上述の裁判所は事情変更の原則の一般的適用を尊重した。サラゴサ裁判所判決の事案において、簡潔に移動制限(この最終的な結果として売上減少が生じたとされている)から引き起こされた問題に言及されているのみであって、パンデミックの状況を特定の事案に結びつけるような望ましい議論が深く詳細にされているわけではないことは述べておかなければならない。

しかしながら、事情変更の原則を主張する場合に、例えば「金融危機」や「パンデミック」といったように、それを一般的に引き合いに出すことを制限しないことを要請しているため、裁判所は引き続き慎重な姿勢を維持している。全体的な状況が具体的な事案に与える真の影響を証明しなければならない。つまり、主張する状況の変更から生じた契約の大幅な負担となったものが何であるかを証明しなければならない。またもう一つの要件として、「状況の著しい変化により、法外なアンバランスが生じていること、及び両当事者の予想の範囲外であること」が存在しなければならない(2016年10月24日付トレド県裁判所判決及び2019年11月7日付マドリード裁判所判決)。

上述の2020年4月30日付マドリード第一審裁判所判決第60号において、Covid-19パンデミックは予見不可能で、予防的措置を申請した債務者の経済状況に「強烈な」インパクトを与えるものであると宣言されていることは特筆に値するだろう。「強烈な」という用語の使用は、2020年3月14日以降に承認された勅令法その他の法令の結果、個人の移動の制限や企業の一時的閉鎖といった実質的な変更を意味したことを示している。そこでは、当事者の一方が、通常又は通常とは異なったとしてもそこまで大幅に違わないような環境であれば履行することができたであろう契約の重要な部分を履行することができなくなったという状況が存在する。パンデミックは全ての人に同程度の影響を及ぼしたわけではないため、同様にこの「強烈」性の程度の決定は事案に応じて分析されなければならず、たとえそれが不可抗力であったとしても、あらゆる契約関係に同じ結果をもたらす必要はない。おそらく契約関係のほぼ全てが影響を受けるものの、与えられるインパクトが、必要とされる強烈性の程度を全てのケースにおいて満たしているとは限らない。

事情変更の原則の適用にかかる上述の判決及び決定は、約7年の期間をカバーしており、裁判所が契約の変更を以前に比して例外的なものではなく、世界が一般的に経験している不安定さのためにより頻繁に生じる状況の著しい変化に照らして分析すべきものとして検討する傾向を強調している。しかし、事情変更の原則の適用への開放性は、契約合意内容の不変性に対する信頼と、当事者の自由の原則及び当事者自身の行為の原則の信頼をある程度損なうものでなければならない。それは、契約は変更されない、又はほとんど変更されることはないものではないという感覚を与えるかもしれない。したがって、おそらく「予測不可能なことを予見する」又は契約当事者間の関係を法外な形で変更し、契約署名時の状況に大幅に影響を及ぼすような予期せぬ出来事が生じた場合の影響に関する契約条項を新しく設けることを検討すべきだろう。

Covid-19パンデミックによる非常事態宣言が発令される直前に出された2020年3月6日付最高裁判決は、事情変更の原則の適用を可能にするような予期せぬ状況の特徴を以下のように概説している。

a) 契約の変更を引き起こし、結果的に契約の解除を引き起こす可能性のある状況の変更は、契約の目的が果たされないリスクを大幅に増大させるほどの大きさでなければならない。

b) 状況は予測不可能なものでなければならない。契約当事者が、当該状況が生じるリスクを明示的又は黙示的に想定していた場合、または、契約の状況や性質を考慮した場合に当該リスクは合理的に予測可能であるため、当事者が当該リスクを負うべきであると考えられる場合には、予測不可能ではないものと理解される。

c) 予測不可能な状況は長期、通常は継続的な契約において生じる可能性があるが、短期契約(例えば1年)においては生じない。

Covid-19パンデミックの状況は、原則として、特定の契約合意内容の変更を正当化するための根拠として主張ができるが、因果関係の要素が不足しているため、そのような主張は、単に状況が誘発されたことに限定する場合には、支持を得ることはないだろう。具体的な事案に応じて議論を行う必要があり、パンデミックの一般的なインパクトと一方契約当事者の主張及び契約上の義務の履行が困難な状態を生じさせた具体的な影響の間の関係性を示さなければならない。次に、そのような状況が発生した場合、紛争解決のために法的手続きを起こすリスクを軽減のために、結果を予見するための契約式(部分的な契約更新メカニズムや、合理的な損害賠償金を伴う契約の解除といった)を確立することを推奨する。

 

 

ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)

ヴィラ法律事務所

 

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2020年6月26日