I. 規範的背景
職場への持続可能なモビリティ計画(計画的通勤移動計画)を策定する義務は、2025年12月3日付法律第9/2025号「持続可能なモビリティ法」(以下「本法」)に由来する。本法第26条1項は、義務対象となる企業および事業体に対し、施行から24か月以内に当該計画を運用可能な状態にすることを定めていた。本法は2025年12月5日に施行されたため、当初の期限は2027年12月5日であった。
しかし、状況は政治的背景により変化した。2026年2月28日にイランで武力紛争が発生し、その結果としてホルムズ海峡の封鎖および燃料価格の急騰が生じた。ブレント原油は1バレル119ドルを超え、TTF天然ガスは一日で40%以上の上昇を記録した。
これを受けて政府は、2026年3月20日付の政令法(RDL)第7/2026号「中東危機対応統合計画」を制定し、その第63条により本法を改正した。
改正は限定的ではあるが実務上の影響は大きく、期限は24か月から12か月へ短縮され、最終期限は2026年12月5日となる。緊急性の根拠は当該政令全体と整合しており、従業員の移動効率化(公共交通・テレワーク等)によって化石燃料依存を減らすことが目的である。このようなイラン情勢との関連付けは、スペイン憲法第86条に基づく政令法の要件である「緊急かつ特別な必要性」を満たすものとされる。
II. 適用範囲:どの企業が対象か
義務は、本法第2条に基づき、従業員200人超またはシフト当たり100人超の労働者を有する職場を持つすべての民間企業および公的機関に適用される。
実務上重要な点は以下の3つである:
1. 基準は企業単位ではなく事業所単位で適用される。複数拠点を持つ企業でも、各拠点が単独で基準を満たさない場合、その拠点には義務は発生しない。グループ企業で同一敷地内に複数法人が存在する場合、「単一事業所」か否かは労働者法第1.5条の概念に従う。
2. 業種による例外はない。工場、病院、商業施設、IT企業、協同組合、財団など、すべて同様に対象となる。
3. 公共部門も明示的に対象である。行政機関、自律機関、公的事業体、公営企業などが含まれる。
II. 計画内容の新要件
RDL 7/2026第63条は、本法第26条3項も改正し、最低限の内容を拡張した。
従来の規則ですでに求められていた内容(公共交通促進、低排出モビリティ、充電インフラ、テレワーク等)に加えて、以下が追加された:
- 道路安全および通勤時事故予防
これは最も重要な法的追加点である。同計画には、通勤時の事故予防措置および道路安全改善策を明示的に含めなければならない。また関連する教育・訓練も必須となる。
これは労働安全衛生法(Ley 31/1995)と直接連動し、社会保障法第156条2項aにより通勤災害は労災とされる。企業が予防措置を講じていない場合、社会保障法第164条に基づき最大50%の保険給付上乗せ負担(制裁的加算)が課される可能性がある。
実務上は、従業員の通勤経路分析、危険区間の特定、勤務時間調整、交通安全教育(自転車・車両利用等)が必要となる。
- 計画の対象範囲の拡大
計画は従業員のみならず、来訪者、供給業者その他継続的に事務所を利用する者も考慮しなければならない。
- 市町村計画との整合
事業所所在地に自治体独自のモビリティ計画が存在する場合、各企業による同計画はそれと整合させる義務がある。
IV. 第64条:モビリティと財政支援の条件付け
最も即時的な法的リスクは第64条にある。
本法第26条1項に基づき計画義務を負い、かつ本政令に基づく燃料補助金(輸送業者、農業、漁業、海運等)を受給する企業が、計画義務を履行しない場合、受給済み補助金の返還義務が発生する。
ただし、この規定はすべての企業に適用されるわけではなく、当該補助金の受給企業に限定される。返還手続は一般補助金法(Ley 38/2003)に従い、遅延利息および追加責任が発生し得る。
V. 計画策定プロセス:労働者との協議
計画は企業が一方的に承認することはできず、法定労働者代表または労働組合との交渉が必須である。
そのため、正式な交渉開始、提案交換、対立調整を含むプロセスが必要となる。
VI. 実務上の推奨事項
緊急性を踏まえ、以下の対応が推奨される:
a) 各事業所が基準を満たすか確認する。
b) 補助金受給の有無を確認する。
c) 通勤実態およびリスクの診断を実施する。
d) 労働者代表との交渉を早期に開始する。
e) 労働安全衛生計画との統合を行う。
VII. 結論
本政令により、多くの企業にとって2027年まで猶予のあった義務が、2026年内に完了すべき優先課題へと変化した。
さらに重要なのは、この義務が単なる環境政策から、労働安全衛生および企業責任に直接関わる制度へと性質を変えた点である。
適切に策定・交渉された計画は単なるコンプライアンス文書ではなく、予防効果および法的責任軽減効果を持つ実質的な法的文書となる。
松岡研吾 (Kengo Matsuoka)
ヴィラ法律事務所
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2026年5月22日