本稿では、2020年7月1日付スペイン最高裁判所判決において、錯誤の評価を瑕疵の意思表示であると判断した事例を分析する。本件は、契約締結時に当事者が知得した誤情報に基づいて、譲渡価格を決定した2会社間の株式譲渡契約に発端した。

本件当事者となる2つの会社は、各社が、第3のある会社の株式を資本金の10%未満の割合で取得しているという事実関係が存在していた。第3社である本件株式発行企業は、企業価値と利益に関する情報を提供して増資合意に至り、新規株式の発行価格を30ユーロと定めた。その内訳は額面6ユーロとプレミアム24ユーロであった。

本株式購入に関心を示した本件当事者会社の1社は、250万ユーロ分の購入を希望したため、他方当事者であるもう1社は株式発行会社の33,000株を1株あたり29ユーロの価格、結果として買主会社にとっては1株あたり1ユーロの節約となるオファーを行った。本条件にての合意は、株式譲渡契約として正式化され、結果として買主は株主割当増資に参加しなかった。ここで、株式を有する会社間で、株式発行会社の発行価格に応じて譲渡価格を固定化することの効果の重要性にも留意する必要がある。

契約締結から数ヶ月後、株式発行会社の監査役は、会社の利益が当初の見積額の4分の1にも満たないという重大な不備を検出した旨を取締役会に報告した。したがって、企業価値も当初の設定よりも低額であるとみなされることとなった。この結果、株式発行会社は、株式の価格を12ユーロ に修正し、1株当たり30ユーロ支払った株式購入者に対し18ユーロの差額を返還することで対応した。

33,000株の株式譲渡契約を締結した買主でる本件当事者会社は、瑕疵の意思表示を理由に本契約の無効を申立て、購入株式を返還することにより購入価格の返金を請求した。また補完的に、1株当たりの購入価格(29ユーロ)と再計算された株価(12ユーロ)の差額支払いを被告に請求する、部分的な無効性確認の提起もされた。

第一審裁判所は、株式価格は常に相対的なもので、売主と買主の当事者間合意にて決定されるものであることから、当該契約締結時に株式譲渡価格設定のための考慮材料には錯誤はなかったと判断した。更には、この場合には、両当事者共に株式発行会社の株主であることから、発行株式の真の価値を知得できる立場にあったとして、そのような錯誤の存在は言訳とならないとの判断を示した。

最高裁は、第一審裁判所と逆の立場を採り、以下のように述べた。

  • 錯誤によって契約を無効とするには、本錯誤が不可欠である必要がある。すなわち、契約締結に至る主因となった事情(個人的、契約の対象の質や条件等)に投影されなければならない。本ケースでは、株式の譲渡金額が増資の際の新株発行株価に対し、具体的には1 株当たり1 ユーロ減の価格で固定されている限り、当該錯誤は不可欠であったと理解されるとした。そして今回の増資時に発行された新株式の価格は、会社の価値、決算書に反映されて、且つ監査報告書にて確認されていた会社の利益に呼応して決定されたものであった。

当該観点につき最高裁判所は、誤った事情認識は過去・現在・未来いずれの時点でも良いが、いずれにしても契約締結時に考慮されていなければならないと、具体的に言及している。契約実行後に新たに発生した事象が契約上の定めと矛盾することは、決定的であると言える。そうでないならば、契約履行後の単なる出来事にすぎず、契約無効とはならないであろう。

しかしながら、一時的な性質ではなく将来に投影される性質を有する契約(例えば、契約内容に連続性を有す賃貸借契約のような契約)は、予見が困難な一定の無作為性の要素を有する。そのため契約の無作為性及び、想定したリスクの実体に関する認識が正しい場合、結果がどうなるかに関する不正確な表示は、必ずしも錯誤であるとはみなされない。したがって、この種の契約に関しては、より錯誤の制限的な基準が設けられることとなる。

  • 他方、錯誤は、不可欠であることに加えて、重要かつ排他的でなければならないとした。スペイン判例では、並行して要求される認識努力を持ってすれば、契約時に認識にしていなかった事象の認識が、後に可能であった者への保護を否定している。本件では、監査報告書を参照して固定された株価から株式の譲渡株価を決定したのちに、固定株価が変更されたことに、本件買主に対し認識への努力を要求することはできないとした。

本件の例外性は、株式譲渡契約締結の記載株価が、誤った発行価格を基準に設定されたより錯誤が発生したことに起因するものであることにある。 第二審判決は、価格決定時の誤りが、対象物の品質またはその価値を決定するパラメータに関する事前の誤認に起因する場合には弁解可能であるとし、当該例外性を評価した。本件では、譲渡価格を決定した株式の評価の誤りは、株式発行会社の決算書及び利益を考慮したことによるもので、実際のデータが異なることを事前に知得していれば、本件株式の譲渡価格も契約価格よりも低い価格に確定するか、譲渡契約自体が成立し得なかった可能性が考えられる。

 

マデロ・ハイメ (Jaime Madero)

ヴィラ法律事務所

 

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2020年7月17日