欧州司法裁判所2015年の判決を受けて、ドイツ財務省は2018年2月22日、仮想通貨による決済の法的扱いに関する見解を発表した。当該見解によれば、仮想通貨は商品又はサービスに対する即時的・契約的な決済方式・手段として受け入れられつつあり、法定通貨による決済手段と同等の扱いを認める、としている。仮想通貨から通常の法定通貨に交換する際に利益が発生する場合は、当該利益は課税対象となる。また、交換業者が仲介名目で行う取引自体は課税免除されるが、交換プラットフォームは課税対象となるとした。同様に、仮想通貨のマイニングに対する報酬は任意的サービスとみなすため課税対象にはならないが、仮想通貨を保管するウォレットと呼ばれる仮想通貨口座の所有者が得る手数料は課税対象となるとした。

仮想通貨を決済手段として認めるとすると、次のステップは、その法的領域を具体的な方法によって規制する法制度の整備、又は法定通貨に適用されるような法的枠組みが同様の形で仮想通貨に適用可能かの判断であろう。後者の場合は、仮想通貨の性質を考慮すると非常に難しいと言わざるを得ない。すなわち、仮想通貨は中央当局の枠外で取引されるデジタル資産であり、単純な禁止以外、金融当局その他の行政の介入の可能性がない浮動的な金融市場システムを持つため、通常の法定通貨と同様の扱いは合理的とも現実的とも言えない。

他方、欧州委員会関係者のこれまでメッセージは、一貫性に欠けるものであると言わざるを得ない。2017年12月モスコビッチ委員は、EUは仮想通貨を規制する予定はないと発表したが、当該発言に関して欧州委員会副議長は、競争力を維持するためには仮想通貨を受け入れるべきだとしながら、部分的にはモスコビッチ委員を支持しない発言をしている。今年1月、フランスは自国に規制委員会を設置する旨を発表し、ドイツは世界レベルで規制する必要性を述べた。これらの声明は、2017年12月から2018年2月までの3か月間に行われた。それは仮想通貨の急激な投機的動向が世界規模で見受けられたこと、仮想通貨取引所にて盗難が発生したことに由来することに留意すべきである。

この流れからすると、仮想通貨を「決済手段」とカタログ化することは、「仮想通貨」というコンセプトへの深い法的扱いを回避するための中立的な処方であるとの結論付けができよう。これはつまり、仮想通貨市場における取引が、通常の市場取引のように当局もしくは中央政府の信用付与によって決定される客観的価値に基づくのではなく、本事業に関わる人々の間でのみ認識されている価値を有するデジタル性質を持つ資産の取引であるという事実が明白であるということを、確認するに過ぎない。これを念頭に置くと、仮想通貨というコンセプトは現在、通貨の基本的な機能を有しながらも、従来の法定通貨という用語には適合しないと判断すべきであろう。

本稿においては、「仮想通貨」及び「仮想資産」という表現を同じものを指す言葉として区別なく使用する。法的性質上のコンセンサスは存在しないが、「仮想資産」とういう用語はより現実に即した表現であるという印象を受ける。

次に、各国における仮想資産に対する立場について言及する。アジアでは日本とシンガポールが、デジタル資産投資誘致のために、あいまいな部分を保ちながらもオープンな立場をとっている。日本が、仮想通貨取引メカニズムの性質に対する公式見解を発表することなく規制を行うことに焦点を当てていることに対し、シンガポールは仮想通貨による決済、通常の通貨による決済、あるいは他の有価証券による取引の法的扱いと差異はないと表明しており、消費者保護の必要性を認識している。カナダにおいては仮想通貨を「通貨」として定義することを(本質的な価値が実装されていないため)否定し、これを金融資産のひとつであるとみなし、金融投資や金融商品に対するのと同様の金融市場関連の法律を適用する可能性を警告している。一方でオーストラリア国税局は、仮想通貨を通貨または貨幣として定義することはせず、これを使用しての経済活動の結果としてスワップ取引可能な資産とみなし、課税の対象とすると最近表明している。

国家による管理という伝統的な観点から仮想通貨を規制する際の問題の1つは、取引の匿名性とその分散化された性質にある。したがって国家としては、例えば仮想通貨取引所開設に対する事前許可の必要性のように、伝統的な外貨両替所開設時と同様に遵守すべき一定の条件と規制を設けといった外堀的な局面からから規制を始めることは、論理的である。同様に、資金洗浄対策として、経済活動のトレーサビリティシステムの設置の義務化や、管轄当局への報告義務化を試行することも可能である。

取引所機能の規制は2017年5月に日本が採用した方法そのものであり、その主な目的は仲介プラットフォームに公的な信用性を付与することにあった。しかし、当該分野の規制をする国に拠点を置いて交換取引をするのは、ごく一部の業者のみであることは明白である。さらに、トレーサビリティシステムの設置を余儀なくすると、プライバシーを優先させる顧客の大部分を失うことにもなりかねない。最後に、分散型デジタル資産取引所の場合、国内規制を迂回して、規制を設けていない国や地域にサーバーを設置してプラットフォームを構築し、業務を実行することが可能であることもまた、明白である。

仮想通貨に対する立場を各国は、種々の要因を考慮して採用するが、主に以下に挙げる3つの立場に分類することができる。

1)政治的もしくは経済的環境を重視する立場。(EUはここに分類される)

2)自国経済に与えるその潜在的な可能性のために、デジタル資産取引所を招致しようとする戦略的な立場。

3)経済的および政治的要請(ベネズエラ)

簡単にではあるが、ベネズエラのケースを検証する。ベネズエラは現在、深刻な経済危機に陥っている。2018年1月からの5か月間でインフレ率900%以上を記録し、更には強力な政治的圧力をかけるための国際的な経済封鎖の対象となってもいる。2018年2月、現状打開策としてベネズエラ政府は仮想通貨「ペトロ」のプレセールを開始した(53億バレル相当の石油によって裏付されている)が、市民及び企業のペトロに対する信頼の欠如により政府が期待したような実績を出せなかった。2018年3月15日には、ペトロおよびその他の「仮想資産」(「仮想通貨」という用語の代わりに使用される適切な総称)の規制に関する法案が提出された。本法案は、決済手段として仮想資産の使用及び、仮想資産の交換に法的認知を与えるものとするものだった。限定的なペトロに対する関心とは別に、仮想通貨の共有団体に属する市民は、ダッシュコイン(DASH)のようなマイニング作業が不要かつ、即時決済が可能であり、他の仮想通貨と比較して低い交換手数料をうたっている仮想通貨を使用しての支払い・請求決済行為を行っている。さらにビットコインのマイニングを行ったとの理由から技術者が拘束されたことを受け、DASHを決済方式として認める制作会社やサービス提供者が経済界に登場している。本現象が社会・経済的に興味深いのは、当該環境下にて行われている取引は自主的な性質である。特に、一連の取引が法定通貨への最終的な交換なしで完全に仮想通貨のみにて行われている場合は、国家からの直接的な管理のメカニズムの外にある。今日ベネズエラやナイジェリアで起こっていることを考慮すると、仮想通貨の本当の意味においての発展は、仮想通貨を投資プロジェクトや投機機会のひとつとしてとらえている先進国においてではなく、新興国や、国際的な経済封鎖の対象国において必要性の結果として起こる可能性があるといえよう。

しかしながら、仮想通貨は依然として投機の手段として認識されており、購入者は仮想通貨を保有し、通常の経済活動の中で使用する意図はなく、急激かつ相当な価値上昇の機会があればこれを法定通貨に交換することを視野に入れて購入している。イギリスではよく知られているスポーツのブックメーカーは顧客に対し、金融派生商品の一種として仮想通貨を提供している。このように顕著な投機的な利用は、予期しない急激な市場価格の変動や短期間での巨大損失や利益をもたらすことになり、更に、仮想通貨に対する不信感を植え付けることになりかねない。2018年第1四半期に起こったことは、通常の通貨であれば通貨危機が生じた時には中央政府が市場介入するが、仮想通貨は中央政府の支配を受けないことを前提としている以上、価値の乱高下が生じたとしても、それを抑制できるのは仮想通貨の取引市場のみであることを示した。価格の変動性の高さは仮想通貨の特徴の一つであり、客観的に安定した価格を保つことができない価値に、数年にわたって償却を生み出す重要な投資を行うことは困難であり、一般的な経済活動におけるその利用と発展を妨げる要因でもある。

しかしながら、仮想通貨を投機対象としてではなく決済方法として、通常の経済的活動に利用可能な手段とみなすならば、多くの仮想通貨が使用されることにより、通常の法定通貨のレベルに匹敵する程度まで価格変動性の幅が狭まる可能性は高い。仮想通貨が大きなシェアを獲得しデジタル資産マーケットが発展するためには、法令はその使用を限定することに焦点を置くのではなく、不正使用や消費者保護に関して、特に仮想通貨交換業者に関する分野に関しての規制に注力すべきである。しかしながら、仮想通貨は中央政府の介在しない分散型の性質を有する製品であり、それゆえに、間接的な規制のみが可能であることを忘れてはならない。つまり、立法者の役割は、デジタル経済の発展を妨げることなく、仮想通貨が法定通貨とともにマーケットで共存できるように、その大規模な使用によって発生するであろう問題も含めて、経済活動における比重が大きくなるまで、慎重かつ段階的に介入することが望ましいと言えるだろう。

 

 

ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)

ヴィラ法律事務所

 

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2018年6月1日