2021年10月28日付スペイン官報にて、2021年9月29日付法的安全・公文書管理局(以下「公文書管理局」という。)決定が公示された。当該決定は、ある有限会社(S.L.)の会社の増資にかかる公正証書の登記申請を、マドリード第1商業登記書登記官が却下したことに関するものである。

本件において、会社の招集手続き省略株主総会は、現物出資による増資を決議した。現物出資に用いられるのは離婚歴のある個人が私有する住居であり、当該住居には元配偶者及び共通の子どものための「使用及び用益権」が設定されていた。なお、公正証書に含まれていた公証人の宣誓において、本住居の供与は設定された使用及び用益権にいかなる制限も課されず、それら権利が損なわることなく実施がされ、また、住居の価値を定める際に当該事実は考慮に入れられていたことが明確に述べられていた。

商業登記官は、当該使用及び用益権が民法96条に定める権利であるのであれば、当該住居を処分するためには当該権利の権利保有者からの同意が必要、として、増資にかかる公正証書の登記を拒否した。

この登記官の判断について、会社は異議申し立てを提出した。

公文書管理局は、参考事例として2019年8月8日付同局決定を使用した。当該決定では、有限会社(S.L.)の設立にあたって、他方配偶者の同意なく動産が現物出資として用いられた事案を取り扱っていた。当該決定は「登記所での登記の目的そのものは、新規発行株式の引受けという単一の行為や、その結果として生じる派生的な法的・物権的権利ではなく、払込みが資本の額をカバーしているという事実である。」と明確に述べている。また、「この観点から、本件で結ばれた会社の契約それ自体は、当該現物出資を行う者がたとえ完全な処分権を有していない場合であっても、当事者間で有効であり、当該出資者によって取り消し可能な出資行為である限り、資産の移動は不安定な状態となる」と加えている。そして、「実施された払込は、両配偶者の同意を必要とする民法第1377条に含まれる規則に反するため、明示又は黙示の確認がない場合には、他方配偶者又はその相続人の要求により取り消し可能となる。しかし、供与された動産の所有権譲渡は商業登記所における登記事項ではないことから、登記官は出資行為に関する公正証書の登記申請について否定することはできない。」と結論づけていた。

参照した決定において検証された事案を考慮し、公文書管理局は「資本会社法には設立発起人が有リスク、取消し可能又は訴訟リスクのある権利を供与することを妨げるような規定は存在せず、旧資本会社法第58条及び第59条に基づく経済的評価が可能な物又は権利が供与資産に含まれていることが必要であり、場合によっては、実施された供与が損害を被る場合には旧資本会社法第73条以降に定める過剰評価による株主及び取締役の連帯責任の規則の適用がされる。」ことを確認した。そして、本事案について、所有権が制限される可能性がその価値評価において考慮され、供与された権利の性質に疑いの余地がないことが必要であるとした。

さらに、公文書管理局は、「2019年8月9日付決定の内容及び法的根拠は、本事案に完全に当てはめることが可能である」とした。両事案とも、譲渡行為が完全に有効となるためには他方配偶者の同意が必要であり、いずれの事案においても、同意が省略された配偶者又はその相続人の請求により取り消し可能な行為となることで一致する。さらに、両事案とも、その有効性が不安定ながらも、譲渡自体はその効果を生じており、その後の偶発的な取消しは、資本会社法第73条乃至76条に定める条件において供与者の責任の問題を生じさせるのみである、と確認した。

本件においては、「供与された権利及び利益享受者のための使用及び用役権の存在につき株主及び取締役が認識していたことは明らかであり、その供与資産の評価及び資本の額のカバーの検証時にそれらが考慮されていた。」と結論付け、最終的に、公文書管理局は、本件異議申し立てを認め、登記官の判断を取り消した。

 

ヴィラ法律事務所

 

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2021年11月19日