インターネット閲覧時に収集される個人データが、後に商的取引対象となっていることに気づき始めているネット利用者が急増している。サイトアクセス時に通常求められる情報としては、年齢、住所、連絡先電話番号等がある。
民間部門では、個人データ収集、管理、販売に従事する企業が、アプリケーションやウェブサイトを主な情報源として、市民の情報を入手しようと躍起になっている。収集されたデータは、市場販売のために、慎重に特定のカテゴリーに編集、分類された上で保管される。データ価格は、性質、情報源、買主にとっての戦略的もしくは商業的価値によって変動する。Meta社における通常アクティブなユーザーの個人データの平均価値は、月額2米ドル程度と推定される。ある一個人の個人データの商業的価値は、広告業界においては年額263米ドルに達する可能性がある。最近、The Generation Labというアメリカの組織は、携帯電話の利用状況、ネット検索動向、購入、移動記録等のデータ収集のために、銀行口座のアクセスパスワード等の機密情報を除外した上で、携帯電話のトラッキングを許可する若者に月額50ドルを提供するとした。同様に、ある有名暗号資産企業は現在、虹彩認証を許可する利用者に約40米ドル相当のトークンを提供し、現時点で1200万人以上の該当データを保有する。
これらの金額については議論や補足説明の余地があろうが、個人データが顕著な価値を有すことは明らかである。問題は、特に個人がこの事実を意識していない、あるいは単に自身のプライバシーの金銭的価値を認識していないことにある。この説の根拠は、伝送データ量及び質に応じて設定された様々な報酬のために、自らの個人データを売却しようとする人々の数の増加にある。これはデジタルプラットフォーム事業者が、クッキー(cookies)、その他のITソリューションによって収集可能なデータで良しとせず、より具体的、したがってより価値の高い個人データへのアクセスを希望しているためである。自己の個人データの有償取引市場参入者の多くが若者であるという事実は、おそらく、プライバシーの欠如を問題視しない、あるいは、自分たちは間違いなく常時監視対象であるのだから、対価を受領すべきという認識に基づくのであろう。
一般には、 (1)クッキー使用を承諾の上「無料」コンテンツにアクセス、もしくはコンテンツやサービスに対する料金支払いを選択できるサイト、(2)クッキーに関し、完全拒否、選択的管理、あるいは技術的に「必須クッキー」の使用に同意するかを選択できるメニューを提供するサイトの、2タイプの対応が見受けられる。(2)の場合、大多数のウェブサイトでは、クッキー同意または拒否ボタンが、実際の使用の承諾、拒否につながるのかを明確に示しておらず(選択ボタンが意味するところを示す説明文がない)、単にボタンの色が変色するだけである。明示的な説明がない故に、利用者は気づかずに、または意図せずにクッキーの使用に同意している可能性がある。
一方、ウェブ事業者サイトが訪問者から収集するデータについて、合理的な疑問が生じる。実際にウェブページが適切に機能すするためには一定数のクッキーの有効化が必要であるのに、タブ機能にてクッキーの完全拒否の選択が可能であるのはなぜか。つまり、利用者がサイト「クッキーの完全拒否」を選択した場合、いかなる情報、データがウェブ上に保存されるのか。この問いへの回答は、サイトには記載されていないが、実際には、サイト運営に不可欠な特定の技術的クッキーは、有効化されたままとなる。別途、クッキーを介して取得できないトラッキング情報は、ブラウザのデジタルフットプリント等の代替手段によって取得され、クッキーを介さずに利用者の識別を可能とする。したがって、いかなる方法にせよ、利用者のネット交流時には、多少の差はあれデータが収集されることになる。最後に、インターネット環境外で、データ収集が警告なしで絶えず行われているケースについて取り上げよう。例えば、レンタカーサービスを契約した場合、車両利用に本質的に伴う車両の使用時間、速度、ブレーキ操作、訪問場所等の情報記録は、利用者の明示的な同意なしに無料で収集されるデータとなる。
ITデジタル業界がデータのトラッキング、収集、販売によって得る莫大な利益は、原材料であるデータが実質的に無料であることに大きく起因する。ネット利用者は、コンピューター、携帯電話、その他のデバイス(カーナビや、AI搭載ロボット等)を通して、自身のデータを提供する。
個人データは無料提供ではなく、あくまで利用者のサービスやコンテンツ利用への対価として提供を受けているという見解をネット業界は提唱しているが、個人データの変換、交換、売買に関する活発、且つ収益性の高い市場の存在を否定できない限りにおいて、当該主張は成立しない。当然のように思うだろうが、第二に、利用者がいなければシステムは機能しないことに留意を要する。同様に、ウェブサイト側は、利用者に提供する単なるコンテンツアクセスを対価であると主張するが、サイト側の提案の根底には、ユーザーインタラクションによってのみ得られる経済的利益が存在するため、事実と異なっている。最後に、データ提供をサービスやコンテンツへの対価とみなすのであれば、全てのウェブサイトはアクセス時にその旨を通知し、利用者がクッキー使用に同意しない場合はユーザーインタラクションを停止すべきである。ただし前述の通り、クッキーは、利用者の個人データトラッキング・収集の唯一の手段ではない。
ネットサービス事業者の利益は、多くの場合、事業者と利用者間の経済的取引そのものにはないこと、つまり個人データの重要性にあることを示す示唆に富む例として、ネット通販(EC)会社が存在する。会社が利用者にペン1本を2ユーロで直接販売、あるいは仲介販売する場合の利益は、取引自体からではなく、収集データから得ることは明白である。そうでなければ、明らかに赤字となる受注はせず、取引最低金額を設定するはずである。
したがって、ウェブサイトやアプリケーション運営者と利用者の間で、利用者の個人データの価値を認めた上で、ユーザーインタラクションを行う際に、利用者の価値あるデータが運営者側に伝達されるという合意が形成されているならば、利用者が提供する価値に対する報酬を受理すべきであるという考え方も、非常に合理的だと言えよう。個人データはデジタル分野の原材料であり、本材料を元に複雑な情報資産が生成され、経済システムの価値連鎖に組み込まれる。我々は、ウェブサイト利用者がユーザーインタラクションを開始するということは、サイト運営者は供給者として、サイト利用者は(自身のデータという、定量化可能な有価資産の提供者)その潜在的な相手方当事者として契約関係の開始段階にあるという見解を持っている。すなわち、我々はこれを、利用者が同意(クッキーを有効化し、インタラクションを継続)した時点で成立する無形資産の譲渡(売買)という真の取引と理解すべきであると考える。したがって当該譲渡は、スペイン民法第1445条に基づき、金銭、もしくは金銭以外の対価物によって報酬が支払われなければならない。ただし、利用者が対価受領の権利を放棄した場合は、無償譲渡(寄付)となり、この限りではない。
上記を鑑みると、(a)クッキー、もしくは他の個人データ収集を可能とする同等または代替的なトラッキング手段に同意、もしくは拒否する権利 (b) 個人データの価値 (c) 利用者に属する個人データの譲渡取引において、利用者がデータの有償譲渡を決定した場合、対価を得る権利の発生、という3つの存在が確認できよう。(c)においては、対価金額を定量化する必要性が生じ、市場がその調整機能を果たすべきである。これは、利用者が提供可能とした情報(時間的側面、およびデータ性質の両面において)の質、および譲受者が収集データから享受できる利益の期待値の2つの基本パラメータに基づいて実行されることになろう。
既述した具体的合意事項はさておき、個人データ取引の大部分は、日常的なアプリ使用やウェブ閲覧という枠組みの中で、毎秒数千件という圧倒的な総量で行われている。故に、前段落に言及した市場パラメータに基づく変動報酬制という解決策は、利用者(個人データの潜在的な譲渡者)による譲渡同意データの適切な選択と、選択カテゴリーに応じた対価の受理を(承諾または拒否が可能)できるようにサイトやアプリに選択肢や代替案にかかるメニューを組込む必要性を暗示する。要するに、ダイナミックなオンライン取引が要求するような、利便性が高く迅速な技術的アプリケーションの導入が必要とされる。本アプリ導入には、新環境への移行に関するガイドラインやスケジュールを定める法律が存在しない場合は特に時間を要するため、サイト閲覧時の少額決済、サイト利用しての取引時の割引適用、あるいは商品やサービスと交換可能なポイント制度といった暫定的なシステムを設ける必要がある。
本価格決定のメカニズムがどうであれ、重要な点は、個人データ提供に対し対価を得る権利によって、利用者が、個人データを無料譲渡する受動的な譲渡人から、自発的なデータ提供とその対価受領契約における積極的かつ自発的な当事者へと変貌するという、パラダイムシフトにあると言えるだろう。
ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)
ヴィラ法律事務所
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2025年10月17日