暗号資産市場規制に関する2020年9月24日付 EU規則最終案 (第2020/593 号、以下「Mica(Market in Crypto Assets)」という。)において、暗号資産とは、分散型台帳技術(ブロックチェーン)または同様の技術を使用して、電子的に移転および保存が可能な価値または権利のデジタル表現であると定義されている。

暗号資産のブロックチェーンプラットフォームは、DLTとも呼ばれる分散型台帳技術に基づいて構築されたデジタルサービスであると同時に、デジタル資産の作成、送信、取引を目的として、それを管理、使用する主体間の法的相互関係の成立手段を提供する。基本的には、スマートコントラクトの実行を通じて、デジタル資産の作成、保管、交換を迅速かつ安全に行う大規模な仮想取引所であり、DLT技術使用が鍵となる。 例えば、非代替性トークンと呼ばれるデジタル創作物(Non-Fungible Tokens:NFT)の作成と取引に特化した、OpenseaやKnownOriginといった、デジタルプラットフォームについて考察してみよう。このようなNFTプラットフォームは 、従来の交換所のように資産を需要と供給の場に公開するだけでなく、普遍性、スピード感、簡潔さ、安全性といった独自の性質から、大きな成長余白を有するネット上の付加価値を生み出すものである。芸術的NFTは、その創作と保管が仮想レベルでしか行われないため、ショールームやメンテナンス、セキュリティ対策を必要としない。

現在、市場は以下のような2つの基本的な方向性に進化する傾向があるようである。

(i)    (価値の創造と取引のボリュームの着実な増加につながる)取引の俊敏性と自動化。

(ii)(「トークナイゼーション/トークン化プロセス」とも言われる)資産/権利の抽象化。

上記二つの潮流は、共にユーザーに取引の十分な証拠を提供する安全な環境で、普遍的なアクセスと迅速かつ簡潔なマス取引の実行を可能とするようなテクノロジーによって構築されたモデルもしくはシステムを必要とする。これらは、DLT技術を暗号資産の作成、交換、取引のためのプラットフォームに適用することで達成可能とする。

ブロックチェーン・プラットフォームのサービスプロバイダー(以下、「プラットフォーム」という。)は、

第三者に対し、暗号資産の開発と送信、スマートコントラクトの作成、およびその保管と登録のための実装サービスを提供する。加えて、既に知られているように、契約の目的や条件と同様に、契約当事者らに取引内容の改竄や変更を不可能とし、実行取引の証拠を残すことで、セキュリティを提供する。後者は、プラットフォームにて実行される各取引のプロセスに組み込まれた「認証」機能を指し、当該保証機能が、あらゆる種類のマーケットや経済取引に必要な信頼感をもたらすことにより、結果的に、プラットフォームの更なる利用を促すこととなる。

プラットフォーム内の取引は、当事者(オペレーターとプラットフォーム)のアイデンティティがデジタル化された後に、暗号資産へのアクセスおよび登録に関する、暗号資産の譲渡、交換条件を含む条件を遵守することにより外部参加者がプラットフォームとの法的関係を持つことで実行される。サービスの対価として、プラットフォームは売却額(スワップの場合は譲渡額)に基づくパーセンテージおよび/または報酬を受領する。さらに、プラットフォームのユーザーは、暗号資産の所有権の均等分割といった取引契約またはその他の種類の契約によって相互に関係し、当該ポーションはプラットフォームを通じてマーケット取引が可能である。

デジタルプラットフォームは、暗号資産の作成・保管・登録、および自動管理のためのサービスプロバイダーとして機能を有すると前述した。コインまたはトークンと呼ばれるこれらの資産は、有形または無形の商品(セキュリティトークン)または権利(ユーティリティトークン)といったデジタル資産への移管を構成する。セキュリティトークンの例としては、不動産所有権の「トークン化」、ユーティリティトークンとしては、債権の「トークン化」が挙げられる。 この技術は、サイズや機能にかかわらず、資産及び権利のシェアの証券化、そしてその譲渡性を効率的に管理することを可能とし、結果として、従来は不可能であった低資金力の事業者のマーケット参加を可能とする。

しかしながら、プラットフォームが機能するためには、ブロックチェーン外部の第三者、つまり、スマートコントラクトの発動に必要な外部データを提供する「オラクル」と呼ばれる安全で確実性の高い情報提供者のサポートが必要となる。オラクルは、プラットフォームのブロックチェーン(およびブロックチェーン環境で動作するスマートコントラクト)とプラットフォームがアクセスできない実世界のデータの間に、API(Application Programming Interfaces)を介する架け橋として機能する。要するに、オラクルはユーザーにデータを提供し、それがスマートコントラクトの実行の契機となる。以下のような多種のオラクルが存在する。

– ソフトウェア(オンライン上でデータ送信)

– ハードウェア(バーコードスキャナー、電子センサー、データリーダー等からデータ送信)

– 集権型(データの単一ソース)

– 分散型(複数のオラクルから発信される)

– インバウンド(ユーザーから情報を収集し、ブロックチェーンに送信)

– アウトバウンド(オラクルがスマートコントラクトから現実世界に情報送信)

– 人間(上記オラクルの機能を果たす人物による)

オラクルのデータはスマートコントラクトに送信され、スマートコントラクトはそれを取り込み、コントラクトで予見された条件(中止条件または解決条件)が発生すると、その契約が実行される。例えば、1時間に60リットル以上の集中豪雨が発生した場合に一定額の補償を行う農業保険契約が存在する。降雨データは気象観測所で収集され、オラクルによってスマートコントラクトに送信される。オラクルは、前提条件の存在を認識し、補償の妥当性を検証し、ポリシーに設定された補償の支払いを承認する。同様のことが、その価値が伝統的かつ特定の金属市場の価格に連動している特定の暗号資産の売却取引についても言える。このオラクルが提供する金属価格データは、売買契約のトリガーとなりうる。

暗号資産取引プラットフォームを規制面の観点から検証すると、2019年の時点のMICA規則案では、「複数の第三者が暗号資産の権益を売買し、ある暗号資産を別の暗号資産と交換するか、暗号資産を不換法定通貨と交換するかのいずれかの契約成立を可能とする」場所とされている。

デジタル要素を有する資産が取引対象となり、このような資産に組み込まれた、あるいは相互に接続されたいかなるデジタルコンテンツやサービスを含む概念であると、EU指令第2019/771号は定めている。プラットフォームにおけるデジタル資産の取引は、プラットフォーム自身が作成する実質的に以下の内容を含む運用ルールに従うこととなる。

a) 予防管理措置:取引が認められている暗号資産の要件と承認手順を含み、該当する場合は先験的に除外される暗号資産を設定する(Mica第5条および付属書I)。

b) プラットフォームでの取引希望者が、プラットフォームに公平かつオープンなアクセスを可能とするための客観的な基準

c) 運営上の要件:公正かつ秩序ある取引、アクセス、流動性、情報を保証し、取引の効率的な決済を確保するための手順を確立しなければならない。

匿名性について:Mica第68.1条、匿名化機能を組み込んだ暗号資産取引を認めないという規定に留意することが重要である。ただし、保有者およびその取引履歴がサービス提供者(プラットフォーム)または管轄当局によって特定できる場合は例外としている。

同様に、プラットフォームは、自らが保有する暗号資産をプラットフォーム上にて単独の取引を実行することは妨げられることにも言及する必要があろう。つまり、プラットフォームでは、暗号資産の発行および取引が可能であるが、詐欺や自己の利益を目的に取引を操作するリスク回避のために、自己資産をプラットフォーム内で取引することは禁じられる。

欧州委員会は、デジタル暗号資産取引所に、従来の証券市場に適用している統制と管理の原則を適用する。そして更に高いレベルの情報の透明性及び、情報へのリアルタイムなアクセスも要求している(Mica第68.6条)。

 

 

ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)

ヴィラ法律事務所

 

より詳細な情報につきましては下記までご連絡ください。

va@vila.es

 

2021年9月10日