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2022年10月、日EU間で「データの自由な流通に関する規定」を、経済連携協定(以下、EPAという。)に含めるための交渉が開始された。

2023年10月28日、第4回日EUハイレベル経済対話において、日EUの閣僚(日本:上川外務大臣・西村経済産業大臣、EU:ドムブロウスキス上級副委員長)が同交渉の大筋合意を確認し、2024年1月31日、日本及びEUは、「経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定を改正する議定書」の署名が行われた。

本記事においては、日EUのEPAの内容、データの自由な流通に関する従前の議論や、上記改正の内容を紹介する。

I.-EU・EPA

日EU・EPAは、2019年2月に発効され、自由で公正なルールの構築を主導し、貿易自由化を推進する目的を有する。

次のような内容がこの協定に含まれている。

  • 日本産品のEU市場へのアクセス
    • 工業製品は、100%の関税撤廃。
    • 自動車部品は、9割以上が即時関税撤廃及び乗用車は8年目に撤廃予定。
    • 農林水産品等は、牛肉、茶、水産物等ほぼ全品目で関税撤廃、日本ワインの輸入規制の撤廃、種類の全ての関税の即時撤廃、農産品・種類に係る地理的表示の保護を確保
  • EU産品の日本市場へのアクセス

化学工業製品、繊維製品等について関税即時撤廃。

  • サービス貿易・投資・電子商取引

原則全てのサービス貿易・投資分野を自由化。

電気通信サービスや金融規制協力等欧州で活動する日系企業のニーズに対応するルールを設定した。

II.- データの自由な流通に関する従前の状況

データの自由な流通については。各国によって態度が分かれていた。

EUでは、GDPRにおいて、EU域外への個人データが原則として制限されていることなどからも分かる通り、データの自由な流通には慎重な立場であった。

  • 日本の立場は、データの自由な流通に積極的な立場であり、G7やG20などの国際的な会議の場では、「DFFT」(Data Free Flow with Trust)を提唱してきていた。

III.- 本改正議定書の内容 

本改正では、日EU・EPAに情報の電子手段による国境を超える移転に関する規定及び双方が個人情報保護の法的枠組みを採用・維持すること等に関する規定が追加された。

8.81条1は、「両締約国は、情報の電子的手段による国境を超える移転が対象者の事業の実施のために行われる場合には、当該移転を確保することを約束する」[1]と規定する。

具体的には、8.81条2は、次の通り定める。

「(前略)一方の締約国は、1に規定する情報の電子的手段による国境を越える移転を次のことを行うことによって禁止し又は宣言してはならない」

  • 情報の処理に関して、一方の締約国の領域におけるコンピュータ関連設備又はネットワーク構成要素の利用を要求すること(一方の締約国の領域において認証され、又は承認されたコンピュータ関連設備又はネットワーク構成要素の利用を要求することを含む。)
  • 情報の保存又は処理に関して、一方の締約国の領域における情報のローカライゼーションを要求すること。
  • 他方の締約国の領域における情報の保存又は処理を禁止すること。
  • 一方の締約国の領域におけるコンピュータ関連設備若しくはネットワーク構成要素の利用又は一方の締約国の領域におけるローカライゼーションの要求を情報の国境を超える移転の条件とすること
  • 一方の締約国の領域への情報の移転を禁止すること。
  • 他方の締約国の領域への情報の移転の前に一方の締約国の承認を要求すること。

8.81条3及び4は、上記禁止事項の例外を定めている。

8.81条3は、「この条のいかなる規定も、締約国が公共政策の正当な目的を達成するために1及び2の規定に適合しない措置を採用し、又は維持することを妨げるものではない。ただし、当該措置が次の要件を満たすことを条件とする。

(a)同様の条件の下にある国の間において恣意的若しくは不当な差別の手段となるような態様で又は貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用しないこと。」

(b)目的の達成に必要な範囲を超えて情報の移転に制限を課するものではないこと。」

8.81条4は、8.81条の規定が、締約国が、個人情報及びプライバシーの保護に関する措置を採用し、又は維持することを妨げるものではないとしている。

8.82条1は、個人情報の保護に関して規定し、両締約国は、各締約国の法令に従い個人が自己の個人情報及びプライバシーの保護についての権利を有すること並びにこの点に関する高い基準がデジタル経済における信用及び貿易の発展に寄与することを認めるとする。8.82条3は、各締約国は、電子商取引に関連する個人情報の保護について定める法的枠組みを採用し、又は維持することを規定している。

そして、8.82条4では、各締約国は、電子商取引の利用者に提供する個人情報及びプライバシーの保護に関する情報を公表するそしており、(i)個人がデジタル貿易から生ずる個人情報又はプライバシーの保護の違反に対する救済を得ることができる方法、(ii)個人情報及びプライバシーの保護のための関係する法的な要件の企業による遵守に関する指針その他の情報を含むとしている。

EU間の個人データ(情報)移転に関する法的枠組みは変わりませんが、これらの条約レベルの規定によって、日本とEU間のデータ取引や移転がより促進されることが期待される。

 

南智士 (Satoshi Minami) 弁護士

ヴィラ法律事務所

 

より詳細な情報につきましては下記までご連絡ください。

va@vila.es

 

2024年5月24日

 

 

[1] 「対象者」は、(i)対象企業、(ii)締約国の企業家、(iii)締約国のサービス提供者を指す。