COVID-19感染症により引き起こされた健康危機への対応として2020年3月中旬にスペイン政府が非常事態宣言を発令してから数週間が経つにつれ、契約に関する訴訟件数の増加は明白となった。そして、今後数カ月の動向を導くような初期段階の判決が出され始めている。
「事情変更の原則」又は「事情変更の法理」の教義は、賃借人によって賃料の減額の主張のために用いられており、裁判所はその使用をケースバイケースで限定している。
当事務所の記事「事情変更の原則による契約の修正」では、2020年4月30日付マドリード第一審裁判所第60法廷の決定及び2020年4月29日付サラゴサ第一審裁判所第3法廷の決定に言及しており、上記判決では事情変更の原則の態様に一致することのみに基づき、予防措置の要請が認められた。
予防措置の要請は、2020年6月25日付バレンシア第一審裁判所第1法廷の決定、2020年7月7日付ベニドルム第一審裁判所第2法廷の決定、2020年7月15日付エル・プラット・デ・ジョブレガ第一審裁判所の決定においても同様に認められている。
- 2020年6月25日付バレンシア第一審裁判所第1法廷決定
本事案は、事情変更の原則に基づいて、工業用不動産賃貸借契約における賃料の減額にかかる申し立ての予防措置請求の手続きの枠内で出された決定である。
裁判所は、予防措置として、2020年6月以降判決が出されるまでの期間、工業用不動産の賃貸借契約にて合意された最低月額賃料の50%の支払いを、手続期間中は猶予することを認め、ホテル業界の新年度が始まる2021年3月以降に生じる賃料の支払いは、現行の収容人数制限及びヨーロッパからの観光客の入国制限といった法的措置が継続されている場合に限り、猶予が維持されるとした。
- 2020年7月7日付ベニドルム第一審裁判所第2法廷決定
本事案では、賃借人はCOVID-19によって生じた危機に基づいて「事情変更の原則」法理の適用により一時的な賃料の減額請求の申立てを提出し、同時に前例のない予防措置の採用を要請した。
裁判所は、賃料減額で提示されたのと同割合及び同期間での賃料支払い義務の停止を予防措置として講じることを認め、手続き期間中に賃貸人が立ち退き請求の申し立てを行うことを禁じた。
同様に、裁判所は、本件には予防措置をとることにより回避することができる立退き請求の危機があることが明白であるため、「fumus boni iuris」又は「善良な法の出現」及び「periculum in mora」又は「手続き遅延による危険」があるものと理解した。また、賃借人に対して50ユーロの預託金を要請した。
- 2020年7月15日付エル・プラット・デ・ジョブレガ第一審裁判所決定
本事案は、「事情変更の原則」の適用に基づいて、商業施設閉鎖命令が有効であった期間及びその後の開業制限がなされていた期間における支払い義務の不存在の宣言を要請するための申立ての前段階の予防措置手続きである。要求された予防措置は、賃貸人が賃料回収のために保証金充当の阻止を意図するものであった。
裁判所は、裁判外又は司法手続きにおいて、被告の家賃保証(請求払い保証)を実行する権利を一時的に禁止又は停止する内容の、要請された予防措置を認めた。
このように裁判所は、上記3つのケースにおいて、COVID-19感染症によって生じた危機は予見不可能であったとの見解を示した。つまり、申立人の経済状況に通常とは異なる形で、即時的かつ強力な影響を与えた状況であると理解し、賃借人によって要請された予防措置を講じることに同意するに至っている。
確かに現在我々は、「事情変更の原則」法理の適用についての学説に多くの再考察を促す、全く新しい状況にいる。
いずれにせよ、これらの措置は一時的な性質を有すべきであり、問題は、例外的な状況が終息した後に、当該契約の両当事者の利益を再調整(可能であれば自動的に)するための基礎に資するような期間及びパラメーターをどのように決定するかにあるだろう。
ヴィジャビセンシオ・カルラ (Carla Villavicencio)
ヴィラ法律事務所
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2020年9月25日