近年、欧州事業の再編において、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、ポルトガル等にある子会社・事業を整理し、スペインに拠点を集約したいというニーズが増えている。スペインは、比較的コスト競争力のある人材市場、EU域内市場へのアクセス、ラテンアメリカとの親和性、マドリード・バルセロナを中心とする事業環境などの点で、欧州拠点として検討されやすい国の一つである。
このような場合に検討されるのが、EU法に基づく越境組織再編制度である。EU域内では、一定の会社について、国境を越えた合併、分割、会社形態の転換が制度化されている。これにより、単に既存会社を清算して新会社を設立するだけでなく、一定の条件の下で、法人格や権利義務の承継を伴う形で、より体系的にグループ再編を行うことが可能となる。
- EUの越境組織再編制度
EUの越境組織再編制度は、主に次のような手続を想定している。
第一に、越境合併である。これは、あるEU加盟国の会社を、他の加盟国の会社に吸収させる、または複数の会社を統合して新会社を設立する手続である。例えば、フランス子会社をスペイン子会社に吸収合併させ、欧州事業の契約・資産・従業員・管理機能をスペイン会社に集約するようなケースが考えられる。
第二に、越境分割である。これは、ある会社の事業、資産、負債の全部または一部を、他の加盟国の会社に移転する手続である。既存のEU子会社を完全に消滅させるのではなく、特定の事業部門や資産のみをスペイン会社に移す場合に検討される。ただし、具体的にどの累計の分割が利用できるかは、関係国の国内法とスキームによって確認する必要がある。
第三に、越境転換である。これは、会社の法人格を維持しつつ、ある加盟国の会社を他の加盟国法上の会社に転換する手続である。
例えば、他のEU加盟国の会社をスペイン法上のS.L.またはS.A.に転換し、登記上・法的な本拠をスペインに移すイメージである。
これらの制度のポイントは、単なる資産譲渡や新会社設立とは異なり、一定の範囲で法人格または権利義務の継続・承継を制度的に実現できる点にある。
ただし、すべてが自動的・無条件に移転するわけではない。
契約、許認可、雇用、税務、金融機関対応、個人データ、補助金、ライセンス等については、個別の確認が必要となる。
- スペインが関わる場合の法制度
スペインでは、EUの越境組織再編に関する制度は、主に Real Decreto-ley 5/2023 により規定されている。スペイン法上は、国内組織再編と越境組織再編を含む「構造的変更」の枠組みの中で整理されている。
スペインが関わるケースは、大きく二つに分けられる。
一つは、スペインが受入国となるケースである。例えば、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル等のEU・EEA内子会社を、スペイン会社に合併させる、またはスペイン法上の会社に転換する場合である。日系企業が「欧州拠点をスペインに置きたい」と考える場合には、このパターンが中心となる。
もう一つは、スペインが出発国となるケースです。例えば、既存のスペイン子会社を他国のEU子会社に合併させる、またはスペイン会社を他国法上の会社に転換する場合である。
スペインを受入国とする場合、最終的にスペインの商業登記所において、再編後の会社の登記または変更登記を行う必要がある。その前提として、出発国側で必要な手続を完了し、出発国当局から事前証明を取得することが通常必要となる。スペインの登記官は、その証明を踏まえつつ、スペイン法上必要な事項、特に会社形態、定款、資本、従業員参加、株主・債権者保護などを確認する。
- まとめ
EUの越境組織再編制度は、外資系企業が欧州事業を再設計するうえで有力な選択肢である。特に、EU内の既存子会社を整理し、スペインに欧州拠点を置く場合、単なる清算・新設よりも、合併、転換、分割を活用することで、事業の継続性や権利義務の承継をより制度的に設計できる可能性があるため、単に他国の拠点を閉鎖し、スペインに会社を新設するというだけでなく、このような組織再編のオプションがあることも念頭に置いておくべきである。
もっとも、この制度は簡単に会社をスペインへ移せる制度ではない。会社法、登記、税務、労務、債権者保護、株主保護、契約、許認可等を横断的に検討する必要がある。特に、スペインが受入国となる場合には、スペイン法上の会社形態、商業登記、税務実体、労務体制、FDI規制を早い段階で確認すべきである。
南智士 (Satoshi Minami)
ヴィラ法律事務所
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2026年6月26日