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2024年10月23日に欧州議会および欧州理事会が採択したEU指令2024/2823 (以下、「本指令」)は、従来の意匠保護指令98/71/ECを改訂したものであり、EU域内の意匠保護制度の現代化・調和・効率化を目指した法改正である。

国内法化の期限まではまだ時間があるものの、近時の技術を踏まえた改正であり、その内容を概説する。

1. 改正の経緯及び国内法化の期限

EUはこれまでの意匠制度がデジタルデザイン、3Dプリント、GUIやアニメーション等の新しい形態を包含するには不十分であるとの認識のもと、1998年の旧指令を全面的に改める必要があった。

本指令は 2024年11月18日付でEU官報に掲載され、2024年12月8日に発効している。

加えて、加盟国に対しては2027年12月9日までに国内法化を完了する義務が課せられている。

この改正は、EU意匠保護制度の現代化と単一市場における調和を図ることを目的としており、IT、デジタルコンテンツ、ユーザーインターフェースといった新領域の保護拡大も含まれる。

2.改正内容

(1)デザインの定義

本指令第2条では「デザイン」の定義が見直され、従来の物理的外観に加え、「動き、遷移、任意の種類のアニメーション」を含む外観を保護対象としている。

この改正により、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)や動的デザイン、ライトエフェクトなどのデジタルデザイン も法的保護の対象となる枠組みが整えられた。

(2)複数デザインの一括出願

本指令第27条は、1回の申請に複数のデザインを含めることを可能とする。これにより、プロダクト群の意匠をまとめて出願・管理でき、手続きの簡素化・コスト削減が期待されている。

(3)公開遅延

本指令第30条では、出願後の意匠情報公開を 最長30か月まで先延ばしできる制度が設けられた。これにより、企業は市場投入戦略に合わせて公表タイミングを調整できる。

(4)スペアパーツ条項

本指令第19条は、複雑製品の補修用部品(いわゆる “must-match parts”)について、外観再現のみを目的とする場合には意匠権の保護対象外とした。これは再修理市場の自由競争を保護するための条項である。

この点については、以前以下の記事で論じたことがあるので参照されたい。 修理条項に関する暫定合意

(5)(デザイン保護)マークの導入

本指令第24条は、登録されたEU意匠に 「Ⓓ」マークを付すことを可能にした。

この表示により、無断コピー抑止効果の強化や権利の可視化が期待される。

(6)インターネットを介した無断複製や不正流通に対応

本指令16条第2項は、登録された意匠については、設計を記録した媒体またはソフトウェアを作成し、ダウンロードし、複製し、または他者に共有もしくは配布することが禁止した。

3Dプリンタが普及してきた昨今、これによる意匠権の侵害から保護することを主眼に置かれている。

4.スペインにおける法案の進捗

スペインでは、2025年2月17日から3月6日まで、現行法を改正するための法律案を策定するための事前意見募集を実施した。

前述したように国内法化の期限は2027年12月9日であるため、まだ具体的な法案は見えてこないが、上記指令の改正内容を踏まえ、どのような意匠権の法制が整備されるか、今後を見守る必要がある。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

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2025年12月24日