2021年4月28日付最高裁第一法廷(ECLI:ES:TS:2021:5202A)は、以下の内容の控訴の理由を分析した。
- 年次計算書類の不提出と、スペイン 資本会社法第1条e)項に定められた、会社の資産が資本の半分以下となっていることによる解散事由の存在の有無の推定。同法第367.1条に基づく取締役の連帯責任について。
- 同法第241条に定められた債務超過の状況を改善することなく、会社の事実上の閉鎖を引き起こした、もしくは同意したことに起因する取締役の個人責任。
第一の理由については以下の見解を示している。
A) 2020年5月28日付最高裁判決を参照し、商法第34条に定める事業主に課せられた、会計年度終了時に年次計算書類を作成する義務について言及している。当該計算書類には、取引の会計処理、経済的現実を考慮した上で、会社の資産、財務状況、売上結果について真実かつ公正な見解を示す必要がある。当該義務が履行されない場合、資本会社法第1条に規定する会社登記簿の閉鎖と、同法第283条に定める罰則の両規定に従うこととなる。
B) 計算書類提出義務や、法定解散事由に関する法規制については、計算書類提出の義務の不履行イコール解散事由になるとは法に規定されていない。加えて、当該義務不履行を理由に取締役が会社の債務を負う義務が生じるとの法規定もなく、また、そのことで事業活動の停止や、会社目的の遂行が不可能となることを推定できないことに留意すべきであるとしている。
C) 資産の損失及び会社の事業活動の不在を証明するためには、「周辺事実」の確証が有効である場合がある。なかでも、少数派判例法の一部は、計算書類の提出義務の不履行について、提出をしていないことが証明責任の逆転を引き起こし、被告が不均衡な状況が存在しないことについての証明責任を負わせることになると考えている。年次計算書類の未作成、未承認、未提出は会社の財務及び会計状況を第三者が知る機会を奪うことを認めており、これは損失の存在や事業活動の欠如についての証拠と評価することも可能であるが、損失状況の併発についての直接証拠とはならない。
D) 控訴人は、損失の状況についての証拠を何ら提出せず、2009年度の計算書類の提出がされていないこととそれに伴う登記簿の閉鎖のみを確認した。被告は、2010年から2013事業年度にかかる法人税の申告書により事業活動の存在を証明し、当該4事業年度において、純資産額は会社資本を上回っていたことを示した。
第2の理由に関しては以下の見解を示している。
A) 株主及び第三者に、取締役の機能行使における行動が、株主及び第三者への直接的な損害を生じさせた場合における株主及び第三者の対取締役に対する個人的責任追及の性質及び要件を検討する。
-
- その性質については、民法第1902条で考慮されている一般的不法行為責任の特別適用が推定される。これは会社の取締役がその役務の履行において遂行した有機的な不法行為についての責任である。
- 要件については、以下の要件が必要とされる。(i) 取締役の能動的又は受動的な行動、(ii) 上記行動は取締役会に起因すること、(iii) 取締役の行為は、法、定款、又は、秩序ある経営者及び忠実な代表者に対して要求される忠実義務の違反であり、違法であること、(iv) 当該違法行為が損害を及ぼす可能性があること、(v) 当該損害が直接的なものであること、(vi) 違法行為と引き起こされた直接的損害との間に因果関係が存在すること
B) 会社の契約違反や会社のあらゆる債務について、取締役の個人責任を無差別に訴えることはできないと明記されている。これは、法人格性、資産の独立及び会社債務についてのみの排他的責任といった、資本会社の基本原則に反することを意味するからである。資本会社法第241条は、取締役を会社の保証人へと変えるものではない。法は、会社の解散すべき義務の懈怠における会社の債務不履行についての取締役の連帯責任を追求する場合であっても、その責任を解散事由が発生した以降の債権に限定している(資本会社法第367条)。
C) 不履行により取締役の個人的責任を発生させる法定義務として、第一法廷は以下のように具体化をした。
-
- 主たる住居の買主が支払った前払い金額の返金を保証する法的義務の不履行
- 会社が支払い不能状態となった場合には、(i) 事実上消滅し、差押さえによって資産がなくなった会社がクレジット契約を締結; (ii) 会社が消滅する直前に非常に高額な金融商品を契約; (iii) 債権者に対する弁済を直接妨げた取締役の行動による会社の事実上の消滅; (iv) 取締役、会社又は関係者の利益のために不正に会社の資産をゼロにする、等の行為
- 事実上の清算の名目で、会社の資産に比して多額な会社資産の不当な引き出しをしたことにより、会社の債権の弁済を不可能とした場合。
D) 判決において以下の点が確認された。(i) 被告会社は事業活動停止の状態にも、支払不能状態でもなく、原告によって提供されたサービスに対し支払いがなされていた。; (ii)不払いを想定しての注文は行わなかった。; (iii)強制解散の結果として、債権の弁済が可能かどうかを認知していない。
第一法廷は、証明された事実によれば、控訴対象となった決定は学説によって定められた原則に則っているものと理解し、控訴人の利益の合理性の欠如及び法的根拠の宣言の欠如を理由として控訴を却下した。
ボスク・ミレイア (Mireia Bosch)
ヴィラ法律事務所