スペイン政府が2010年に行った太陽光発電分野における改革に関し、初の国際仲裁裁判の結果が今週公表された。当該改革について、影響を被った数多くの外国人投資家によりスペイン国を相手取りエネルギー憲章条約(ECT)に基づいた仲裁の申し立てが行われていた。

仲裁裁判所は仲裁申立てを棄却し、ある現状について国家が即効性のある規制導入を行うことを禁じる国際法の原則は、個別の合意がない限り存在しないとした。

また、たとえ投資の収益性に深刻な影響を及ぼしたとしても、当件は接収に当たらず、公正かつ公平な対応の基準や原告である投資家の法的な権利を侵害するものにはあたらないとしている。

本件はスペイン政府発行のプレスリリースによりここ数日間メディアを賑わせている。

なお、本件に関してはいくつかの留意すべき点がある。

  1. エネルギー憲章条約とは、エネルギー分野における国際市場取引の促進を目的として定められた法的枠組みであり、全体として、競争力あるエネルギー関連商品や、開かれたマーケットの構築を目的としている。
  1. エネルギー憲章条約の加盟メンバーは、同条約の規定に拘束されることについて合意した国々や地域の経済共同体である。
  1. ある加盟メンバーと投資を行った他の加盟メンバー間における紛争の解消について定める同憲章第26条は、3か月以内に友好的な合意に至らなかった場合、損害を被った投資家が取り得る下記3つの手段を規定している。

a)       一般の裁判所もしくは紛争当事者である加盟国の行政機関に訴えを起こす(非推奨)

b)       予め合意された紛争の解決手順に則り対応する(可能性は低い)

c)      下記3つのいずれかにおいて仲裁の申立てを行う。:

    1. ICSID条約に基づく投資紛争解決国際センター(ICSID)における申立て。ただし、投資家である加盟メンバーと申立ての被告となる加盟メンバーの双方が同センターに属している場合に限る。
    2. 国際私法のための国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)規則によって定まる国際仲裁の専属管轄を有する仲裁人または仲裁裁判所における申立て。
    3. ストックホルム商業会議所仲裁裁判所(SCC)における申立て。
  1. 前出の投資紛争解決国際センター(ICSID)、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)、ストックホルム商業会議所仲裁裁判所(SCC)での仲裁の違いは、ICSIDとSCCには仲裁手続きを管理する仲裁機関をもつ一方、UNCITRALは紛争の当事者と仲裁裁判所のみでの手続きとなり、サポートを行う機関や組織を持たない点にある。
  1. また、ICSIDは、加盟メンバー国と投資家にあたる他の加盟メンバー国の国籍を有する者との間の論争を管轄するのに対し、SCCは民間(個人間)の仲裁手続き及び国と個人との間の仲裁手続きを管轄する。
  1. いずれの場合も、仲裁裁判所(奇数の仲裁人で構成される。通常3名)は独立している。仲裁人は、通常両当事者や仲裁機関により、高名な法律家の中から選出される。
  1. 仲裁裁判所及びその裁定は最終的(上訴不可)、かつ法的拘束力のある(履行義務の生じた)ものである。加えて仲裁の裁定は機密性を有し(双方の合意なくしては、その内容を開示することができない)、裁判例として取り扱われることはない(このため他の仲裁裁判所の仲裁人は、過去の仲裁の判例に倣う義務を負わない)
  1. 仲裁裁判所の決定は過半数によるが、もし不可能な場合は、仲裁廷の長の判断に委ねられる。各仲裁人は、他の仲裁人の意見にかかわらず、それぞれ一票を投ずることができる。

オランダ企業Charanne B.V. 及びルクセンブルグ企業Construction Investments S.A.R.L.の申立てによる初の国際仲裁裁判における裁定は、両社の申立てを退け、再生可能エネルギー分野における法規の変更は投資家の法的な権利を侵害しないと判断をし、スペイン国側に有利な決定となった。しかし、この裁定において仲裁人の一人が反対票を投じたこと、また他の進行する仲裁手続きの前例としてこの裁定が取り扱われないことをふまえて理解すべきだろう。

 

Carla Villavicencio

ヴィラ法律事務所

 

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2016年1月29日