I. 導入

他の西欧諸国に比べれば賃料は低いものの、現在スペインにおける不動産賃貸マーケットは、需要と供給の不均衡が存在し、絶頂期を迎えている。本稿は、賃借人による賃料の不払いや賃借人から占有を回復できなくなることへの懸念から、所有する住居や店舗不動産を賃貸することに猜疑的な不動産の所有者(潜在的な賃貸人)に向けたものである。

本稿では、不動産所有者が直面しうる可能性の高い以下の2つの状況に分けて説明する。

  1. 賃借人が賃貸借契約の有効期間内に賃料を払わなくなる
  2. 賃借人が賃貸借契約終了後も退去しない。

II. 賃料未払いに基づく立退き強制執行

賃借人による賃料の未払いがある場合、当該賃貸物件(住居または店舗)を管轄する裁判所に対し、賃借人立退き請求の訴えを提出することができる。

当該訴えにおいて、その提出時までに未払いとなっている賃料の総額が請求されるほか、手続き中に生じる遅延利息及び手続きの費用についても請求がされる。

裁判所により当該訴えが受理されると、処理手続きがされた後、賃借人に対して以下の通知がされる。

  1. 10日間以内に(i)不動産から立ち退くか、(ii)賃貸人に対して請求金額を支払うか、または(iii)立退きの強制執行の停止を求める場合には、負債のすべてについて支払え(または当該金額について裁判所または公証人に供託を求む)
  1. もしくは、上記期間内に、請求金額について債務を負っていないことの理由を証明する異議の申立ての実行。この場合、裁判所の指定された期日に口頭弁論手続きが行われる。

賃借人が上記10日の期間内に自主的に不動産を明け渡す場合には、立退き手続きはそこで終了する。ただし、請求された金額で未払いのままのものがある場合には、その請求に影響は及ばない。また、賃貸人が立退きの強制執行の停止を容認する場合(このことは、立退きが要求されていたものの、賃借人は不動産の占有を継続することができることを意味する。)の際にも、立退き手続きは終了する。

反対に、賃借人が不動産を明け渡さず、請求金額についても支払わず、さらに訴えについて異議申し立ても行わない場合には、裁判所が定める日時に直接強制執行が行われる(訴えにおいて立ち退きの強制執行が要請されている場合)。

したがって、上述のとおり、賃借人が消極的である場合には、法は、短期間(およそ 2−4ヶ月)で不動産の占有を回復することができるような迅速な手段を用意している。

III. 契約期間または法定期間終了後の立退き強制執行手続き

反対に、賃借人が賃貸借契約期間終了後も不動産の明け渡しに応じない場合、立退き手続きは、賃料不払いの場合のように迅速には進まない。

この場合、当該賃貸物件(住居もしくは事業用店舗)を管轄する裁判所において、賃借人立退き請求の訴えが提出するされると、裁判所によって受理後、当該請求は賃借人に通知され、賃借人は通知受理後10日以内に、書面による答弁書の返送を義務付けられる。

この訴えにおいて、直近の貸料をベースとした不動産の有効な明渡し完了までにかかる月額賃料と手続き費用を請求することができる。

賃借人の書面による答申の要求は、被告(賃借人)が口頭弁論期日当日に裁判所に出頭しない、または、答弁書を提出しない場合には、被告不在の状態で口頭弁論が進められ、以降の手続きなしに判決が言い渡され、裁判所が定める日時に立退きの強制執行が実施されることを意味する(訴えにおいて立ち退きの強制執行が要請されている場合)。

反対に、賃借人が答弁書を提出した場合は、原告被告のいずれかが申請した場合または裁判所が必要とみなした場合には、口頭弁論が開催される。口頭弁論が開催されない場合には、それ以降の手続きなしに判決が言い渡され、裁判所が定める日時に立退きの強制執行が実施される(訴えにおいて立ち退きの強制執行が要請されている場合)。

IV. 結論

上述のとおり、賃貸借契約終了後の立退きの強制執行請求において、建物の明渡しは、判決内容が被告に通知される日までは実行されない(賃借人が裁判所の定める執行日よりも前に自発的に退去しない限り)。

他方、賃料未払いによる立退きの強制執行請求の場合には、賃借人は訴状に関する通知を受領してから10日以内に不動産の明渡しに応じる可能性がある。この場合、賃貸人は賃貸借契約終了後の立退き請求執行手続きと比べ、数ヶ月早く不動産の占有を回復する。

1ヶ月の賃料未払いであっても賃貸借契約の解除権を発生させ、賃借人に対し義務の不履行を理由に不動産の明け渡しを請求する権利が生じることは留意すべきである。したがって、立ち退き請求をするには、一度でも賃料の不払いが生じた時点で賃借人に対して請求した方が、賃貸借契約の終了を待つよりも便宜的であると言えるだろう。

立退き強制執行判決の実行に関しては、近日中に別の記事にて述べる。

 

 

ヴィシャビセンシオ・カルラ (Carla Villavicencio)

ヴィラ法律事務所

 

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2017年2月17日