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各国・各地域で、標準必須特許を巡る議論が活発に行われている。EUにおいて、欧州議会の法務委員会で標準必須特許に関する規則案が2024年1月に採択されたことも記憶に新しい。

日本においては、2022年(令和4年)に、「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(第2版)」が特許庁により発行されている。同手引きは、日本語版と英語版が公開されており、標準必須特許について、誠実性の観点及び効率性の観点からのライセンス交渉の進め方、ロイヤリティの算定方法を解説している。

本記事においては、標準必須特許の概念の説明及び日本の上記手引きのうち、誠実性の観点からのライセンス交渉の進め方の概要について述べる。

I.-標準必須特許

標準必須特許は、標準の規格を実施に不可欠となる特許を指す。

電源プラグや、USB、4Gや5Gのほか、IoTの発達により、さまざまなインフラ機器がインターネットを通じてつながる技術にも、標準必須特許が用いられている。

特許は発明に対する独占的な権利である。そのため、特許権者はその特許発明を無断に使われた場合、法的請求することが可能である。

他方、標準規格は、標準化団体が普及のために定めるものである。

標準必須特許に該当するものについては、実施者が特定の特許発明を使えなければ、当該標準も使えなり、普及という目的が達せなくなる。

そこで、標準策定の際、標準特許の権利者が、標準化団体に対して、FRAND(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory)な条件で実施者にライセンスを与えることを約する宣言をすることが要求されている。

II.-本手引きの内容

 

本手引きの内容は法的拘束力を持つものではない。ライセンス交渉を巡る論点を客観的に整理したものである。

本手引きは、FRAND宣言がなされた標準必須特許のライセンス交渉を対象とするものである。

特許権侵害があれば、特許権者は、原則、差止請求権を行使することができる。しか し、実施者がFRAND条件で誠実にライセンスを受ける意思を有する場合については、各国の裁判所は、FRAND宣言されたSEPの保有者による差止請求権の行使に制限を加えている点で概ね一致していると分析する。

そして、同手引きは、この誠実性を、ライセンス交渉の以下の段階ごとに検討を加えている。

1.特許権者がライセンス交渉の申込みをする段階 、

2.実施者がライセンスを受ける意思を表明するまでの段階、

3.特許権者が FRAND 条件を具体的に提示する段階、

4.実施者が FRAND 条件の具体的な対案を提示する段階、

5.特許権者による対案の拒否と裁判・ADR による解決

同手引きは、第1段階においては、(1)標準必須特許を特定する資料(特許番号のリスト、対照標準規格の名称、特許の地理的範囲など)及び(2)標準必須特許の請求項と標準規格や製品との対応関係を示す資料(クレームチャートなど)を示すことが一般的であるとする。

第2段階については、内容に異論がある場合であっても、当該申込みを放置せずに、特許権者に対して誠実に応答しておくことがリスクを軽減するとする。具体的には、(1)特許が真に必須であるか、(2)特許が有効であるか、(3)実施者が特許を侵害しているか、(4)特許が権利行使可能なものか、(5)権利を行使しているものが特許の真の保有者であるか、(6)特許が消尽していないものであるか、については依然として争うことができるという見解を紹介している。

第3段階では、特許権者は、提示した条件が合理的であり非差別的なものであるかどうかについて、実施者が判断できるよう、ロイヤルティの算定方法に加えて、それがFRAND条件であることを説明する具体的な根拠を示すことが一般的とする。

逆に、第4段階では、実施者は、提示した条件が合理的であり非差別的なものである かどうかについて特許権者が判断できるよう、そのような対案を提示する際には、ロイヤルティ の算定方法に加えて、その対案がFRAND条件であることを説明する具体的 な根拠を示すことが一般的とする。

第5段階については、標準必須特許について調停や仲裁で柔軟な解決が可能である点が言及されている。

標準必須特許のライセンス交渉がある場合には、参照すべき文献である。その他、近年、世界各国で裁判例による事例の集積もあるため、これらも注視していく必要がある。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

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2024年4月12日