1994年の「IHT Internationale 事件」欧州裁判所判決によって収束したとみなされていた、同一の起源をもつ商標権が分割されることで生じる並行輸入の問題について、ある商標にかかる権利の消滅に関する問題が再燃した。バルセロナ商事裁判所第8法廷は、商標に関する2008 年付欧州議会及び欧州理事会の指令第2008/95/EC号(以下、EU指令2008/95/EC)第7条第1項の解釈に関する先行的判決を欧州司法裁判所に最近照会した。

実質上、「SCHWEPPES」の商標はCoca Cola社とORANGINA SCHWEPPES HOLDING BV(日系企業SUNTORYに属する会社)が所有している。1999年CADBURY SCHWEPPES社は13のEU加盟国における商標権をCoca Cola社に売却した。2009年SUNTORY社はCADBURY SCHWEPPES社を買収することで18のEU加盟国における商標権を獲得した。

2014年5月、スペインの会社であるSCHWEPPES, S.A.(イギリスの会社CHWEPPES INTERNATIONAL LTD. の子会社)は、スペインの清涼飲料の流通会社RED PARALELA BCN, S.L.に対し以下の理由に基づき訴訟を提起した。

  1. SCHWEPPES, S.A. は「SCHWEPPES」のスペインにおける唯一のディストリビューターである。
  2. RED PARALELA社は「SCHWEPPES」ブランドのトニックウォーターのボトルを輸入している。
  3. SCHWEPPES, S.A.は、同社の同意なしにCoca Cola社がスペイン市場に「SCHWEPPES」を流通させることは、違法行為に当たると主張する。
  4. RED PARALELA社は、当該商品が、元来Coca Cola社が商標権を所有するEU加盟国で生産されたものであり、したがって黙示の同意が存在するとして、商標権の消滅を主張した。また、Coca Cola社及びSCHWEPPES INTERNATIONAL LTD間の経済的リンクの存在を主張し、商標を共同利用するものであるとした。

バルセロナ商事裁判所は多数の照会状を欧州司法裁判所に送付しており、その照会の多くは、 欧州連合競争法(TFEU)第36条と、一つの商標権を複数のEU加盟国で保有する商標権者に第三者が同一商標権を所有する他の加盟国からの商品の並行輸入を阻止することを認める、EU 指令 2008/95/EC第7条第1項及び2015年付EU指令2015/2436第15条第1項が、両立可能か否かの判断を仰ぐものであった。

つまり、SCHWEPPESはCoca Cola社が「SCHWEPPES」の商標権を保有するイギリスからの同製品の並行輸入を合法的に阻止できるのかが今回の争点となった。

EU法務官Mengozzi氏は、2017年9月12日付で当該案件に関する拘束力のない見解を公示した。以下に同氏の見解を示す。

a) 1994年6月22日付「IHT INTERNATIONALE事件 」に関する欧州司法裁判所判決は、商標権が自発的に分割された場合、譲渡人である商標権者は商標が 有する排他的機能が弱体化することについて容認したものと理解されるが、これは、欧州経済領域の他の加盟国において商標の譲受人によって販売されている商品が、譲渡人が商標権を保有する領土へ輸入されることを譲渡人が阻止する権利の放棄を伴うものではない。したがって、商標権が譲渡された時点で権利が消滅するという原則は適用されない。というのも、当時、商品は市場に流通しておらず、上記原則を適用するための基本的な要件の一つが満たされていないためであるとした。

b) すなわち、欧州委員会は、権利消滅の原則は、同一の商標権を有する商品の製造と販売が、商標権者の一元的政策および商業戦略の一部として実行される場合にも起こりうる、との判断を示したと言えよう。上記見解を法務官自身も支持している。ポイントは、輸入国における商標権者と当該商標を冠する商品を輸出国に流通させた者との間に「経済的リンク」が存在するか否かであるかどうか、又は、同一人物であるかどうかである。

「経済的リンク」とは、当事者間で商標の一元的管理が存在する関係と理解されている。当該理解は、二つの別々の当事者がそれぞれに、輸入国と輸出国において同一の商標権者であると国内において認識されている場合の商標使用時の合同管理をも含む。一元的管理が存在するならば、当該商品の流通を制限するために当該国の法律を頼ることはできなくなる。

c)「一元的管理」とは、商品の流通に関する戦略的決定を負う根拠とみなされる。たとえそれが異なる会社、同一商標を並行して所有者する両者間であっても、それぞれの商標の使用を共同管理することによって共有されている 。しかしながら、ここで再度、上記のような状況の存在を証明する証拠を規定するルールの不在を指摘している。加えて、法務官は、証明の負担(一見したところ、並行輸入者に掛かる負担)は、 特定の場合においては裁判所によって別の当事者に移すこともできる、とした。

結論として、商標の一元的管理があるかどうか、商標権者が輸入国において権利消滅状態にあるといえるための要件を満たしているかどうか判断するための状況の分析及び譲渡契約を含む適切な書類の当事者への請求は、各国の裁判所に一任する、とされている。

 

 

ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)

ヴィラ法律事務所

 

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2017年9月22日