リモートワークの働き方が普及するにつれて、つながらない権利を法制化する国が増えている。スペインもつながらない権利を認めた国の一つである。

日本などつながらない権利が法制化されていない国も多いが、スペインの事業所の運営にあたっては重要である。

そこで、スペインにおけるつながらない権利の法制化の内容や、裁判例を紹介する。

I.- 「つながらない権利」の定義

個人データ保護及びデジタル権の保障に関する12月5日付法03/2018(デジタル権保障法)の第88条は、つながらない権利について、次のように規定している。

  1. 労働者及び公務員は、法律上又は慣習上定められた労働時間外に、休憩時間及び休暇、並びに個人及び家族のプライバシーの尊重を保証するため、つながらない権利を有する。
  1. この権利の行使の方法は、雇用関係の性質と目的を考慮し、労働における活動と個人・家庭生活を調和させる権利を促進し、団体交渉の結果、又はそれがない場合は、会社と労働者代表との間の合意に従うものとする。
  1. 使用者は、労働者代表の意見を聴取した後、管理職を含む労働者に対し、つながらない権利の行使手順、コンピュータ疲労のリスクを回避するための技術ツールの合理的な使用に関する研修・啓発措置を定めた社内方針を作成しなければならない。特に、全面的又は部分的なリモート勤務の場合、及び業務目的の技術ツールを使用する従業員の自宅において、つながらない権利は保護されるものとする。

上記のつながらない権利は、スペイン憲法18条4項の個人及び家族のプライバシーを保護するための情報技術の制限から派生した権利である。

上述の法律は、労働者がつながらない権利を有することは規定するが、それが何であるかは説明していない。

ただ、つながらない権利の内容を明確にした次の判決が存在する。

「休息時間中、労働者はデジタル通信を切断する権利、すなわち、業務上の理由で会社や同僚からのメッセージを受信しないように、自分の機器や通信手段を非アクティブに保つ権利を有する」(労働判決第549/2021号、マドリード高等裁判所労働部、セクション2、2021年6月9日付Rec 318/2021)

上述のつながらない権利は、リモートワークを行うか否かを問わず、保障されるものである。

II.- リモートワーク法上のつながらない権利

しかし、つながらない権利は特にリモートワークを行う場合により頻繁に問題になりうる。

そこで、リモートワーク法第18条第1項は、リモートワークにおけるつながらない権利を保障する。

リモートワークをする者は、特にテレワークにおいて、デジタル権保障法第88条で定められた条件の下、勤務時間外につながらない権利を有する。

つながらないことを保証する使用者の義務は、休憩時間中の業務上のコミュニケーション及び作業の技術的手段の使用の制限、並びに労働日の最長時間及び適用される法律又は従来の規則に規定される労働日に関する制限及び注意事項の尊重を伴うものである。

また、テレワーク法第18条第2項は、デジタル権保障法第88条第3項と同様の義務を会社に課している。

III.- つながらない権利に対する制限

つながらない権利について、これに対する制限を設けることも可能ではある。しかし、次のような規定が問題になった事例においては、当該規定が無効と判断されている(全国管区裁判所判決3月22日付44/2022)。

「従業員は、本条項に示す正当な緊急性がある場合を除き、勤務時間が終了した場合、手段を問わず、いかなる連絡にも応じない権利を有する。

従業員は、本条項に示す正当な緊急事情がない限り、勤務時間が終了してもデジタル機器に応答しない権利を有する。

正当な緊急事態とは、会社または事業に損害を与える可能性があり、従業員による即時の対応または注意を必要とする一時的な緊急性がある状況を指すものとする。」

このように、つながらない権利に対する制限について、曖昧な規定を設けることは、無効と判断される可能性がある。

つながらない権利について、ご不明な点があれば、お問合せください。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

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2023年8月25日