直近の2021年2月15日判決において、憲法裁判所第1法廷は、仲裁決定第52-2017号の取消し手続きの枠内において、公序違反を理由に、仲裁決定の取り消しを認めるマドリード高等裁判所民事及び刑事法廷の判決に対する上告を支持した。

本事件の経緯

憲法裁判所に対する上告の理由となった本件手続きの事実背景及び経緯は以下のとおりである。

a) 問題の根底は、ある有限会社(L.)の少数株主と大株主との間の紛争に端を発している。

b) 当該会社の定款は、株主と会社、又は株主同士で生じる可能性のある問題については、仲裁にて解決するとしている。

c) 2016年4月、少数株主は、権利及び地位の濫用と会社合意の喪失を理由に、大株主及び当該会社に対する仲裁申立てを行った。当該申立てにおいて、少数株主は、自らの退社権又は会社の解散・清算を要請した。

d) 2017年4月、会社の解散とそれに続く清算手続きの開始を宣言する仲裁決定がなされた。決定内容には取締役の解任も含まれていた。当該決定は2017年5月の仲裁決定によって明確にされた。

e) 大株主は、法定又は定款に定める解散事由に該当することなく会社の解散・清算を決定することは公序に反するとして、当該仲裁決定に対する異議申し立てを行った。

f) 2018年1月、マドリード高等裁は2017年4月及び2017年5月の仲裁決定を取り消す申立てを認める判決を出し、これら2つの決定について無効を宣言した。

大株主が主張した3つの根拠のうち、マドリード高等裁は最初の2つについては、以下の理解に基づき、否定した。

1) 会社の目的の達成が不可能となったことや会社の運営組織の機能停止といった法定の解散事由と比較し、大株主の権利濫用及び会社合意の喪失を理由にある会社の解散を命令するという事実それ自体は、同様の事例にて会社の解散を認める判例もあることから、それだけで公序に反するものではない。

2) 有限会社の株主間における既存の紛争で再発した確定した司法決定は、仲裁決定と矛盾しないため、仲裁決定の宣告、具体的には会社の解散及び清算は、既判力の原則に関するスペイン憲法第24条第1項に定める有効な司法保護を侵害しない。

代わりに、マドリード高等裁は、前述の効果的な司法保護の権利(憲法第24条第1項)の侵害を理由に、仲裁法旧第41条f)号の公序違反の主張を認めた。その理由として、当該仲裁決定は、提起されたすべての疑問点にこたえているものではなく、また、提出された証拠の全部について評価をしていない。よって、当該決定は十分な理由づけに欠ける恣意的なものとみなされるべきと理解していることを述べた。

g) 本判決に対して、少数株主は手続きの無効を求める例外的な申立てを行ったが、この申立ては2018年5月25日のマドリード高等裁決定により却下された。

h) 続いて、少数株主は、不合理、恣意性または明白な誤りのない合理的な決定を受ける権利において、有効な司法保護を受ける権利(憲法第24条第1項)の侵害があったことを理由に、憲法裁判所に対し、マドリード高等裁判所の判決及び決定について上告を申立てた。

i) 大株主及び会社側は、憲法裁判所に対し、上記上告の却下を申立てた。

j)他方、検察庁は、2018年1月8日付判決及び2018年5月22日付決定は有効的な司法保護の権利侵害であるとして、憲法裁判所に上告内容を支持するよう促した。

2021215日付憲法裁判所判決

2021年2月15日付憲法裁判所判決は、2020年6月15日付憲法裁判所判決第46/2020号に含まれる憲法上の教義に言及し、少数株主により提出され、検察庁によって支持された上告を認めた。以下の3点が主要論点である。

I. 仲裁決定の取り消し事由(第41条f号)としての「公共の秩序」の概念は、限定的に解釈されるべきである。したがい、憲法裁判所は公共の秩序の根拠は、「仲裁人が到達した基準の差し替えを、仲裁決定の取消しを審理する裁判官による置換を許容するものではない。(…)また、本件仲裁決定に適用された事実及び権利にかかる二度目の検証を行うものでも、判例の正しい適用のための管理メカニズムでもない。したがって、改めて強調すべきは、仲裁決定が恣意的、非論理的、不条理、または非合理的であるとして取り消すことができない場合、公共の秩序の概念を拡大して、その無効を宣言することはできない。」と述べた。

II. 仲裁決定の根拠について、憲法裁判所は、「裁判所の判決は、憲法第24条の有効な司法保護の権利固有の要請であり、」裁判所判決が有する根拠の義務の性質は仲裁決定のそれと同様の性質ではないことを確認した。「しかしながら仲裁決定については、両当事者が仲裁決定の発せられる条件について合意に至っていない場合を除き、上記の義務は仲裁法第37条第4項に含まれている」としている。また、憲法裁判所は、非合理的、恣意的、または明白な誤りがある仲裁決定のみが(憲法第24条第1項ではなく)仲裁法第37条第4項の弱者の防御権の申立て対象となると示した。また、「仲裁法第37条第4項は単に『仲裁決定は常に根拠を示す』と定めているが、仲裁人が当事者から提出されたすべての主張について決定をしなければならない、または、事実についての決定を行うための根拠となった証拠を示さなければならない、または証拠間における優劣を定めなければならないとは、明確に定めていない。」と加えた。

III. 公正な仲裁に関して、憲法裁判所は、「当事者が公正な仲裁に服するとき、仲裁人が法的知識でその認識と理解を強化する可能性を必ずしも排除するわけではないものの、仲裁人は法規範を無視し、その適用から導かれるのとは異なる理由付けに訴えることができる。なぜなら、ex aequo et bono”(ラテン語:衡平と善によって)で解決されるものは、公正または公平な考察によって決定されるべきだからである。」と定めた。

さらに憲法裁判所は「仲裁廷は、事件のすべての環境を考慮し、最も公正かつ公平であると思われる解決を選択するための唯一の管轄機関であり、これは、当該解決が法規範の適用に基づく結果と両立不可能な場合も含む。」と加えた。

上記をふまえ、憲法裁判所は以下のように結論づけた。

「仲裁決定の取消し行為は、極端かつ例外的な救済策であり、純粋に形式的な違反にのみ基づくことはできず、有効かつ現実の孤立無援状態や基本的人権の侵害の是正又はスペインの公の秩序の保護のためにのみ資するべきである。そして、当事者の権利や法的状況を著しく損なうことなく、手続き上の違反が仲裁決定の取消しを達成するための言い訳として使用されることは排除される。」

最後に、憲法裁判所は、(仲裁法第37条規定にある)理由の不十分さにより仲裁決定を取り消すマドリード高等裁の決定は、判決の合理性規範(憲法第24条第1項に反すると理解し、結果として、(1)憲法第24条第1項違反により、上告人の効果的な司法保護を受ける権利が侵害されたこと及び (2) マドリード高等裁の判決及び決定の無効を宣言し、(3) 認められた基本的人権を尊重した形でマドリード高等裁が解決できるように、問題となった判決が出される前の状態に手続きを差し戻した。

コメント

読者も想像できるように、2021年2月15日付憲法裁判所判決は、スペインにおける仲裁決定の司法によるコントロールの範囲は明確に定められていることから、国内外の仲裁業界から広くコメントされ賞賛されている。また、仲裁決定の取消し行為は、手続き上の誤りがあった場合にのみ認められる、究極かつ例外的な救済策であり、仲裁法第41条f)号の公の秩序の概念とは区別される。これらのすべては、仲裁による紛争解決に法的安全を提供し、裁判官と仲裁人の平等化に向けた大きな前進を示しているといえる。

 

 

ビシャビセンシオ・カルラ (Carla Villavicencio)

ヴィラ法律事務所

 

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2021年3月12日