国立裁判所(Audiencia Nacional)は、2020年6月11日付の中央経済行政裁判所(TEAC)の決定に対する異議申し立てについて、株主総会で正式に承認されていない取締役報酬の、法人税上の取り扱い関する見解を示した。

本件は、2011年から2014年の会計年度を対象としており、主に以下の二点が争点となっています。

1. 取締役会メンバーおよび代表取締役に対する支払の損金算入の可否

2. 経済的利益団体(AIE)を通じた映画投資の損金算入

事案の経緯

本件では、会社側が国立裁判所(Audiencia Nacional)に対して、中央経済行政裁判所(TEAC)の決定に異議を申し立てている。TEACは、税務署の更正処分に対する会社の請求を一部認める内容であったが、この処分は不服申立書に基づくものであった。

税務調整の対象となったのは、主に以下の二つである。

1. 取締役報酬:取締役会会長兼代表取締役に支払われた報酬について、会社法上求められる株主総会の承認要件を満たしていないとして、損金算入が否認された。

2. 映画投資の損金算入:経済的利益団体(AIE)「フューリア・デ・タイタンズ」への出資について、税務当局はこのAIE団体が映画製作会社としての資格を有していないと判断し、損金算入を否認した。

国立裁判所(Audiencia Nacional)は、両方の争点について審理し、適用される法律上および判例上の要件を明らかにした。

取締役報酬について 

TEACは、取締役の業務を経営上の実務的業務(生産管理、営業、財務・管理サポートなど)と、取締役会メンバーとしての会社法上の職務に区別した。

取締役報酬として認められるのは後者に該当する金額のみとされ、部分的な損金算入しか認めなかった。

しかし、国立裁判所(Audiencia Nacional)は次の点を強調した。

  • 支出は実質的かつ正当であること:取締役の実務的業務は問題とされず、支出も適切に会計処理され、収益との関連性が確認されていた。
  • 定款と株主の承認状況:定款には取締役報酬の支払いが定められており、主要株主はサービス提供契約の内容を把握し承認していたほか、契約締結にも積極的に関与していた。
  • 株主総会と単独株主会社の場合:会社に唯一の株主が存在し、その株主が株主総会の権限を行使している場合、形式的な承認を厳格に求めることは合理的ではない。このような場合に損金算入を否認することは、過度な形式主義となり、規定の趣旨に反することになるとされた。

近年の判例もこの考え方を支持している、例えば、2023年11月2日付の最高裁判決では、取締役会のメンバーでもある代表取締役への報酬は、実務的な業務が実際、効果的に行われている場合には損金算入が認められるとされている。さらに、2023年6月27日付の最高裁判決では、定款に取締役報酬の支払いが定められており、単独株主が十分に承知している場合には、株主総会での形式的承認がなくても、その支払いを損金不算入にすることはできないとされている。

このため、国立裁判所(Audiencia Nacional)は、これらの報酬を損金算入できないとして拒否することには法的根拠がなく、TEACの決定を取り消すべきであると結論付けている。

結論:
国立裁判所の判決は、税務実務および企業運営において重要な判断基準を明確にした。

1. 取締役報酬の損金算入:損金算入の可否は、株主総会での形式的承認だけに左右されるものではなく、実際かつ効果的な業務の遂行および大株主や単独株主の承知があることが前提となる。

2. 過度な形式主義の回避:全ての株主が十分に承知している場合に、株主総会での承認を求めることは、形式主義の濫用となり、損金算入に影響を与えることはできない。

3. 法的安定性:判例の基準により、会社は費用の損金算入についてより高い確実性を持つことができ、経済的・会社実態を反映しない形式的手続きによる不当な罰則を回避できる。

本判決は、税法および会社法の規定を実務に即した一貫性のある解釈へと前進させるものであり、費用の損金算入の適法性を保護するとともに、形式的な要件による納税者の権利侵害を防ぐ重要な判断となっている。

 

 

松岡研吾

ヴィラ法律事務所

 

更なる情報を知りたい方は以下までご連絡下さい。

va@vila.es

 

2025年 9月12日