資本会社における取締役が、現在ほど多くのリスクと責任を背負ったことは未だかつてない。経済的観点からは、おそらくこれが取締役の本質的責任であろうが、取締役には会社の存続だけでなく、実質的に株式会社が設立される目的とも言える株主/出資者への配当や利益分配の確保が求められる。しかしながら、本目的は、いかなる方法及び手段によって達成可能なわけではなく、定款や法律に定められた規則に従って達成される必要がある。故に取締役は、その行為が利益、あるいは損害をもたらすかに関わらず、第三者や株主/出資者に対しても、違反を禁ずる所定の行動規範に従わなければならない。
取締役に課される法的義務には、資本会社における組織的、代表的、および執行的な職務遂行時の忠実義務を含む。当該義務は、具体的には、スペイン資本会社法第227条以下に定める。立法者の示した定義には、形容詞や抽象的概念を含む。そのため、事案毎の状況を鑑みて、理論上の概念と取締役の作為または不作為を対比した上での分析が必要となる。
同227条は以下を定める。
「取締役は、会社の最善の利益のために、忠実かつ誠意ある代表者としての忠誠心を持って職務を遂行しなければならない。」
取締役の行動に関する本定義の第1要素は、「忠実かつ誠意ある代表者」であり、これは「秩序ある経営者」という概念に基づくと同時に、会社および株主に対する忠実さと行動の正当性という要素を含む。本稿の分析に関連して、取締役に求められる忠実な行動とは、資本会社法第228条e項が明示的に定めるように、利益相反の事態、すなわち取締役自身の利益と会社、あるいは社会的利益との間で対立が生じる状況を回避することを義務付けるものであることを、強調すべきであろう。
そして忠誠心ある行動の第2要素は、具体的には法律上は定義がないが、スペイン最高裁判所の判例によると「全株主/出資者の利益(株主の個々の利益の総和)」を指す「会社の利益」である。本概念に関する最も重要かつ直近の判決の一つとして、2021年12月21日付最高裁判所判決第889/2021号を挙げる。
結果として、取締役の忠実な行動は、会社および全株主に対する忠誠心に基づいて実行されるべきであり、職務遂行にあたっては、取締役は自身の利益よりも会社および株主の利益を優先させることが求められる。
忠実義務に違反した取締役は、悪意または過失がある場合は、会社および株主に対して生じた損害について責任を負う、とされている(スペイン資本会社法第236条)。加えて、その作為(または不作為)が法律または定款に反する場合、反証がなされない限り、過失があったものと推定する。
他方で、取締役に対する責任追及は、個人責任追及訴訟(la acción individual)、もしくは会社責任追及訴訟(la acción social)によって実行される。資本会社法第241条は前者を定め、 取締役の行為によって直接的に損害を被った株主や第三者の提起を可能とする。一方、会社責任追及訴訟(同法第238条)は、取締役の不法行為または義務違反により会社資産に直接的に生じた損害の回復を目的として提起されるものである。例外を除き、社員(出資者)総会または株主総会の事前の承認を必要とする。
利益相反的状況に由来する忠実義務違反行為
取締役責任追及に関する最も頻繁な動機の一つとして、利益相反の状況下における取締役の行為がある。スペイン資本会社法第229条は、取締役に利益相反的状況の回避を義務付ける。そこでは具体的な6事例を列挙し、禁止行為による受益者が取締役の関係者である場合にも同様に本禁止規定が適用されることを定めている。上記に関わらず、2020年11月17日付最高裁判所判決第613/2020号にて明らかにされたように、資本会社法第229条に定める禁止行為の一覧、および同法第228条に定める忠実義務より派生する基本的義務は、例示的なものであることには留意を要する。
同様に、資本会社法第230条第1項に定める取締役の忠実義務及び違反に対する責任に関するレジームにも、留意すべきである。ただし、同条第2項にあるように、利益相反的状況における取締役の禁止行為(資本会社法第229条)は、絶対的性質を有さない。これらは、株主総会決議を通じて会社側から責任免除を可能とする点において、「相対的」な禁止事項といえよう。当該免除のメカニズムは、有限会社(Sociedad Limitada)の場合にも、会社、及び1人もしくは複数の取締役間のあらゆる種類のサービス提供または請負関係契約の締結、または修正に適用され、これらは株主総会決議による免除がない限り禁止されている。当該行為の実施前の免除、もしくは事後の追認としての免除も可能とされている。
取締役と、その取締役と利害関係にある個人または法人との間で締結されるサービス提供契約は、前述の利益相反の状況の好例となる。当該契約締結に際して利益相反の存在を株主総会に報告せず、かつ必要な免除を取得しなかったことは、それ自体が忠実義務違反に該当する。本行為は、提起される会社責任追及訴訟との関連性にかかわらず、忠実義務違反の性質を有するものであり、これは2025年3月20日付スペイン最高裁判所判決第449/2025号においても確認されている。同判決の第8項の法的根拠に付随的に含まれているこの見解は、個人および会社の責任追及訴訟がいずれも、社員や第三者、あるいは会社自体に生じた損害の回復を目的としており、いずれの場合も回復的な性質と目的を有しているという点において重要である。
したがって、取締役の行為が法律や定款に反するとしても、会社に実質的な損害をもたらさない場合、たとえ申立てられた忠実義務違反の存在が立証されたとしても、会社に対する訴訟の結果は、実質的に無効か、あるいは無視できる程度のものにとどまるであろう。
この点に関しては、2025年9月11日付バレアレス地方裁判所判決の引用が適切であろう。同判決では、株主総会への事前報告およびそれに伴う免除手続きを経ずに2人の親族を雇用した取締役の忠実義務違反の有無が争点となった。被告らは、当該雇用が会社に何ら損害を与えておらず、むしろその逆で、彼らを雇用して以来、業績は著しく改善したと主張した。同地方裁判所は、他の諸事情や当該行為がもたらした最終的な経済的結果ではなく、その存在が客観的に確認された取締役の忠実義務違反に焦点を当てている。同判決は、被告である取締役らが総会の過半数を占めていたため、いずれにせよ総会における承認は得られていたはずである。したがって総会への議題提起は不要であったとする被告らの主張を退けた(ただし、実際には、彼らは総会に本議題を提起することはなかった)。そして、前述の最高裁判所判決第449/2025号を引用し、「通知は明示的なものでなければならない(…)一人取締役が株主総会に対して通知を行わないことは、それ自体が忠実義務違反を構成する」と強調している。
忠実義務違反の有無、および生じた損害への判断にあたり、本バレアレス地方裁判所判決は、本件被雇用者らの行為に起因する会社の利益増加という間接的効果についての判断を避け、また、彼らへの報酬の適正性についても分析を行っていない。単に、当該雇用契約によって会社が被った損害は、取締役が雇用した同人の兄弟が受領給与額に具体化される。それは彼らとの単なる雇用契約に起因し、判決は「実行権限を付与する適切な会社機関の承認が存在しないまま、会社が支払いを実行した」とみなした。要するに、非難されるべき行為とは、株主総会の承認や認識すらなしに、取締役の関係者2名を雇用したこと(それ自体)であり、それが会社経営に最良の結果をもたらしたとしても、忠実義務違反が生じたことを排除するものではない、とした。
しかしながら、本件「損害」を、取締役の利害関係者が受領した報酬額と同一視する見解は、批判を免れない。被雇用者の行動が会社に有益な成果をもたらしたことを、暗黙的であるにせよ認める一方で、 利益相反の状況下で雇用されたという理由だけで、当該人物への支払いが会社資産に対する損害を構成すると解釈することは、矛盾してように思われる。
最高裁判決第449/2025号が適切に区別したように、忠実義務違反と、会社責任追及訴訟における違反との関連性は、区別して語られるべきであると考える。非難対象が忠実義務違反である場合(違反自体、かつ会社への損害効果とは無関係に)、当該雇用契約は、株主総会での承認がないために無効とすべきである。そして、本無効の遡及的効果の結果として、受領金額の返還が請求されることになる。一方、バレアレス地方裁は、被雇用者への支払いを自動的に実質的な損害とみなした。当該契約が会社資産に損害を与えただけでなく、逆説的に利益をもたらしたことを鑑みると、この判断は少なくとも批判対象となるべき、もしくは、不適切であるように思われる。
会社責任追及訴訟の構造において、忠実義務違反は、会社自体に損害をもたらしたものでなければならず、それが賠償対象となる損害であること(スペイン最高裁判決第449/2025号)を念頭におく。本件における損害とは、雇用契約締結の結果として、会社にとって不利益となる行為が実行された場合にのみ存在し得る。つまり、報告義務の違反や株主総会の承認による免除といった事柄を超えて、不利益をもたらした行為の存否、および存在する場合の損害額の算定を決定するための本質的な問題として分析されるべきものであると考える。純粋なる忠実義務違反は、常に会社資産への損害を引起すとみなすことは、論理的でないし、バランスを欠くように思う。この損害は、実際に生じた場合にのみ成立するものであり、裁判所は事案の具体的な事情に照らしてこの点を分析する義務を有す。
本件取締役と利害関係にある契約者が受領した金額について、会社財産に対する実害がない場合に取締役が返還義務を負うのは、実際には、取締役に禁止されていた法律行為として契約締結日に遡って無効と宣言されたことに由来する。つまり、本法律行為は、株主総会の事前承認、あるいは事後追認の不在ゆえに、当初から瑕疵があったと判断できる。すでに他の判例で検討された事案とは異なり、本件バレアレス地方裁判決で扱われた事案において、取締役の兄弟二人と締結した雇用契約は、「不必要性の推定」に該当するとはしていない。労務は実際に提供され(裁判所もこれを否定していない)、会社にとって有益な効果をもたらしたため、不要支出でもなく、会社資産に損害を与える結果ともならなかった。したがって、損害賠償を認めるためには、実害の有無を審理することが不可欠である。雇用契約解除、および関係者への支払額の返還請求の法的根拠となるのは、損害ではなく、単に忠実義務の違反であるに過ぎない。以上のことから、会社責任追及訴訟においては、取締役と関係者間で締結した雇用契約を無効とする判決を下し、関係者に受領金額の返還が命じられる一方で、当該行為が会社の利益または財産に具体的な損害をもたらしていない場合には、損害賠償責任を免除する結果となる可能性が十分にある。
最後に、取締役が忠実義務に違反して関与した、会社の特定行為や法律行為の適法性を争う訴訟手続きにおける会社負担の訴訟費用について、端的に言及する。取締役が関与した特定の行為や法律上の取引の適法性を(無益に)擁護するために会社が負担せざるを得なかった費用は、最終的に忠実義務違反が取締役の行為によって引き起こされたと立証された場合、当該取締役が訴訟手続上会社代表者として、行動した際、会社の利益というよりはむしろ自身の利益を擁護するために動いていたことを理由に、当該取締役が負担すべきである。
ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)
ヴィラ法律事務所
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2026年3月20日