2026年6月26日、欧州連合官報において、EU域内における外国直接投資(FDI)の審査に関する新たな枠組みを定める規則(EU)2026/1386が公布された。

本規則は、EU圏外からの投資を受けている、または将来的に受ける可能性のある企業に加え、事業譲渡、増資、海外投資家の受入れを検討している企業にとっても重要な内容となる。

審査制度の目的 

海外投資審査制度は、第三国の投資家が欧州企業の経営または支配に実質的な影響力を及ぼす持分を取得しようとする場合において、その企業が防衛、エネルギー、重要技術、基幹インフラなどの戦略的分野で事業を営んでいるときは、加盟国が事前承認を義務付けることを可能とする制度である。

もっとも、これは海外投資を一律に制限する制度ではない。EUは引き続き外国投資を成長と競争力の源泉として促進しており、本制度は、安全保障または公共の秩序を損なうおそれがある限られた分野においてのみ適用される監視メカニズムである。

スペインでは2020年以降、海外投資に対する事前承認制度が導入されている。今回の新規則は、全27加盟国に対して同様の制度の整備を義務付けるとともに、その最低限の内容を確立させ、さらにどう承認制度の適用対象範囲を大幅に拡大した点に特徴がある。

現行制度との主な相違点

現行の規則(EU)2019/452は、加盟国と欧州委員会との間における情報交換および協力の枠組みを設けるにとどまり、加盟国に対して国内審査制度の整備を義務付けるものではなかった。

これに対し、新規則は、すべての加盟国に対して共通の最低基準に適合した事前承認制度の導入を義務付けることで、この状況を大きく変更した。

実務上、最も重要な改正点は、「海外投資」の概念が拡大されたことである。すなわち、EU域内に設立された子会社を通じて行われる投資であっても、その子会社が第三国の投資家によって直接または間接的に支配されている場合には、新たに審査対象となる。

従来、このような投資は審査対象外とされていたことは、EU司法裁判所が2023年7月13日のC-106/22事件(Xella Magyarország)**判決において確認している。

同件では、第三国に所在する株主が支配する子会社(EU域内の)によって行われたハンガリー企業の買収について、投資がEU域内法人を通じて行われたことを理由として、審査対象から除外されていた。

これに対し、新規則は判断基準を改め、投資の審査に当たっては、投資がどの法人を経由して実行されたかではなく、投資家の実質的な所有関係および支配関係を考慮することを求めている。

審査対象となる分野

新規則は、すべての加盟国が事前承認制度の対象としなければならない戦略的分野を定めている。

対象には、防衛関連製品およびデュアルユース品、半導体、量子技術ならびに一定の人工知能技術などの重要技術、戦略的重要原材料、ならびに加盟国が重要と認める運輸、エネルギーおよびデジタルインフラなどが含まれる。

人工知能については、宇宙・防衛用途またはシステミックリスクを有するモデルに限定されており、あらゆるAI技術が対象となるわけではない。

これらの分野に該当しない企業は、原則として新制度の影響を受けない。一方、対象分野で事業を営む企業については、外国投資家が支配権を取得する投資を行う場合、取引完了前に事前承認を取得する必要がある。

加盟国と欧州委員会との権限分担

投資を承認、条件付き承認または拒否する権限は、投資を受け入れる加盟国に専属する。

新規則は、欧州委員会に加盟国の決定を覆す権限を付与していない。

欧州委員会および他の加盟国は意見書または見解を提出することができるが、受入加盟国はこれらを十分に考慮し、異なる判断を行う場合にはその理由を説明しなければならない。

もっとも、最終的な決定権は引き続き加盟国に留保されている。

したがって、本制度はEU機関への権限集中ではなく、加盟国間の協力を強化する仕組みである。

適用開始時期

本規則は、公布から20日後の2026年7月16日に発効した。

もっとも、この時点で効力を生じるのは、情報通信システムや欧州委員会の共通データベースの整備など、制度運営に必要な準備的・制度的規定に限られる。

企業に直接影響する実体的規定、すなわち事前承認義務、対象分野の指定、二段階審査手続および既に実行された投資の事後審査制度については、2028年1月17日から適用される。

それまでは、スペインにおける現行の外国投資審査制度が引き続き適用される。

実施済み投資に対する事後審査

最後に、新規則は、加盟国当局に対し、制度適用開始後、既に実施された外国投資について職権で審査を行う権限を付与している。

事前審査の対象とされなかった投資については実行から最長5年間、本来承認が必要であったにもかかわらず承認申請が行われなかった投資については最長24か月間、事後審査を行うことが可能となる。

もっとも、この権限は2028年1月17日以前に完了した取引には遡及適用されない。

しかし、同日以降に実施される投資については、取引完了後も一定期間審査対象となり得るため、対象企業はM&Aなど投資案件を検討する際、この点を十分考慮する必要がある。 

新規則は、EUにおける海外投資審査制度を強化するとともに、その適用範囲を拡大した。とりわけ、投資家の形式的な所在地ではなく、実質的な支配関係に着目する枠組みへと転換した点は大きな変更である。

今後、企業は海外投資家との資本提携やM&Aを計画する際、投資家の支配構造を含めた海外投資規制の分析を、取引の初期段階から重要な検討事項として位置付けることが求められる。

 

松岡研吾

ヴィラ法律事務所

 

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2026年 7月24日