裁判所選択合意(とりわけ、管轄合意又は明示的裁判管轄合意としても知られている)は、国際契約においてよく見られるものである。当該合意により、契約当事者は自主的に選択した裁判所の管轄に服し、当該裁判所が当事者間の法的関係から生じる可能性のある紛争を審理する管轄を有することとなる。特定の裁判所を選択することにより、当事者は法的安定性と予測可能性を得ることができ、当事者間の法的関係が拘束される可能性のある他国の裁判所における訴訟の提起をを回避することができる。
裁判管轄合意にかかる規則の枠組みは、その複数性と分散性を特徴としており、国内法令(司法権にかかる組織法第22条bis)と国際法令(基本的にはブリュッセルI規則第25条、裁判管轄選択にかかる2005年ハーグ条約及び2007年ルガノ条約第23条)とが共存している。近年、国際私法の分野において、国際的な裁判管轄にかかる解決メカニズムとして当事者意思の自律性の役割への認識が明白化してきている。これは欧州立法者による大規模な規制により可能となり、裁判所の選択合意を締結する可能性がより多くの問題へと拡大された。
当然のことながら、裁判管轄合意の拡大は国際私法において当該合意が提供する利点が多くあるという理由に基づく。物権法の観点からは、裁判管轄合意による主な利点は、当事者が法的安定性をもって国際取引を行うことができることである。国際的要素を含む法的関係においては、当該法的関係がなんらかの形で関連している国の裁判所で、一方当事者が他方当事者を訴えることができる。場合によっては、両当事者は、日和見的な司法戦術(フォーラム・ショッピング)を採用したり、相手方からの訴訟提起への懸念から、相手方に未知の管轄区域で訴訟を起こさせ、それにかかるすべての費用を負担させることを狙って、先願主義に急いだりといったことも行われる。これらのすべては、当事者間の法的関係を定める契約内に明示的な裁判管轄合意を含めることで回避することができる。これにより当事者は、訴訟の原因となる紛争が生じる前に、どの裁判所が当事者間の紛争にかかる管轄裁判所となるのかを知ることができ、したがって管轄に関する訴えを起こす必要がなくなる。
より実務的な観点からは、裁判管轄合意は考慮すべきコスト削減に資すると考えることもできる。例えば、複数の国に拠点を置く企業の場合、原則として、拠点を置くすべての国で訴訟が生じる可能性がある。しかし、当該企業が、国際的な商事活動から生じるあらゆる訴訟にかかる管轄を単一の地域の裁判所に集中させることができれば、複数国において同時に訴訟が起こされ、そのすべての司法手続きで防御を行わなければならない場合に生じる莫大なコストを節約することができる。
さらに、裁判管轄合意を行うことで、当事者は紛争について最善の解決策を提供するだろうと思われる裁判所を選択することができる。当事者は、自らの法的関係について最もよく認識をしており、自らの紛争解決のための最善な方法を決定する特権的な立場にある。この管轄裁判所の選択は、様々な要因による可能性があり、それらはすべて有効であり、いかなる場合においても管轄合意の法的有効性に条件を課すことはない。
この意味において、当事者が当事者の居住国以外の中立国の裁判所を管轄裁判所として選択することは一般的である。当事者は当該国における訴訟手続きのスピード、司法制度の質、訴訟費用、又は、当該国の裁判所が当事者間の契約の目的となっているテーマについて特化している等の理由から、このオプションを選択する傾向がある(例えば、海事事案におけるロンドン高等裁判所など)。
最後に、管轄裁判所の選択は、当事者間の商事的な交渉の要素として、それ相当の役割を果たす可能性がある。当事者が製品の価格、納期、当事者間の義務について交渉するのと同様に、当事者間で生じる紛争を管轄する裁判所の選択も交渉の対象となる可能性がある。したがって、当事者の一方がより良いビジネス条件を提供した場合、他方の当事者は代わりに自身の居住国の裁判所を裁判管轄とすることを提案することは理解できる。
慨すると、裁判管轄合意は、企業がその国際的な法的関係において法的安定性と予測可能性を得るために利用できる優れた手段としての役割を果たす。また、それを採用することで、発生する紛争の裁判外解決に悪影響を与える可能性のある日和見的な行動を回避し、訴訟回避及び当事者のコスト削減を行うことができるものと考える。
ルビオ・ジョアン・ルイス (Joan Lluís Rubio)
ヴィラ法律事務所
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2022年3月11日