本稿では、スペインにおける企業分野、すなわち、同一グループ会社間で発生した紛争を解決するための代替手段としての仲裁の規制内容を概説し(当該概念には、商業仲裁や商事仲裁と一般に呼ばれる、会社間の事業活動の発展の中で発生する可能性のある紛争仲裁は含まれない)、当該規制によって提起される法的問題について言及しようと思う。

スペインにおいて企業間紛争仲裁手続きは長い歴史的伝統を有するが(現在も施行中である1885年スペイン商法によって、一時中断されていた)、2003年12月23日付仲裁に関するスペイン法律第60/2003号(以下「仲裁法」という)を改正した2011年5月20日付法律第11/2011号にて第11条bis (改正条項)及び第11ter (第2改正条項)が規定されるまで、本件にかかる法的根拠を見出すことはできなかった。

仲裁法第11条bisは、以下のように規定する。

11bis 定款仲裁条項

    1. 資本会社においては、発生する紛争の仲裁による解決を可能とする。
    2. 仲裁付託を規定する条項を定款に導入するには、資本金に応じて発行された株式または出資持分に対応する議決権の3分の2以上の賛成票を必要とする。
    3. 会社の定款に、株主総会もしくは取締役会決議への異議申立てにつき1名以上の仲裁人の判断に委ねることが可能とし、仲裁手続き、及び仲裁人の選任を仲裁機関に委託する旨を定めることができる。

上記を踏まえ、以下のような検証が可能となる。

a)「定款仲裁」という用語には、定款に規定される仲裁条件のみが含まれる。スペイン資本会社法第 29 条に規定されている株主間の内部合意や定款外合意は仲裁法第11条の対象から除外されることとなり、一般の制度が適用される。

b)「資本会社」とは、(資本会社法第1条に基づく)有限会社、株式会社、有限合資会社に限定されるため、合名会社、設立中会社もしくはイレギュラーな会社、財産共有団体ともいうべきcomunidades de bienes等その他の団体はここに含まれない。

これらのケースにおいて、一般的に営利企業の株主間に発生した法的問題のうち、特定の事項に関しては仲裁解決の可能性を提示していると理解されるが、本解決方法付託に関する法規定は存在せず、1998年2月19日付登記・公証局決定及び1998年4月18日付最高裁判所判決第355/1998号に法的根拠を求める必要があろう。

c)「発生する紛争」への言及は、広義な意味における商事会社の内部で発生する全ての 係争に、仲裁法第2条規定に従い法の下での仲裁に適した事項に言及していることを条件に、紛争仲裁の可能性を主張することを可能とする。

d) 定款に仲裁条項を含めるためには、仲裁法第11条bisの2項においては、「特別決議」にあたる3分の2の大多数(資本会社法第199条において、取締役が自らもしくは他者のために、会社目的を構成する活動と同様の、類似した、若しくは補完的な活動を行うことを認可する際、増資時の株主割り当ての抑制または制限や、会社の変容、合併、分社化、資産・負債の世界的な譲渡、海外への本店移転、株主の排除、定款変更には過半数以上の議決権が必要とされる。)に相当する賛成が必要となるとしている。

従って、会社設立時に仲裁解決条項が定款に含まれていなかった場合でも、「特別決議」にあたる3分の2の大多数を満たせば、いつでも定款変更をすることができる。全会一致ではなく本件多数決数を要件としていることは、反対株主や欠席株主への仲裁による合意の到達度に疑問を抱かせるものであり、判例教義において厳しく批判されている。

同様に、定款に定められた仲裁条項は、定款に記載された時点で、会社の株主を拘束するものであることも事実である。しかしながら、多数の教義においては、登記簿上の定款の登記は、株主が仲裁解決を請求することにつながるべきであるとしているのに対し、少数意見は、契約の一般的条件の取扱いを類推適用するとの立場をとっている。

一方で、株主の一人、数人、または全員の間で、仲裁に付託することを前提とした私的(株主間)契約が締結される場合には、仲裁に異議申し立てできる(もしくは反対できる)のは本契約書の当事者のみとなるため、仲裁合意の明示的な遵守が求められることとなる。

e) 紛争の主体については、次のような二面性の区別をする必要がある。

    • 一般的に資本会社で発生した紛争の場合、仲裁法はこれを規定しないため、機関仲裁もしくはアドホック仲裁、または、仲裁裁判、equity(衡平法)上の仲裁に解決を求めることができる。
    • 株主総会決議、もしくは取締役会決議への異議申し立ての場合、仲裁法第11条bis第3項は、明らかにアドホック仲裁よりも機関仲裁の方が管理と予測可能性の保証が大きいことから、機関仲裁が仲裁の手続きと仲裁人の選任の両方を行うことを要求している。

加えて、仲裁法では、株主もしくは取締役にのみ言及し、資本会社法第206条1項に規定する第三者が、特定の会社決議に異議を唱える正当な利益を有することを証明することを省略しているため、この場合は、仲裁解決手続きに拘束されず、管轄商業裁判所に申立てを提出することができる(または自発的に定款仲裁に付託することができる)。

仲裁法第11条terは、以下を規定する。

11ter会社決議の仲裁裁定による解除の登記

    1. 登記事項の無効を宣言した仲裁裁定は、これを商業登記簿に記載しなければならず、その要約はBoletín Oficial del Registro Mercantil(商業登記所官報)に掲載される。

2.異議申し立てを受けた決議が商業登記簿に登記されている場合、仲裁裁定は登記の取消を決定するだけでなく、矛盾した結果を導きかねないその後の登記の取消も決定するものとする。

前述の条項からは、以下のような結論を導き出すことができる。

a) 仲裁法第 11 条ter第 3 項規定は、スペイン商法第 18 条1項および商業登記規則第 5 条1項に規定する、

商業登記簿への記載は、公文書によって行われるという法的要件の例外を構成している。したがって、登記事項の無効性を宣言した仲裁裁定は、私的文書であるにもかかわらず、公正証書による登記申請を必要とせず、商業登記所に直接登記することができる。

b) 第2項に関しては、紛争原因となった決議がすでに商業登記簿に登録されている場合には、仲裁人又は仲裁法定に委任状が与えられ、仲裁裁定が該当登記事項の取消し及びその後の矛盾する登記事項の取消しを決定するようになっている。上記が省略されている場合、仲裁法第40条以降に規定する、仲裁裁定取消の権利行使を動機づけるものではないが、仲裁裁定の形式的且つ重大な欠陥により、仲裁人および/または仲裁機関の責任を追及しうると理解される。

 

 

ヴィジャビセンシオ・カルラ (Carla Villavicencio)

ヴィラ法律事務所

 

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2020年11月13日