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去る2025年6月27日、欧州社会権委員会(European Committee of Social Rights: 以下「ECSR」という)は、スペインにおける解雇に対する適切な保護問題解決のために、スペイン労働者委員会総連合(CCOO)がスペインを提訴した件に対して、労働法に関する重大な決定の公表をした。本決定は、不当解雇に対する不十分な補償、及び、特に、不正契約が疑われる有期雇用労働者や行政機関の非正規公務員の状況に焦点を当て、法的・社会的に論戦を巻き起こすこととなった。

ECSR決定の概要

欧州社会憲章遵守機関であるECSRは、第1に、不当解雇への不十分な補償、第2に不当解雇を認識した際に、裁判所が復職を義務付けることが不可能であること、第3に不正契約の有期雇用労働者や行政機関に就労する非正規公務員への適正保護の欠如の3点において、スペイン法は解雇に対する妥当な保護の権利(同憲章第24条b)を侵害していると結論づけた。現行の解雇補償上限額では現実の損害が救済されず、雇用主に対する抑止力を有さないこと、裁判を通じて追加補償を決定する司法慣行は未だ例外的であり、普及していないことを同決定は強調する。さらにECSRは、復職は雇用主のみでなく裁判所も評価可能な現実的な選択肢であるべきであると主張した。

契約問題としてではなく、労働問題をして扱う理由

このようなケースの解雇・その補償に対する権利保護問題は、国際法およびEU法において認める労働者の基本権に影響するため、契約法の観点だけでなく、労働法の観点からもアプローチされる。労働は、対等な両当事者間のシンプルな関係ではなく、特に雇用安定性及び不当解雇に対する監督の観点から労働保護規制の介入を正当化する不平等な関係性が存在する。このため、解雇補償金の十分性及び復職の可能性に関する議論は、契約領域を超えて労働権の根幹に関わるものといえよう。 

不正による有期契約

スペイン法においては、有期雇用契約が、法律を詐称的に適用していると認める(例として、無期雇用契約労働者の必要性をカバーのために有期契約更新を続ける等の)場合、労働者は、無期雇用契約の地位を獲得する。不当解雇の場合は、解雇補償金と及びその扱いは無期雇用契約労働者と同様であるべきである。

つまり、勤続年数1年につき33日分の給与、最大で24ヶ月分の支給が可能である。

しかしながら、ECSRは、実務面では、特に就労年数が低い者や低賃金のケースでは、補償がまだ不十分で、実際の損害に見合う補償がされていないと警告する。

行政機関の非正規労働者 

行政機関における、「非正規労働者(非定着型無期雇用者)」は、規制対象のポスト(例えば、正式な公務員試験合格の必要性)であるのに、法律を詐称的に適用して雇用された有期労働者がポストに就いている場合に発生する。行政機関が法に定める手続きを経てそのポストを補充した場合、当該非正規労働者の契約は終了するが、退職金は通常、勤続年数1年につき給与20日分、最大月12ヶ月相当と低く、これは客観的事由による解雇の場合の補償金算出に相当する。

ECSRは、これは不合理な待遇差であるとし、解雇補償金額と復職可能性の両面で他の無期雇用者との同等の保護措置を提供するべきであるとの考えを示した。さらに、専門家Carmen Salcedo Beltrán氏は、このようなケースで解雇補償を制限し、解雇無効 (裁判中の給与支給)を認めない慣行は、労働者の権利を後退させるものであるとし、その意見の中で、スペイン法を欧州レベル合わせる必要性を示すと強調していた。

ECSR決定とスペインにおける拘束力。他の欧州諸国おける対応。

ECSR決定は、スペインの判例法修正を裁判所に、あるいは法改正をスペインに法改正を立法者に自動的に義務付けるという点において、直接的な拘束力はない。しかしながら、スペインは欧州社会憲章及び集団的申し立てに関する議定書を批准しており、委員会決定を尊重し、自国法を欧州の基準に適合させることを約束している。実際、最高裁判所及び憲法裁判所は、これらの条約の重要性及び、それに従って国内法を解釈する必要性を認めている。フランスやイタリアなど他の欧州諸国では、ECSR決定により法改正や司法慣行の変更を促したが、その適応は必ずしも即座に、あるいは画一的に行われたわけではない。したがって、解雇に対する補償と保護の十分性に関する議論は、欧州各国で共有する課題である。

716日開催のスペイン最高裁判所裁判官会議への期待

7月16日、スペイン最高裁判所労働部の裁判官会議では、とりわけECSR基本方針の適用と、不正有期雇用労働者あるいは非正規雇用公務員の権利同等化を取り扱う。欧州の基準に沿った保護的な解釈の定着か、それとも現行の相違の維持か、スペイン最高裁決定の鍵となる。

結論として、本ECSR決定及び最高裁の公開討論は、スペインにおける解雇に対する保護、特に公共部門と民間部門における最弱グループに対する保護の転換点となる可能性を秘める。

 

 

ハニフ・シャミム (Shameem Hanif)

ヴィラ法律事務所

 

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2025年7月11日