倒産事前手続きとは、倒産危機にある活動中の会社の資産の全部または一部について、1又は複数の取引(通常は売却)の実施で構成されるメカニズムである。倒産手続きの開始が宣言される前に、倒産手続きを管轄する裁判所から選任された独立した専門家(将来的には破産管財人となる)の監視の下、債務者によって行われる。必要な場合、裁判官は、倒産宣告後直ちにこれらの取引についての許可を与える。

多くの場合、会社の継続性又はその一部を可能にすることに加え、会社の債権者、プロバイダ、従業員及び顧客の利益を満足させることも可能となるため、優れた利点があると言える。さらに、非常に早い段階で資産の売却がされるため、本事前手続きにより、倒産手続時に処理する場合の必要期間を短縮することを可能とし、資産の価値の損失を回避することができる。

このメカニズムは、スペイン倒産法によって明確に規定がされているのではなく、2019年6月20日付欧州議会及び欧州評議会による、予防的リストラクチャーの枠組みにかかる欧州指令第1023/2019号の精神と目的をその根拠としている。(この指令は2021年7月31日までにスペイン国内法に導入されなければならない。)当該潮流の中で、バルセロナ商事裁判所は2021年1月20日付にて、倒産前手続きの取り扱いに関するガイドラインを公表し、以下の3つのフェーズを定めた。

1)申請フェーズ

2)予備的フェーズ

3)裁判所による承認及び取引実施フェーズ

第1フェーズは、債務者が会社の資産について、裁判所に対して債権者との交渉を開始する旨書面通知の提出をもって開始する。(倒産法第583条の定める文書、つまり会社自体の売却、一つ又は複数の事業譲渡、又は複数の資産のパッケージ売却等の交渉開始を倒産債務者が裁判所に報告する文書。本通知は事後報告の場合もある。)

当該書面において、債務者は、倒産宣告の管轄裁判所によって指名される独立した専門家の選任を申請する。本書が受領されるには、以下の書類を添付しなければならない。

a) 会社の財務危機の状況におけるビジネスユニット又は資産の重要データを通知及び公表するために、カタルーニャ政府産業庁のポータルサイト「Canal Empresa」に公開されているバーチャル・フォーマット記入完了の証明書

b) 売却準備中資産の潜在的買主を探す中で、債務者がコンタクトを取り又は長期的にコンタクトを取ることを約束した代表者団体、競業他社、金融又は産業ファンド、直接投資家(国内外を問わない)等の利害関係者のリスト。申請者は、これらの潜在的買主に対して、産業庁のポータルサイト「Canal Empresa」において登録可能な利害関係人登録簿の存在を通知しなければならない。

第2フェーズ(留保される可能性がある)において、独立した専門家は、債務者の資産管理および処分に関する権限を尊重し、適切と考える所見記録を書面にて作成しなければならない。独立した専門家は、次のような役割を有する。

  • 資産処分取引の準備における債務者の支援及び監督
  • ビジネスに慣れる
  • 債権者に対する経過報告
  • 会社資産の取引準備における規則性、オープン度及び透明性を検証及び監督し、潜在的な利害関係者間で情報及び機械の平等なアクセスを保証する。
  • 実施された手続き及び準備された売却についての最終報告書の作成

本フェーズでは、倒産法及びバルセロナ商事裁判所によって確立された事業譲渡のための規則を尊重しなければならない。最終報告者は債務者、裁判所、労働者代表、及び最も関係性の深い債権者(いかなる場合でも優先債権者及び公的債権の債権者がこれに該当する)の確認を受ける。

最終報告書には、以下のいくつかの点について公平な評価が含まれる。:機会の提供、及び平等・自由かつ公正な競争の保証、最終価格の合理性、前払い、倒産宣告後の資産評価の進化、及び、資産の売却がすぐになされない場合には、1つ又は複数の拘束力のある購入オファーの実行の提案

第3フェーズにおいて、債務者は、倒産手続き開始申立とともに、独立専門家の最終報告書を拘束力ある資産(会社、ビジネスユニット及び/又は一括資産)売却実行の最終提案と併せて提出する。裁判所による倒産手続き開始決定において、債権者やあらゆる利害関係人のために最終提案に対する異議申立て期間が10日間設けられる。上記期間の経過後、独立した専門家が、以後は破産管財人として、清算計画に関する報告書を発行し、その翌日に、裁判官は債務者によって計画された売却取引について承認又は却下の決定を発する。

バルセロナ第7商事裁判所において去る10月30日に実行されたCrail, S.L.とLinguistic Systems Institute, S.L. からWall Street English Franchising Spain, S.L.に対する事業ユニットの譲渡取引は、倒産事前手続きの1例である。本件において債務者は、Covid-19感染症により生じた危機、及び抱えきれなくなった債務に面して、倒産事前手続きの申請書を提出し、裁判所に対して潜在的買主のサーチを指導する独立専門家の選任を要請した。専門家の選任がされ、カタルーニャ政府企業庁のリストに事業ユニットを掲載した後、専門家はイタリア起源の多国籍企業で、世界29カ国に40以上の学校を有するWall Street English Franchisingを含む、複数のオペレーターにコンタクトを取った。同社のスペイン子会社は、売却中であった生産ユニットを取得し、1000人以上の学生に対し既に支払われていたコースの継続を保証し、従業員の雇用契約も維持されることが可能となった。

2017年1月22日付判決(事件番号C-126/16号)は、オランダに380の事業所、3600人の従業員を抱え、保育園事業に従事するオランダの著名企業(Estro Groep)の事業ユニットの売却プロセスを公開している。既に実行された倒産事前手続きの結果、入札者であるSmallstepsは250の園及び2600人の従業員の雇用契約を維持することを達成した。

2019年5月16日付裁判所判決(事件番号C-509/17号)は、従業員の権利に関して、欧州指令第2001/23/CE(企業、事業所又は会社又は事業所の一部譲渡の場合における従業員の雇用維持の権利に関する法令の概要にかかる指令)及び会社や事業の全部又は一部の維持を目的とする司法による監督の対象となる、裁判手続きによる会社再建の手続きの枠内で会社の売却がされる場合に事業の譲受人が労働者を選択する権利がある旨を定める国内法令(本件はベルギー法)に準拠しないことを宣言している。

 

ボスク・ミレイア (Mireia Bosch)

ヴィラ法律事務所

 

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2021年2月26日