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監査報告書は、商業登記所に登記される財務情報の透明性、信頼性、真実性を保証し、会社のアカウンタビリティ(説明責任)において重要な要素を構成する。監査人が不適正意見を表明した場合、数年前までは商業登記所は、計算書類の登記を拒否していた。
近年は、しかしながら、監査報告書に不適正意見が含まれている場合でも、計算書類の登記を認める方針となっている。2025年6月10日付法的安全・公文書管理局(以下「公文書管理局」という。)決議において、当該傾向は完全に強固なものとなった。本決議で分析された事案の主要背景は以下となる。
2025年1月17日付にて、清算手続きを進めるために必要な解散決議を2021年に採択した会社、Empresa Pública Aguas de Cuenca, S.Aが、クエンカ商業登記所に2021年度計算書類を提出した。添付されていた監査報告書には「計算書類には、あらゆる重要点において会社資産および財政状態の適正な表示がない」とする不適正意見を表明していたため、登記官は登記を拒否した。
清算人は当該拒否を不服として公文書管理局に異議申立てを行い、不適正意見の存在イコール計算書類登記拒否を意味するべきではないと主張した。重要なのは、監査が法定手続きに則り実施されたかどうかであると清算人は続けた。加えて、清算手続完了のためには、計算書類提出及びその登記は必須要件であるため、当該拒否は清算手続きの妨げになると指摘した。
争点は、スペイン資本会社法第279条、および会計監査法(法律第22/2015号)が、計算書類の商業登記所提出の際には呼応する監査報告書の添付を監査人に義務付ける点の解釈にあった。これらの規定は、計算書類が会社の資産、財務状況、および業績を正確に反映しているかについての意見表明を監査人に義務付けている。
長年にわたって、公文書管理局は、監査意見が不適正または不表明であった場合、真の姿の反映という計算書類の法的要件を満たしていないと判断し、登記官は登記拒否しなければならないという厳格な基準を維持してきた。これにより行政的手続きがブロックされ、会社は登記義務の履行のために計算書類を再作成することを余儀なくされた。
しかしながら、本2025年6月10日付決議は、例えば、会社から提供された書類の不備を理由に不適切意見を表明した監査報告書を添付した計算書類の登記を認めた2023年10月3日付決議において既に示していた見解を、裏付けるものとなった。
公文書管理局は、計算書類の提出目的は、内容の質を保証することではなく、監査が法に定める手続きに従って実施されたことの確認にあると指摘した。したがって、監査がされなかった場合、または会社側の協力不足、もしくは書類欠如により十分な監査ができなかった場合にのみ、登記拒否は認められる。監査報告書が存在する場合、たとえ監査意見が否定であっても、形式的には監査義務は履行されたものとみなし、計算書類は受理されなければならない。つまり、不適切意見によって監査の存在を否定することはできないとした。
公文書管理局は、以下の2ケースを区別する。
1) (不適切意見を含む)監査報告書の作成がある場合は、登記するべきとする。
2)監査の実施がない、もしくは義務不履行により監査報告書が存在しない場合は、登記拒否するべきとする。
本基準を適用し、公文書管理局は清算人の申立てを認め、クエンカ商業登記所登記官の判断を取消し、Aguas de Cuenca, S.A. の計算書類の登記を認めるよう命じた。
当該決議は、第一に、商業登記所は計算書類の質を判断すべきではなく、検証プロセスの存在のみを判断すべきであるため、否定的意見を含む監査報告書はそれ自体では登記を妨げないことを明確にした点で、第二に、会社清算、あるいは経営再編といった複雑な状況において、行政手続きを前進させるためには、形式的な義務を遵守することが不可欠である場合に、法的安定性をもたらす点で、重要な実務上の意味合いを持つ。
ルビオ ジョアン ジュイス (Joan Lluís Rubio)
ヴィラ法律事務所
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2025年10月31日