スペイン資本会社法第265条第2項は、計算書類の監査が義務付けられていない会社について、その発行済株式の5%以上を有する少数株主は、会社の本店所在地を管轄する商業登記官に、事業年度終了日から3ヶ月を経過する前であればいつでも、当該事業年度に係る計算書類の監査をするための監査人の選任を要請することができると定めている。
この少数株主の監査人選任要請の権利と会社の自主的に選任した監査人とで競合した場合について2018年2月20日付け決定において登記・公証局が見解を示した。
本事案では、計算書類への監査が義務付けられていない会社が自主的に監査人を選任し、その登記がされていた。しかしながら、当該監査人は定年により退任することとなったため、結果として2014事業年度の計算書類の監査を行うことができなかった。
他方、会社の少数株主は2014事業年度の計算書類について監査人選任の申請を商業登記所に提出したが、既に会社によって監査人が選任されその登記がされており、少数株主の利益は保護されているとして、当該申請は却下された。
2017年11月6日、会社は2014事業年度計算書類の監査のため新たに監査人を選任したが、当該選任にかかる登記申請が商業登記所によって却下された。
商業登記所は、少数株主の権利を守るため、会社による監査人の選任が認められる要件として、(i) 会社による監査人の選任が少数株主の監査人選任申請よりも前であること、及び(ii) 監査人の登記がされ、又は少数株主に監査報告書の提出がされる等、少数株主の権利が保証されていることが必要として、会社による新たな監査人の選任は上記の(i)を満たさないため、少数株主の権利を害し、認められないと判断した。また、既に選任された監査人が監査を行うことができない場合には、新たな監査人を選任する管轄は商業登記官にあるとした。
これに対し会社から異議が申し立てられたため、登記・公証局へと判断が送られた。
登記・公証局は、少数株主の監査人選任申請の権利について、以下の見解を示した。
(i) 法は少数株主に対して商業登記官によって選任される監査人による計算書類の監査請求権を与えているが、この権利は絶対的なものではなく、それ自身の規定により、申請期間や行使の法的適格において、制限が課せられている。
(ii) 少数株主について保護法益が存在しない場合には、資本会社法第265条第2項の前提が損なわれる。
(iii) 資本会社法第265条第2項の目的は、会社から独立した専門家による会計監査を請求する権利を少数株主に与えることで、会社の組織内における少数株主の地位の強化を図ることにある。監査人が登記官によって選任されていようと、会社によって選任されていようと、会計監査登記がされた監査人が、監査規程やその他の監査活動を規定する規則に基づいて監査をするのであれば、少数株主の監査人選任請求権を認める法の目的を害することにはならない。
そして、本事案では会社による監査人の選任は少数株主の監査人選任申請がされるよりも前になされ、登記もされていることから、この時点以降、少数株主の利益は保護されているとした。また、選任されていた監査人が定年退職し、会社がその後任として新たな監査役を選任したとしても、上記結論に何ら変わりはないとした。
大友 美加
ヴィラ法律事務所
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2018年4月6日