2021年2月25日付官報にて、法的安全・公文書管理局(以下「公文書管理局」という。)の2021年2月10日付決定が公示された。当該決定は、ある有限会社(S.L.)の代表取締役の選任及び権限委譲に関する登記申請についてマドリード商業登記官が申請却下としたことに関連するものである。
本件において、当該会社の株主総会は、取締役1名の辞任の承認と新たに1名の取締役の選任を行い、取締役会にて代表取締役が選定された。この代表取締役に対し、法及び定款において委譲可能なすべての権限が付与されたが、当該権限委譲について、各取引の金額が100万ユーロを超える場合には指定された2名のいずれかと共同でなければ権限の行使を行うことはできない旨の制限が課されていた。
マドリード商業登記官は、会社の代表権の典型的な内容を考慮すると、代表取締役の代表権を第三者に対して強制力のある形で制限することは不可能であるとの判断から、上記会社の決定について登記を見合わせた。
上記登記官の却下決定に対する異議申し立てでは、登記官の解釈は資本会社法に合致しないとの主張がされた。なお、資本会社法第249条第1項は、以下のように定めている。
「定款に別段の定めがなく、かつ、いかなるものに対して行われた委任を害することなく、取締役会は、委譲する権限の内容、制限及び権限委譲の態様を定めて、取締役の中から一人または複数の代表取締役を選定することができる。」
公文書管理局は、当該条文が、取締役会が権限委譲の内容、制限、態様を定めることができると規定していることを認めたものの、資本会社法第234条の解釈、すなわち、会社の代表権の内容や範囲は制限することができないことは不可避的である、ということを根拠として、規則のシステマチックな解釈が会社の典型的な代表権限の内容を制限することを認めているという結果を導かないとの見解を示した。
上記234条の解釈は商業登記規則第149条によって確認されている。当該条文は、代表取締役に対する権限委譲及び代表取締役選任にかかる取締役会の決定の登記は、委譲される権限が特定されているか、又は、法及び定款によって委譲可能な全ての権限が付与されることが明記されなければならないとしている。さらに、代表権の範囲は、常に法によって取締役に与えられる範囲、つまり、資本会社法第234条に定める範囲とする、と定めている。
代表取締役の会社の代表権の範囲及び内容の典型化の根拠は、定款や取締役会決議による会社の代表権にかかる制限の確認を義務付けられていない第三者の保護であることは疑う余地がない。そのため、そのような制限がたとえ商業登記所に登記がされていたとしても、対第三者においては効力を有さない。
結果として、公文書管理局は、本件異議申し立てを却下した。
露木 美加
ヴィラ法律事務所
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2021年3月5日