スペイン会社の株主や取締役が外国籍である、又は、会社の本店所在地から離れた場所に居住している、といった状況は、しばしば見受けられる。
これらのケースの場合、定款にて、株主総会及び取締役会に出席する可能性を規定することは、特に重要となる。これは遠隔地からの出席を可能とする、あるいは同様に遠隔地からの決議投票を可能とする書面の郵送又はインターネット通信による送付等のいかなるコミュニケーション手段を含めることを意味する。
この種の定款規定は、海外又は会社の本店所在地から離れた場所に居住する株主が、移動や代理人への権利委任を要せず直接株主総会の経過を把握することを可能にし、それは移動・通信等にかかる時間及び費用の節約につながると予想される。
しかしながら資本会社法(LSC)は、有限会社(S.L.)に対しビデオ会議システム、もしくは、これに類似した情報通信技術(以下「ICT」とする)を利用した株主総会開催の可能性の規定しておらず、そのために公証人と登記官の間でこの点の見解の相違が、しばしば議論の的となってきた。2012年12月19日付、2017年4月25,26日付及び2018年1月8日付け登記・公証局の決定はその例の一部である。
a)ビデオ会議システム、もしくは、ICTを利用した株主総会への出席・投票
ビデオ会議システム、もしくは、ICTを利用した株主総会への出席・投票に関連して2012年12月19日付登記・公証局の決定は、資本会社法第175条規定を以下のように引用し、見解を示した。
「定款に異なる規定がない限り、株主総会は本店所在地が存在する自治体において開催される」と規定する資本会社法第175条は、株主が株主総会に直接参加できるように、物理的な場所での開催を要求するが、同法第182条は株式会社への言及ではあるが、総会へのICT利用による参加を認めている、とその使用を肯定した。
同様に登記・公証局は資本会社法第189条第2項においても、株式会社のみを対象とした言及ではあるが、以下のように規定する。
「定款に規定されているところに従い、いかなる種類の株主総会の議案の決議事項への投票は、郵便、電子通信その他の遠隔コミュニケーション手段を通じて株主により委任、若しくは本人によって行使されることがある。 ただし、投票権を行使する主体の身分が正当に証明されていることを条件とする」
これに関連して登記・公証局は、資本会社法第182,189条は株式会社にのみ言及しているが、同法が有限会社へのビデオ会議システム、もしくは、ICTを利用した株主総会への出席・投票を禁じていると理解するべきではない、との判断を示している。
故に、株主が直接参加できるような物理的な場所での株主総会開催が決定した後、有限会社へのデオ会議システム、もしくは、ICTを利用した株主総会への出席・投票を、遠隔地の出席者に他の出席者の意見が同時に伝わり、株主が適時に介入できることが保証されているのであれば、有限会社にも認めるべきであると結論付けた。
b)ICTを利用した議決権の代理行使
他方、同2012年12月19日付登記・公証局の決定は、有限会社のビデオ会議システム、もしくは、ICTを利用した株主総会への出席・投票のみならず、議決権の代理行使にも言及した。そのためにはまず、資本会社法第183条第2項が有限会社に関して
「代理権限は書面(委任状)によって授与されなければならない。委任状が公正証書化されていない場合、株主総会毎に作成する必要がある」と、規定している事に留意が必要である。」
同条項を文字通りに理解すると、「書面によって」とは、手紙、書類、若しくは手書き、入力あるいは印刷によるあらゆる用紙類を意味する。しかしながら2012年12月19日付登記・公証局の決定は、上記のような文字通りの理解を拒否し、電子署名法(法律59/2003第19条)および情報社会および電子商取引法(2002年7月11日施行、法律第34/2002号)に基づいて、「書面によって」とは他の形式における、例えば、ICTを利用、あるいはオーディオビジュアルを利用した代理権限の授与の表現・証明を排除するものではないと結論付けた。
従って、上記決定により、会社の定款にも代理権限授与のためにビデオ会議システム、もしくは、他のいかなる遠隔コミュニケーション手段を用いる可能性を、証拠資料として裁判所で認められる何らかの電子的フォーマットとして登録されている場合に限り、規定できることとなった。
c)本人認証のない署名があるICT利用による書類、もしくは、デジタル署名なしで電子的に送信された書類による議決権の行使
前述のa)、b)のケースを変更することなく、定款に以下の規定をすることができる。
「株主による議決権の行使は、本人認証のある署名(公証人によっての認証)を有する書類、あるいはデジタル署名付きの電子的投票によっても有効とする。ただし、株主総会においては、本人認証のない署名もしくは、デジタル署名なしでの議決権の行使を受け入れることができる。いずれの場合も、株主総会の開始時刻の最低24時間前に、会社が投票を受領する必要がある」
登記官は、資本会社法第189条第2項及び、これに類似する同法第522条に基づき、いかなる遠隔コミュニケーションシステムによる議決権の行使を、投票権を行使する主体の身分が正当に証明されている場合のみ可能であるとみなし、「本人認証のない署名もしくは、デジタル署名なしでの議決権の行使を受け入れる」を否定した。
しかしながら、2017年4月25,26日付登記・公証局の決定は、株主主権、若しくは自由行為に基づく株主総会の観点から、本人認証のない署名、またはデジタル署名なしで電子的に送付された書類によって、株主が行使した議決権を受領できるとし、これを定款に規定することを有効であるとの判断を示した。
さらに、登記・公証局はその決定の最後に「株主総会の開始時刻の最低24時間前に、会社が投票を受領する必要がある」と、会社が事前に議決権を行使する主体の本人確認の慎重な管理を助ける防止策としての一文を加えた。
d)株主総会における遠隔からの議決権の事前行使
直近の登記・公証局の2018年1月8日付決定は、有限会社設立の公正証書に、株主総会において議決権を遠隔地より事前に行使するための定款条項を含んだ登記申請についての判断を示した。
登記官は、株主総会における議決権の遠隔地からの事前行使は、資本会社法第521条第2項c)に規定されているように上場公開会社のみに適用可能な条項であるとして、有限会社及び通常の株式会社には適用されないとし、上記定款条項の登記を拒否した。
しかしながら登記・公証局は、株主総会における議決権の遠隔地からの事前行使は、定款にて規定されている場合は、資本会社法にこれを禁ずる規定がないため有限会社にも認められると、結論付けた。さらに、定款にて定められている場合には上記の決定は、直接出席型の取締役会招集における取締役の議決権行使にも適用される、との判断を示した。
ヴィシャビセンシオ・カルラ (Carla Villavicencio)
ヴィラ法律事務所
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2018年4月13日