刑法改正
近年、他のヨーロッパ諸国同様スペインにおいても、企業がその社会的責任やコンプライアンスに対する意識を高めるよう求められるようになっている。
2010年6月23日に公布された組織法5/2010(Ley Orgánica 5/2010)により、刑法の改正がなされた(施行は2010年12月23日)。この刑法改正により、スペイン法制史上初めて、企業は、以下の不法行為についても刑事責任を負うことになった。
1) 法的な代表者及び事実上または法律上の経営者によって、企業の名において及びそのリスクにおいて、企業自身のために行なわれる不法行為
2) 当該ケースの特定の状況下で企業に要求される程度の従業員の管理を施していない結果、企業の経営者の権限に従う者によって、企業の事業の一環として企業を代理して及び/または企業の利益のために行なわれる不法行為
法人の刑事責任は、刑法に特別に定められた犯罪についてのみ生じるものである。以下は、法人に刑事責任が生じうる犯罪行為の一覧である。
– 違法な臓器売買;
– 人身売買;
– 児童買春;
– プライバシーの侵害及び違法アクセス
– 詐欺;
– 罰則対象となる支払不能、破産;
– 情報技術及びコンピューターへの攻撃;
– 知的所有権及び工業所有権に対する不法行為、市場に対する不法行為;
– マネー・ロンダリング;
– 税務当局及び社会保障事務局に対する不法行為;
– 外国人に対する不法行為;
– 違法工事、違法建築または違法都市計画;
– 環境に対する不法行為;
– 核に関する不法行為;
– 爆発の危険を生ずるような不法行為
– 公衆衛生、麻薬取引に対する不法行為;
– 通貨偽造;
– 贈収賄;
– 優位な立場を利用した取引;
– 外国公務員に対する贈収賄;
– 組織犯罪; 及び
– テロ組織への資金提供。
また、 法人に対して課される以下の刑罰が新たに追加された。(33条7項参照)
• 罰金
• 解散命令
• 事業の一時停止(最長で5年間)
• 施設の閉鎖(最長で5年間)
• 一定の活動の禁止
• 資格停止(補助金や公的助成金、公的企業との契約、税金や社会保障費の奨励金、最長で15年間)
• 裁判所の介入
不法行為が継続することを避けるために、予防策として裁判所が適用しうるものは、社会的なインパクトやコンプライアンス義務を果たすことを怠った個人の高い地位を考慮すると、以下のものと考えられる。
• 施設の一時閉鎖
• 事業の一時停止
• 裁判所の介入
刑罰を制限または情状酌量するためにーコンプライアンス
刑法は、 法人がその法的代表者を通じて、 刑事責任を軽減させるために実行しうる方法として、以下の方法を規定している。
o 裁判手続き開始前の自供
o 当該事件の調査への協力
o 当該犯罪行為による損害の修復または縮小化
o 将来の犯罪行為を発見するための予防策の整備
刑法は、内部統制システムのある会社はその経営者または従業員が犯した犯罪行為についての刑事責任を負わないとは明確には規定していない。しかしながら、確かなことは、法は企業に対し、内部統制システムの整備を通じて、その経営者及び従業員に適切な管理を及ぼすことを要求しているということである。
コンプライアンスは、言うまでもなく、内部統制システムの一局面である。コンプライアンス教育、すなわち、企業の構成員に「してはいけないこと」について教育することは、企業がその従業員によってなされた不法行為で訴追されることを妨げるために有意義な方法である。コンプライアンス教育を容易にするために、コンプライアンス・オフィサーの任命やコンプライアンス部門を設置することが強く要求される。
コンプライアンス・オフィサー及びコンプライアンス部門の義務は、企業の経営者及び従業員によってなされる活動が不法行為に該当しないように、彼らの行動を管理し、モニターすることである。この目的を果たすため、まず初めに 、コンプライアンス・オフィサーはコンプライアンス部門と協力して、広範な社内規定を準備することとなる。この社内規定は、企業の経営者及び従業員が行動する際に、自身の行為がいかなる法規にも反しないようにするために参照するものとなる。コンプライアンス部門はコンプライアンスに関する知識を社内に広めるため、コンプライアンス・トレーニングの実施や 、参考資料の配布を行う。またコンプライアンス部門は、何らかの法規に違反するかもしれない出来事が発生した際の報告を受ける窓口となり、当該事象を調査し、コンプライアンス・オフィサーに相談しながら当該事象への企業の対応を決定する。
企業活動は様々な局面を有しているため、整備される社内規定も多岐にわたらなければならない。その中で最も重要となるものは「倫理規程」であり、当該規程により企業の経営者及び従業員に対し日常業務においていかに行動すべきかの一般的な指針を与える。この他、内部統制システムにとても重要な規則として、コンプライアンス規定、組織規定、取締役会規程、監査規程、経理規程、文書管理規程、個人情報取扱規程、業務規程などが考えられる。
内部統制の欠如は、企業に対して、上述したような刑事罰のみならず、社会の風評被害も含んだ、重大なダメージを与えかねない。また、刑法は、企業の経営者は企業と連帯して当該不法行為の責任を負うとは規定してはいないが、企業が訴追されることによって損害を被る場合には、当該企業の経営者は、その株主から経営責任を問われる可能性もある。
適切なコントロールを施していない企業にとっては、今こそが内部統制システムを導入する最良の機会であるといえる。
注:
*企業の組織変更、合併、買収、または分割は刑事責任を消滅させない。反対に、当該刑事責任は、裁判所の基準に応じて、合併後の会社や分割によって 設立された会社に部分的に移される 。
*法人の刑事責任は個人の刑事責任と独立したものであるため、法人の刑事責任は、当該不法行為の実行者が有罪判決を受けているかどうかに影響を受けない。
より詳細な情報につきましては、下記までご連絡ください。
2011年10月1日