欧州連合司法裁判所(以下「EU司法裁判所」)は、直近にて、スペイン国内税法とEU付加価値税指令(以下、「VAT指令」)間の相互関係について、非常に重要な判決(2026年3月12日付判決案件番号C-515/24号)を下した。本件においてEU司法裁判所は、EU法に基づき、接待・娯楽費に係る付加価値税(以下、「VAT」とする)控除権の排除判断をスペイン税務当局(Agencia Estatal de Administración Tributaria.以下「AEAT」)が行なったことについて、VAT指令第176条の適用範囲、およびEU全体におけるVAT控除への影響を明確にした上で、その判断を示した。
事実関係
本件は、Randstad España(以下「Randstad社」)とAEAT間の訴訟を取扱う。2009年から2011年にかけて、Randstad社は自社の顧客に対し、サッカーの試合、F1イベント、および娯楽目的の船旅への無料チケットを提供し、購入時に支払ったIVAを控除した。一連の調査、審査手続きの結果、AEATは、娯楽サービス購入に伴うVAT控除権をRandstad社に認めないとする複数の決定を下し、未払税債務の是正を命じた。
Randstad社はAEATの決定に対し異議申立てを提起したが、スペイン中央経済行政裁判所(el Tribunal Económico-Administrativo Central)はこれを棄却した。当該棄却決定を不服としてその後Randstad社は、高等裁判所行政訴訟部(la Sala de lo Contencioso-Administrativo de la Audiencia Nacional)へ上訴した。同裁判所は、当該経費に関するVAT控除権の排除は、現状維持条項(Standstil Clause. EC/EU加盟時に、加盟国に既存の国内ルール維持を認める条項)に基づき正当化されると判断し、原判決を支持した。
Randstad社は、VATの中立性原則に基づき、全納税者は、事業活動の遂行時に使用した財やサービスにかかる仕入税額控除権を有すると反論した。そして、顧客への提供を目的としたスポーツや娯楽イベントのチケット購入は、事業活動にかかる経費に該当するため、控除権が生じるべきであると主張した。
Randstad社は同様に、現状維持条項は、加盟時点で既に施行されていた制限の維持のみを認めるものであると主張し、スペインEC(当時)加盟時点では当該経費の控除権を排除するスペイン法の施行はなかったため、VAT指令第176条による正当化はできないとした。
法的枠組み
本件は、VAT指令第2006/112/EC号とりわけ第168条(a)項、第176条に準拠する。第168条(a)項は、課税取引に物品、サービスが使用される範囲に仕入税額控除権を定める。第176条は例外条項となり、特定の種類の経費を当該権利対象から除外することを認め、加盟国が既存の除外措置を維持することを可能とする以下のような現状維持条項を含んでいた。
「加盟国は、第1段落規定の施行開始、つまり1979年1月1日時点、もしくは、同日付以降にEC(当時)へ加盟した加盟国については自国の国内法に定められていたすべての除外規定を維持できる。」
スペインにおいては、法律第37/1992号第96条第1項が、以下の特定の種類の経費に対するVAT控除を排除しており、AEATはこれに基づき、Randstad社の控除権を否認した。
- 宝飾品、貴金属、宝石、天然、または養殖真珠、及び金またはプラチナにより全部もしくは一部が製造された製品
- 食品、飲料、及びタバコ
- 興行、及び娯楽目的サービス
- 顧客、従業員、もしくは第三者への接待目的の物品またはサービス
問題の焦点は、スペインの除外措置が、VAT指令第176条の現状維持条項に基づき正当化され得るかにあった。
EU司法裁判所判決
EU司法裁判所は、第168条(a)に基づくVAT控除権は、原則的に制限不可とするVAT制度の根本的側面を構成するため、すべての例外は厳格に解釈されるべきであることを再確認した。同裁判所は、第176条は、加盟各国に対し、控除権についての既存の除外措置維持を認める例外規定であると指摘した。
本件では、EU司法裁判所は、スペインがEC加盟した1986年以前には国内にVAT制度が存在しなかったという特殊な状況を、次のように認めた。
「当該規定施行以前にスペインにはVAT制度が存在しなかったため、経済主体はこれらの経費にかかる仕入税額控除を行うことはできなかった。つまり当該国内規定の施行は、実質的変更をもたらすものではなかった。」
結果として、控除権制限規定は加盟時に発効していたとしても、当初からスペインにおけるVAT制度の一部を構成していた。したがって、EU司法裁判所は、スペインの法規は現在維持条項の適用対象であると指摘した。
さらに、EU司法裁判所は、私的消費との関連性を鑑みると、娯楽・接待費への控除権除外は、VAT制度にかかる論理と整合的であると強調した。同裁判所は、VAT指令は、贅沢品、娯楽、接待など、事業活動と厳密に関連しない費用の除外を認めているとした。同様に、法律第37/1992号には、控除除外対象となる財やサービスを十分かつ明確に特定し、控除権に対する過度に広範な制限の導入を回避すると指摘した。
Randstad社とAEAT間の係争については、EU法の当該解釈に照らし、スペイン最高裁判所が判断を下すことになった。
現状維持条項の解釈
EU司法裁判所は、第176条現状維持条項は、EUにおいては適用範囲がその後拡大されていない限り、加盟国の当初のVAT制度の一部を構成する除外規定の維持を認めるものであると以下のように判示した(第30段落):
「[…] VAT指令第176条第2項に規定される現状維持条項の適用範囲を分析すると、その適用範囲が変更されていない限り、本条項は、加盟前の時点で存在していた除外規定を加盟国の法規において維持することとなる規定に抵触しないことが確認される。」
当該観点については、EU司法裁判所は法制定時ではなく、国内法の適用範囲が時間の経過とともに変更されたかどうかにフォーカスする実務的アプローチを採用している。これにより、当初のVAT制度の一環として導入された制限措置も、現状維持条項の適用対象となり得ることが確認された。本解釈は、先行判例、特に本判決で頻繁に引用されたGrupa Lotos案件(案件番号C-225/18号)と整合する。
VATの中立性、調和の限界
本判決では、VATの中立性は制度的原則であるとはいえ、絶対的ではないことを確認した。私的消費と密接に関連する経費(接待、娯楽費、顧客関連経費など)は、控除対象から正当に除外される可能性がある。加盟国は、現状維持条項に基づき、特定の経費項目の控除可能性について異なる規則を維持することができるために、本判決においては、一般にEUにおけるVAT制度調和の限界を強調する。
結論
本件判決は、接待費や類似経費にかかるVATの控除制限が、加盟国において当初のVAT制度の一部を構成し、かつその適用範囲が拡大されていない場合、加盟国に制限維持が可能であることを確認したものとなった。企業にとっては、特に現状維持条項規定が適用可能な場合、裁判管轄地毎のこうした経費の控除可能性の個別評価の必要性が求められる。税務当局による調査リスク軽減のため、実務上は、これらの経費の控除可能性評価の際には、慎重なアプローチを取るべきである。
今回のEU司法裁判所判断は、各国のEC/EU加盟前制度が異なることによる不利益が生じないよう、国内法規の影響に注視する実用的アプローチを反映した。これはEU内にある程度の整合性を促進する一方で、比較的柔軟な現状維持条項解釈を再確認することとなった。
アメリア・ギビンス
ヴィラ法律事務所
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2026年3月27日