エストニアの最高裁判所(Riigikohus)は、裁判管轄権の有無の判断を求める上告審を結審する前に、CJEU(欧州司法裁判所)へ管轄権に関する解釈判断を仰ぐ決定を下した。
上告審に至った経緯は以下である。エストニアの企業Bolagsupplysningen OÜは、エストニアに利益拠点を維持しながら、ビジネス活動の主な拠点はスウェーデンにあった。ある時点で、スウェーデンの商工会連Svenks Handel ABのウェブサイトに同会社がブラックリストの一員として掲載され、それに反応して1000にも上るコメントが記載されることとなり、同社の評判が著しく傷つけられることとなった。
これらの事実及び生じた損害に基づき、Bolagsupplysningen OÜはスウェーデンの商工会連に対する訴訟をエストニアの裁判所に申し立てた。同社の請求は以下の二点である。
- 連盟のウェブサイトに掲載されている情報及びコメントの削除
- 損害賠償として634,99ユーロの支払い
本案件はエストニア最高裁判所まで争われ,すでに前述したように、同裁判所は欧州司法裁判所に、被害を被ったのが法人であった場合のブリュッセル. Ⅰ規則(欧州議会及び理事会規則No 1257/2012)第7条第2項の適用の有効性、法人の場合における「利益拠点」の定義を明確にする、などの判断を求めた。
第一の点に関して、ブリュッセル. Ⅰ規則第7条第2項は以下のように規定する。
「EU加盟国内に住所を有する者は、…(2)民事上の不法行為または準違法行為に関わる案件の場合、損害が発生した場所または発生する可能性がある場所の裁判所の所在する他の加盟国で訴訟を起こすことができる」
言い換えると、違法行為または準違法行為問題においては、原告は、被告の住所所在地を管轄地とする住所に関する一般規定であるブリュッセル. Ⅰ規則第5条か、あるいは、損害が発生したあるいは発生する可能性がある場所で損害賠償請求できるとする特別な要件を規定した第7条第2項の間で選択することができる。この場所に関しては、過去の判断において欧州司法裁判所は、人が「利益拠点」を持つ所と解釈している。
これまでは、上記解釈は自然人にのみ適用され、法人への適用を検討されたことがなかった。故にエストニア最高裁判所は審議を行う前に、予備判決を求めたのである。結論を言うと、EU法務官Bobek氏の意見(同氏の意見は、欧州司法裁判所の予備判決の判断の基準として供される)は法人への適用に肯定的であった。Bobek氏は、(自然人か法人かによって)異なる基準を適用するのは正当ではないとした。なぜなら、そのような差異は、自然人が訴訟手続きにおける「弱者」という仮定に基づいているからである。しかしインターネット時代になり、自然人によるオンライン上の情報掲載は以前より格段容易になり状況は変わった、と同氏は述べた。
第2の点に関しては、EU法務官の同氏の意見では、損害が発生する行為がなされた場所は、法人の評判が著しく損なわれた場所でもありうる。必然的にその場所は、法人が利益拠点を有する場所を意味する、とした。この場所の特定には、 Bobek氏は、売上高及びに顧客数、他の専門家とのコンタクトの数など要素として考慮すべきだとした。最後に同氏は、法人が複数の利益拠点を持つ可能性があることを明確にしており、この点を強調するために、原告は、利益拠点の中でも原告のニーズに最も適した場所で訴訟を起こす選択肢を有する、とした。
EU法務官の好意的な意見を考慮しつつ、欧州司法裁判所は近日中に、予備判決に提起された問題に対し最終判断を示さなければならない。欧州司法裁判所の判断も間違いなく肯定的なものになるであろうと予測される。同判断は、自然人あるいは法人であろうと、裁判管轄の決定基準は均一化すべきという流れに貢献することとなろう。
ブランコ・ペドロ (Pedro Blanco)
ヴィラ法律事務所
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2017年7月21日