2018年6月26日マルタ共和国議会は、ブロックチェーン技術を包括的に規制することを目的として、ICO(Initial Coin Offeringデジタルトークンの発行による資金調達方法)の発行から、仮想通貨取引所までをカバーした3法案のパッケージを承認した。本法律は、ブロックチェーン技術及びそれを取り巻く経済生態学に関する法的枠組みを構築するパイオニア的な構想であるといえよう。本法律制定の目的は、上記分野において既に取引を行っている者及び取引を検討している者に対し、投資を奨励し、新規経済活動の発展に貢献するような法的安全性を提供する規制環境を構築することにある。

3つの法律の中から本稿においては、この種の資産に関連する活動を規制する一つの解釈方法として、仮想金融資産法を簡単に分析する。

本法律は、仮想金融資産を広範囲及び対照的に定義している。つまり取引媒体、決算単位、貯蓄方法として利用されるデジタル登録手段で、

  1. 電子マネー
  2. 金融商品
  3. トークンと一般的に呼ばれる電子代用硬貨

「以外」のものを仮想金融資産とするとしている。

他方で、仮想金融資産を他のデジタル資産と区別するために、DLT資産(Distributed Ledger Technology Asset: 分散型台帳技術資産)という分野を以下のカテゴリーに分類する

a) 仮想トークン

b) 仮想金融資産

c) 電子マネー(前もってICチップにチャージされた金額を取引決済の支払いのため、当該電子マネーを発行する機関とは異なる個人によって受領されると理解される)

d) 金融商品

マルタでは、仮想金融資産の公募又はDLT資産の取引マーケットでの取引開始に先立った管理体制の構築が選択された。したがって本法律は、管轄機関による単なる監督システムに限定されるのではなく、本格的な事前承認を与えるものといえよう。

本法律が、「電子マネー」による取引業務を行う場合、電子マネーの発行者は金融関連の法律を遵守しなければならず本仮想金融法は適用されない、としたことに言及すべきであろう。当該判断により、本法律では電子マネーと仮想通貨の性質を区別した。電子マネーを平易な通貨とみなし、金融機関に対する法律に準拠することを義務付ける一方で、仮想通貨を仮想金融資産とみなし、その発行には当該法律が適用されるとした。

当該法律適用の最初の主な実用の一つは、ICO発行に関するものである。ICO発行及び他の仮想金融資産の公募の際も、発行元は、当局の前で提供する商品・サービスの核を明確に説明する書類を提出する必要がある。これは潜在的な投資家が、本オファーが内包する固有のリスク、発行元の身元、オファーされる仮想金融資産の性質を把握できるようにするためである。

仮想金融資産の公募は発行元が直接行うのではなく、仮想金融資産エージェントを雇うことを義務付けている。当該エージェントの要件は、マルタあるいは他国において特別資格のような形で正当に認識・登録される弁護士、監査役、会計士、企業サービスの提供者のような者でなければならない。当該規制の規定要件を満たさない仮想金融資産及びDLT資産の取引は禁止される。上記条件は、エージェントの費用や取引前の段階での書類の準備に時間がかかることで、仮想金融資産のオファー開始の可能性を制限し、ふるいにかけることになるだろう。

また、マルタ政府は発行者の身元及び連絡先を初期の段階から管理することとなる。本法律によって、仮想金融資産サービスプロバイダになるには、行政が発行するライセンスを所有することが要件とされており、誰もが仮想金融資産を公募できるわけではない。また、本ライセンスの取得申請は、仮想金融資産エージェントを通じてのみ行うことができる。

ライセンス保持者が市場で仮想金融資産の運用を行うには、管理規則の遵守、保全システムの設置、賠償責任保険契約、十分な資本力、適切な金融リソースの確保等を具備していることが義務付けられる。本ライセンスは当局によって取り消し可能であり、毎年一定額のライセンス料の支払いが請求される。

行政機関は規制遵守体制を監視する。これには、ライセンスの取り上げ、検査の開始、違反者への罰金、仮想金融資産の発行元を管理し、本資産を市場から一時取引中止又は取引停止をする権限をも含む。

管理措置としてライセンス保持者は、オペレーターとして引き続き運営することが危険であると判断するような規制及び状況からの逸脱について、管轄機関に報告する義務を持つ監査役を任命する義務を有する。

マルタ当局の立法努力を否定すべきではないが、本法律が仮想金融資産業界の発展の助力となるのかというと、疑問が残ると言わざるを得ない。懐疑的になる理由の一つは、仮想金融資産やプロモーターの本来の精神及び性質からかけ離れた本規制の網羅的性質、硬直した認可システムにある。他方、エージェント及び監査人による介入の義務付けは、IPO及び従来の金融商品の公募のモデルに近づけるものであり、最終的に金融エージェントの存在が永続的なものとなり、この新しいマーケットが法令の要件を遵守するための人とカネのある従来の大手企業の手に収まることに終わる可能性がある。人・カネの裏付けがない新興企業は本サークルより除外されるか、新構想を前進させるためには、構想自体を第三者の手に委ねる必要が出てくる。

要約すると、規制当局の存在は、管理・監督の権限により投資家保護の視点で利益に資するが、規制により仮想金融資産の公募に必要な義務及び条件が金融エージェントの参加の義務化等多岐にわたることによるネガティブな側面も存在する。本法制度は、過度な規制、コスト高、遅い等現在の活発化した市場には不適格であり、ひいては仮想金融資産の健全かつ多様的な発展を妨げる可能性があるといえよう。

 

 

ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)

ヴィラ法律事務所

 

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2018年7月13日