2016年12月21日付登記・公証局決定は、会社が自主的に選任した監査役の登記が存在する場合には、たとえ株主全員が取締役であっても、監査報告書が計算書類に添付されなければ、計算書類の商業登記所への登録がされることができないことを明らかにした。

本件において、ある合同会社が2015年度の計算書類の商業登記所への登録に際し、監査報告書を付さずに計算書類を提出したところ、商業登記官がその登録を認めないとの判断を行なった。当該会社の登記によれば、2015年12月29日付で取締役が2015年、2016年、2017年の3事業年度について会社が自主的に監査役を選任したことが記録されていた。

この取扱いに対し、共同取締役の一人は、会社を代表して、以下の点を主張し、異議を申し立てた。

  • 商業登記所が計算書類の登録を認めなかった法的根拠として2016年3月15日付公証・登記局決定をあげているが、本件において監査役の自主的選任は株主総会ではなく取締役によってされており、当該決定とは前提事実が異なる。
  • 本件において、会社の株主は全員共同取締役であり、従来の登記・公証局の決定で計算書類への監査報告書の添付を義務付ける根拠とする少数株主の権利侵害は生じ得ない。なぜなら、会社の株主が全員共同取締役である以上、監査報告書がなくとも会社の会計に関する情報のすべてにアクセスをすることができる状態あり、株主の情報取得権を制限することがないからである。

これらの主張に対して、登記・公証局は以下の見解を示した。

登記・公証局は、法律によって監査役による計算書類の監査を義務付けられない会社が自主的に監査役を選任し登記している場合には、適切な監査報告書が添付されていない限り、計算書類の登録はされないという原則をその決定において繰り返し確認している。

本件において会社は、監査役が株主総会ではなく取締役によって選任されているため、従来の原則の適用の前提とは事情が異なると主張するが、本局による決定は少数株主の権利保護にその根拠を置いていることから、前提が異なるから決定の適用がないとする主張は認められない。

また、少数株主の権利を害することはないとの主張については、登記所は、いくつかの例外的場合を除いて、会社の株主について公示することがなく、会社の株主構成を把握することは原則としてない。他方、設立時には現在のように共同取締役の体制ではなく、本件の申立人となっている者のみが一人取締役として就任していた。

これらを鑑み、登記・公証局は会社による異議申立てを却下した。

本決定からわかることは、会社が監査役を自主的に選任している場合には、本件のように実質的には少数株主の権利を害するような状態はなくとも、形式上それを確認できる情報を登記官が有することができない以上は、計算書類への監査報告書の添付義務は免れないということである。

 

大友 美加

ヴィラ法律事務所

 

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2017年1月20日