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多くのメーカーやサプライヤーが外国で販路を拡大する手法として販売店契約が用いられる。

そのような販売店契約においては、特定の地域においては、当該販売店に商品やサービスを独占的に販売する権利が与えられることがある。

このような独占販売店契約の検討に当たって、EUにおいては、EU競争法の規制を考慮しなければならない。

近時、この独占販売店契約におけるEU競争法の解釈が問題となった判決がある。

2025年5月8日付EU司法裁判所判決C581/23の事例は、オランダのチーズ生産者と、その製品「ベームスターチーズ」をベルギーで独占的に販売する契約を結んでいた販売店が、別の販売業者がベルギー国内で同製品を販売したことを理由に、独占権の侵害を主張したという典型的なケースであった。

以下、本判決で問題となったEU競争法の規制の内容を整理した上で、判決の内容を概観する。

1.EU機能条約EU競争法101

EU機能条約第101条1項は、事業者間の協定、決定、及び協調行為であって、価格協定、供給制限、市場分割など、加盟国間の取引に影響を及ぼし得、かつ競争を制限・妨害・歪めるものを禁止する。

同第101条2項は、同1項に違反する合意又は決定は、自動的に「無効」となることを規定する。

同101条3項は、技術的・経済的な進歩を促し、消費者が利益を得るなど一定の条件を満たす場合には、同1項の規定が適用されないとする。

独占販売店契約それ自体が直ちに違法とはされないものの、契約条項の中に「競争制限的な制約(例:再販禁止、地域割当など)」が含まれている場合には、同101条1項の違反となる可能性がある。

2.垂直的協定の一括適用免除規則(Block Exemption)

同第101条3項の要件を個別に評価するには非常に手間がかかるが、規則に定められた一定の条件を満たせば自動的に同101条3項の免除が適用されるとする一括適用免除規則が設けられた。

旧規則であったRegulation(EU) No330/2010(以下、「旧規則」)及びそのガイドラインは2022年5月31日をもって失効し、その後継としてRegulation (EU) 2022/720(以下、「本規則」)及びそのガイドラインが2022年5月10日に採択され、6月1日より発効している。

この改訂では、オンライン販売や二重流通(dual distribution)など新形態を盛り込まれた。

一括適用免除規則の対象となるのは、垂直的協定であり、二社以上の事業者が、協定または協調行為の目的上、生産または流通の異なる段階において事業を行い、かつ、当事者が特定の商品またはサービスを買い付け、販売または再販売する条件に関する協定または協調行為をいう。

サプライヤー・販売店間の独占販売店契約は、典型的な垂直的協定に該当する。

そして、本規則第4条(b)は、供給者が独占的流通を運用する場合、独占販売店が契約上の商品またはサービスを積極的(能動的)又は消極的(受動的)に販売できる地域または顧客を制限する場合には、一括適用免除が適用されないとする。

しかし、同条(b)(i)は、独占販売店およびその直接顧客による積極的販売を、供給者が独占的に留保する地域または顧客グループ、もしくは供給者が独占的に割り当てた最大5つの他の独占販売店に限定する場合を、一括適用免除の不適用の例外、すなわち、一括適用免除が及ぶ場合と定める。

なお、本規則の第4条(b)(i)は、旧規則第4条(b)(i)では1つの販売店の割り当てであったのが、上記下線部の通り、最大5つの独占販売店を割り当てることが可能となっている

3.2025年5月8日付EU司法裁判所判決C581/23 Beevers Kaas(以下、「本判決」)

(1)事案

1993年1月1日、オランダに拠点を置くビームスターチーズの製造者であるCono社とベルギーにおける販売店であるBeevers Kaas社は、同チーズのベルギーにおける独占販売店契約を締結した。

Albert Heijn社は、ベルギー及びオランダのスーパーマーケット業界で事業を展開している。同社は、Cono社が生産するビームスターチーズを購入した。

Albert Heijn社が同チーズをベルギーで販売したところ、Beevers Kaas社は、独占販売店契約上認められる独占権を侵害したと主張した。

Cono社とその購入者との間で締結された販売店契約には、Beevers Kaas社に割り当てられた独占地域における積極的販売を購入者に禁止する義務を課そうとする条項は含まれていない。

また、Albert Heijn社を除き、Cono社の購入者のいずれもがベルギーにおいてそのような販売を行っていない。

本件の争点は、旧規則第4条(b)(i)の並行義務付(parallel imposition)要件、すなわち、供給者が、当該供給者の他の全ての購入者による、独占販売者に割り当てられた独占的地域内での積極的販売から、独占販売者を保護しなければならないとする要件、に適合しているかの問題となる。

この点、Beevers Kaas社は、Conoから購入した製品をベルギー国内で販売している再販売業者が存在しないという事実のみから、並行義務付け要件の積極的販売の禁止に対する再販売業者の黙示的承諾を推認できる旨を主張した。

(2)判断

本判決は、「供給者が購入者の一社に地域独占権を割り当てる場合、必ず並行して、当該供給者は他の購入者による積極的販売から当該購入者を保護する義務を負う。」とする。

その上で、並行義務付要件の供給者及び購入者間の合意の方法については、「地域的独占権を有しない購入者と供給者を拘束する販売店契約の条項から、当該契約にそのような販売を行わない旨の明示的禁止が含まれている場合に示され得る。あるいは、当該供給者による当該販売を行わないよう求める要請を購入者が容認したと結論づけられるような、当事者の明示的または黙示的な行為からも立証し得る」とする。

しかしながら、その立証の程度については、「Albert Heijn社を除き、Cono社の他の購入者のいずれもBeevers Kaas社の独占地域内で積極的販売を行わなかったという状況は、それ自体ではEU機能条約第101条の意味における「合意」の存在を立証するには不十分である」とした。

それは、「特に、それらの他の購入者に対してその独占的地域を尊重するよう要求する具体的な連絡がない限り、Cono社が購入者にその地域での積極的販売を行わないよう要請したと結論づけることはできない」、また、「Beevers Kaas社の独占地域における積極的販売の不在が、他の購入者らがConoからの販売禁止要請に従う意思によるものか、あるいは当該地域での販売を行わないという購入者らの自律的な商業的決定によるものかを、十分な確度をもって示すものではない」ことから、「承諾の存在を立証するには不十分である」とした。

本判決は、旧規則を前提とした判決であったが、本規則のもとにおいても意義を有する。

独占販売店契約が、EU機能条約101条1項の一括適用免除を受けるにあたっては、供給者が独占販売店以外の購入者に対し、独占地域での積極販売の禁止を要請し、購入者が承諾をすることを証明する必要があるが、その立証のハードルは容易でないことが明らかになった。

今後の実務的には、本判決が判示した様に、供給者と独占販売店以外の購入者との間の契約において、対象となる独占地域内で積極販売を行わない旨の明示の条項を設けることが求められるであろう。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

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2025年10月3日