計算書類の修正(以下「決算修正」)は、既に作成済みの計算書類上の一定の会計上の誤謬を訂正、もしくは新たな関連情報を記載することを認める法律に定める手続である。しかしながら、規制法および判例法は、当該手続の時期、方法について制限を設けている。
決算修正会計規制の枠組み:スペイン商法および企業会計原則(Plan General de Contabilidad)
決算修正は、スペイン商法第38条第1項c)に定める例外であり、同条項は物的、時間的制限について言及する。
第一に、計算書類の作成から承認までの期間内に会計上の誤謬やリスクが発見された場合に限り、計算書類の再作成が可能であると定める。従って、計算書類承認後には、再度これを作成する可能性はないことになる。
第二に、会計上の訂正や誤りの全てが、決算修正によって是正されるわけではない。会社の財務諸表の真実性に重大なリスクまたは影響を及ぼす誤謬でなければならず、加えて、計算書類の作成の時点で入手可能であった信頼できる情報を使用しなかった、または誤って使用した結果でなければならない。
上記に該当するケースでは、会社は決算修正を行う義務を有す。しかし、時に、計算書類承認後のように誤謬が遅れて発覚することもある。このような場合、計算書類の誤謬の訂正は可能であるが、書類を再度作成する決算修正手続きによっての修正はできない。
上記に一致するが、会計規則上においては、過年度の計算書類に会計上の誤謬が発見した場合、その誤謬が発見された会計年度の計算書類内にて、誤謬を修正しなければならないと定めている。具体的には、引当金を借方または貸方に計上することによって対応する資産もしくは負債を調整する方法で訂正しなければならない。つまり、訂正は、誤謬が発生した会計年度の財務諸表に遡及して計上するのではなく、誤謬が判明した年度の財務諸表に影響する。既に終了した年度を修正することはできない。(スペイン企業会計原則第22評価)。
スペイン最高裁判所の判例及びバルセロナ県高等裁判所直近判決(2024年7月26日付)
バルセロナ県高等裁判所は、直近の2024年7月26日付判決第845/2024号において、過年度の計算書類に会計上の誤謬を発見した場合、これらの計算書類を無効とすること、新たな修正後の計算書類を提出することは適切ではない、とした。その上で、むしろ、前述の企業会計原則第22評価も引用した上で、スペイン商法第38条1項c)の規定に従い、関連性がある場合に限り、会計上の誤謬もしくは不正確さが存在した会計年度の計算書類にこの修正を反映させることが適切であるとの見解を示した。
最高裁判所判決も上記と同様の基準を適用しており、例えば、2022年7月26日付判決第1095/2022号において、商業登記所に承認・登記された決算修正の可能性に関する議論に終止符を打った。本件では、原告企業が、2011年に誤って計上した特別利益に関する会計上の修正のため、同年の法人所得税申告額の是正を求める目的で、更生請求(法人税の減額請求)を行ったことに発端する。スペイン国税庁(AEAT)およびカタルーニャ州高等裁判所(TSJ)は、誤謬はそれを発見した会計年度の計算書類において修正されるべきであり、既に終了し承認された過去の会計年度の修正を通じて修正することはできないと主張し、この可能性を否定した。
最高裁は、以下にあげる3つの重要な原則に基づいて判決を下した:
– 再作成期間の制限: 承認済み決算修正の可能性は、前述の商法第38条1項c)に定めるように、例外的な状況においてのみ、また、作成後から承認までの短期間においてのみ認める。一旦承認、提出された計算書類は、過去の誤謬を訂正するために遡及的に修正することを認めない。このような措置は、第三者に対して保証する義務のある、すでに登記された財政状況の安全性と信頼性を損なうことになるためである。
– 会社財務諸表の真実性原則: 当該原則は、商業登記簿へのアクセスは、企業の財政状態に関する忠実かつ公正な情報の保証を第三者に提供するため、会計的な側面だけでなく、法的な側面をも有する。一旦承認され、提出された計算書類を修正することは、第三者のユーザーに誤解を与える可能性がある。
– 不正防止: 裁判所は、法人税の申告を修正することによって税制上の優遇措置を得ることのみを目的として、会計結果を修正するために既に承認された決算を修正することを認める場合に生じ得る不正行為のリスクを警告している。決算修正が繰り返される可能性は、すでに終了した課税年度の税務結果を調整するために、この慣行が悪用される可能性を開くことになる。
会計の誤謬修正による税務上の影響
税務上の観点から言えば、スペイン法人所得税法第11条第3項は、一時差異の原則により通常の原則に従った場合よりも課税額が低くなる場合を除き、収益と費用は、それらが計上された課税期間に課税されなければならないと定めている。つまり、会計上の誤謬があった場合、その結果生じる調整は、誤謬が起こった会計年度ではなく、訂正が行われた年度に影響を与えるべきであり、つまり、その会計年度の課税額が変更される可能性があると理解できる。
結論
直近判例および規則は基準を明確に示す: 決算修正は、例外的な状況においてのみ、またその作成から承認までの期間内においてのみ可能としている。過年度に発見された会計上の誤謬は、すでに承認された年度に影響を与えることなく、それに対応する資本の調整とともに、発見された年度おいてに修正されなければならない。
当該規制および判例上の枠組みは、不当な税制上の優遇措置を得るために決算修正が悪用されるのを防ぐと同時に、法的確実性及び商業登記簿上の財務情報の透明性の維持を目的としている。取締役らは、特に税務や会計情報が規制当局や裁判所から注視されている時代においては、潜在的な法的及び税務責任問題を回避するためにも、これらの制限、及びいかなる調整も調整が発生した年度内に忠実に反映させることの重要性を認識する必要がある。
フリオ・ゴンサレス (Julio González)
ヴィラ法律事務所