資本会社の譲渡対象が主要な資産かどうかの判断については、これまでにも多くの考察がなされているため本稿ではこれを扱わない。ここでは、譲渡資産の主要性について公正証書に明示的な表明がなく、加えて、これらの文書に関する登記簿へのアクセスもなく、公証人の面前で実行申資産譲渡の有効性または適法性について考察したいと思う。
スペイン資本会社法第160条f)は、会社の主要な資産の譲渡を承認する権限は、株主総会が有すると定める。当該権限は、2014年12月3日付法律第31号において導入されたもので、株主または出資者を会社経営陣による濫用的な処分行為から保護することを目的としている。当該規定は、特定な金額を想定しておらず、会社の存続あるいは経営上に不可欠な性質を有する資産の譲渡ケースのような、通常の経営管理の範囲を超越した行為の場合を対象としている。つまり、ある資産は、比較的価値が低くとも、ビジネス存続のためには会社にとって不可欠(主要)な場合がある。また、その逆も同様だが、ある資産の価値が高くとも、主要な資産を構成しない場合もある。
他方、会社取締役が、会社登記簿に正当に登記された会社目的範囲を超えて執行した行為に関しては、重大な過失なく会社と契約した善意の第三者は保護されるという前提から出発しなければならいことは念頭に置かなければならない(資本会社法第234条)し、本点については後述する。主要な資産を譲渡するという行為は、会社目的の範囲外の行為、また、そうでない場合にしても会社資産の根本的構成要素の処分を伴うことにより会社を存続の危機に晒し、直接的にビジネス活動停止に結びつくような、あるいは登記された会社目的の実質的な変更を伴うような場合は、特別な行為として分類されるべきである。
資産譲渡手続き過程において、公証人、もしくは登記官は、その主要性が明白な場合や、前述の資本会社法第 160 条 f) 項最終条項に規定される主要性の推定が適用される場合は、監査ではなく、取引の合法性を合理的に確保するために関与する。一般的に、譲渡資産が会社にとって主要な性質を有するのかどうかは、公証人の合理的なコントロールを超えるものである。とりわけ「主要性」のコンセプトが確立されていないため、判断は非常に困難である。その一方で、(登記官、もしくは公証人といった)第三者に、資産の価値や主要性の調査、その検証 を背負わせることは限外であるように思う。例えば、ノウハウ、工業所有権、知的所有権の譲渡について考慮すると、その主要性は経営陣のみが判断し得ると思われる。
資産の非主要性についての取締役による表明は、公証人および登記官各々が公正証書を作成・認証し、その後に登記を実行するために十分なものでなければならず、本譲渡に異議を唱える株主の権利を損なうものであってはならないとういうことは、既に十分に立証されている。例外として、資産の主要性が有名、もしくは明白なケースにおいては、公証人が介入して、譲渡予定資産が主要ではないことの株主総会決議提出を求める、そして主要な資産である場合は、呼応する譲渡許可を要求する介入ができる。取引の背景に基づいて、もしくは公証人や登記官自身の知識に基づくと、取締役表明の信憑性に関して合理的な疑念が生じない場合にも、予めこの点に関する株主総会決議提出を要求することは、不適切かつ少々乱暴であると思われる。そうすることは、商業取引の自然な流れの障害となるだけではなく、株主総会に属さない権限を間接的に株主総会に帰属させることになる。
上記を踏まえて、ここでは、公証人が譲渡人と譲受人の両当事者の十分性と判断能力を評価した後、両当事者(とりわけ譲渡人)が、譲渡資産が主要な資産か否かについて明示的な表明をしない場合に注目しようと思う。契約の本質的な要素が存在するのであれば、そのような主要資産の表明の欠如によって法律行為が無効と判断されることはない。実際、例えば他の適正に定められたケースのようには、このような表明を義務付ける法規定は存在しない。当該表明が強制的でない以上、主要資産か否か、株主総会決議が存在するかどうかに関わらず、譲渡行為は、重大な過失を有さない善意の第三者に対しては効力を有する。(資本会社法第234条2項)
したがって、原則として、株主総会の議事録証明書の提出、および、資産譲渡に関する公正証書作成時点に譲渡資産の主要性について取締役が明示的に表明することは両方とも不可欠ではないと結論づけることができる。また、そのような欠如は、資産譲渡にかかる公正証書の登記簿登記を拒否する瑕疵や動機とはならない。しかし、譲渡対象が主要な資産であることが登記官にも明白、例えば、「会社目的の展開に極めて不可欠なことが明白である資産」であることを認識している、あるいはこのことに対し合理的な疑念を有している、もしくは、登記官が登記可否判断を行う証書を分析した際に、その主要性が認められるケースを除外する。
後者の意味においては、2024年10月10日付にスペイン官報にて公示された2024年7月29日付法的安全・公文書管理総局の決定では、当事者のいずれもが譲渡資産が主要であるか否かについて表明をせず、そして公証人は「公正証書化されたビジネス取引に付随する事実および法律要素、特にスペイン資本会社法第160条f)項の規定を考慮して」、買主と売主の権限の充足性についてのみ判断を下した公的証書のケースを扱った際に、その立場を明確に表明している。不動産登記官が、資産が主要か否かの表明の欠如を理由に登記申請を却下したのに対し、法的安全・公文書管理総局は、第一に、表明を行うことは義務ではないこと、第二に、前述の公証人による宣言において、提示された法的取引が合法であるかどうかの確認義務をすでに果たしていると判断できる(スペイン公証法第17 bis条)として、当該決定を覆した。したがって、譲渡対象が主要財産であるか確信がない、もしくは合理的な疑念がない場合、公証人は、本取引の公正証書作成時に両当事者に対し、事前に譲渡資産が主要資産でないことを決議した総会議事録証明書の提出を求めることも、2022年11月21日付法的安全・公文書管理総局決定において既にその見解を確立していたように、当事者となる会社の代表者たる取締役らに、その非主要性に関し明示的に表明することを要求することはできない、と結論づけることができる。
ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)
ヴィラ法律事務所
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2024年10月18日