日本政府は、現預金が投資に向かい、「成長と分配の好循環」を実現していくことを目指している。
そこで、2023年12月13日に「資産運用立国実現プラン」が取りまとめられ、その主要政策の一つとして、金融・資産運用特区が位置付けられた。
2024年6月4日、金融庁は、金融・資産運用特区実現パッケージを発表した。
本稿では、スペインから日本に進出する場合にもっとも影響がありうる施策について、ピックアップしてお伝えする。
I.-対象地域
金融庁は、以下の4地域を金融・資産運用特区の対象地域として決定した。
①北海道・札幌市
②東京都
③大阪府・大阪市
④福岡県・福岡市
北海道・札幌市は、金融機能の強化を通じて、 「日本の再生可能エネルギーの供給基地」として、GX 産業のサプライチェーンの構築や雇用創出を実現していく。
東京都は、グローバルに資金・人材・技術・情報を呼び込むゲートウェイとしての役割を果たし、日本とアジアの成長に貢献していくことを目指す。
大阪府・大阪市は、スタートアップや大学などが果敢にチャレンジすることのできる環境を目指す。
福岡県・福岡市は、福岡の特性と親和性の高い資産運用業・フィンテック等を重点誘致分野として、誘致活動や環境整備などに取り組んでいく。
II.- 日本でのビジネス開始にあたっての取り組み
・日本参入時の法人設立に伴う手続きに関する英語対応
会社設立に必要な商業登記・定款認証に係る申請において、自治体の協力が得られることを前提に、英語での申請が完結するよう申請書及びこれに添付する定款等の英語での作成を支援する方策について2024 年度中に所要の措置を講ずる。
在留資格認定証明書交付申請手続において、申請書に添付する参考資料が英語 により作成されている場合は、日本語訳の添付を不要として運用されている。この運用を明確化した上で利用者に周知することについて、2024 年度中に所要の措置を講ずる。
・スタートアップへ投資する外国人投資家向け在留資格の創設
スタートアップ企業への海外からの投資を呼び込むため、国家戦略特区において、一定額を日本国内のスタートアップに投資するとともに、特区内のスタートアップエコシステムの形成・発展に寄与する活動を行うこと等を要件として、投資家(エンジェル投資家を含む)向けビザを創設することについて、2024 年度中をめどに必要な措置を講ずる。
・外国人銀行口座の開設支援
外国人による銀行口座の開設については、言語の壁、審査書類の提出対応等で、 開設までに多くの事務手続き負担や時間を要するケースがみられることを踏まえ、 銀行口座開設手続きの迅速化・円滑化を図る観点から、金融庁が中心となり、2024年度中をめどに金融・資産運用特区の全4地域において実証的に、海外からのビジネス進出を志向する外国人に対する金融機関・自治体による支援ネットワークを構築(銀行での専門人材の配置等の態勢整備、自治体の伴走型支援等)する。
III. エネルギー関連事業に影響を与える施作
・圧縮水素の貯蔵量上限の緩和
建築基準法上の用途制限における圧縮水素貯蔵量の上限規制について、特区提 案に基づく先行的取組みとして、提案に係る水素貯蔵施設の整備を進めるため、 経済産業省及び国土交通省が提案自治体と連携して、特例許可を受けるために必 要な保安基準等を検討し、2024 年度中に結論を得る。その結論を踏まえつつ、水 素の社会実装に向けて、両省が連携して上限規制の適用を除外するために満たすべき高圧ガス保安法等の保安基準を定めるための検討に速やかに着手する。
・洋上風力発電設備の設置・保守に係る外国籍船の利用及び外国人材の活用
洋上風力発電設備の設置・保守に要する作業船が不足し、外国籍船を活用する 場合に必要となる船舶法第三条但し書きに基づく沿岸輸送の特許の付与について は、当該設備の設置・保守に関する輸送内容が明らかになった時点で日本籍船のみでの対応が困難である場合に、当該設備の設置・保守に関する複数の輸送に対してあらかじめ特許を付与することについて、事業者の予見可能性を高めるため、 2024 年度中に必要な省令改正等を行う。
・排他的経済水域における洋上風力発電設備の設置等
海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案を令和6年通常国会に提出された。
領海・内水及びEEZ における洋上風力発電事業の区域指定を行うための国による海洋環境等に係る調査等の実施、およびEEZにおける洋上風力発電設備等の設置に係る制度を盛り込んでいる。
本議案は、令和6年5月28日に衆議院では可決されたが、令和6年6月21日に参議院で継続審査とされている。
これまで少ないとされてきた日本に対する投資であったが、最近の円安や、本稿で説明した投資環境の改善により、以前よりは日本に対する投資は期待できる状況となってきている。
本稿後半で見たとおり、スペインが得意とするエネルギー関連事業に関する施作も多く盛り込まれていることから、今後、スペインの企業からの日本への投資が活発化し、両者のさらなる経済的な関係の構築が行われていくことにも期待したい。
南智士 (Satoshi Minami)
ヴィラ法律事務所
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2024年8月30日