本稿にて検証する問題は、インターネット検索エンジンにおいて商標権者による同意なく第三者によって商標が使用されることの合法性、すなわち、インターネット上の商標権侵害である。
2022年4月20日付最高裁判決(判決番号第330/2022号)はインターネットの検索エンジンにおける第三者による登録商標の同意なき使用は、一定の条件を満たす場合には、商標権の侵害となる旨を判示した。
判決の対象となった事件における具体的な認定事実は、以下の内容である。
1) Grupo Ilusión de Ortodoncista, S.L.社(以下「GIO社」)は「Clínicas Ortodonicis」という商標の権利所有者である。
2) Laboratorio Nicolás, S.L.社(以下「LN社」)は「Vital Dent」商標の権利保有者であり、Vital Dentのフランチャイザーである。
3) Google検索エンジンを使用して「Clínicas Ortodoncis」という単語を入力すると、その検索結果にClínicas Ortoconcisに関連する広告が表示されるが、Vital Dentの所有者のウェブサイトアドレス及び連絡先電話番号が表示された。
4) これらの広告をクリックすると、「Clínicas Ortodoncis」の見出しではあるもののVital Dentの写真を伴ったボックスが立ち上がった。また、検索エンジンで「Clínicas Ortodoncis」商標を検索すると、Vital Dentのウェブページが立ち上がった。
5) この検索結果はGoogle「アドワーズ」によるものであり、自然の検索結果ではなかった。これは、Vital Dentのウェブページの所有者が「Clínicas Ortodoncis」という単語を検索キーワードとした契約をGoogleと結んだことの結果である。
GIO社はLN社に対して、登録商標である「Clínicas Ortodoncis」の侵害及び不当競争行為(不当競争防止法第4条に定める誠実義務違反、同法第6条に定める混乱行為、第12条に定める他社の評判搾取行為、第20条に定める連想リスクによる混乱行為、及び第25条に定める詐欺行為)を理由に訴えを提起した。
本稿では、上記行為のうち、商標権侵害に関する問題に焦点を絞る。
上告人がその上告理由に対する最高裁の論拠は注目に値する。上告理由においては、欧州司法裁判所の見解では、Google アドワーズ検索の広告サービスにおけるキーワードとして登録商標の名称が第三者によって合法的に使用されることを保証している旨が主張されていた。欧州司法裁判所によれば、当該行為において使用されるのは商標独自の文字ではなく、単なる名称(ortodoncis)であってその独自性は弱められており、その使用を禁じるのは欧州規則第89/104号の第5.2条及び欧州規則第40/94号第9.1条c)号に定める自由競争に反することとなるとされた(事件番号C-323/09号及びC-94/2017号)。スペイン最高裁は、下記の複数の理由に基づき、上告を退けた。
- 上告理由の中で用いられた判決について、最高裁は、事件番号C-236/08及びC-238/08号(Google Franceケース)に関連して出された2010年3月23日付欧州司法裁判所判決を使用した。当該判決は、本件判決の目的である事件の根底にある見解を定めるものである。最高裁は、上述の欧州司法裁判所判決は、前述の条項は、広告が平均的なインターネットユーザーが広告に含まれる商品又はサービスが商標権の保有者又は経済的に関連する会社から提供されるものなのか、反対に、第三者から提供されるものなのかを判断することができないような場合、商標権の権利保有者が、商標と同一又が類似するキーワードに基づき、インターネット上のレファレンス・サービスの枠内で所有者の同意なく第三者(広告主)が登録商標と同一又は類似の商品又はサービスの広告を行うことを禁止するための権限を有すると理解すべきであると宣言されことの証拠であるとした。この判決を補強するため、最高裁は「Interflora事件(事件番号C-323/09号)」の判例法理を引用した。この法理は、商標権保有者の禁止権限は商標の未承認使用が商標のなんらかの機能、すなわち、原産地、投資機能又は広告機能に障害を伴う場合には拡張できるという意味で、判断基準を改善するものであった。
- 上記法理を鑑み、また、本事案に当てはめを行い、最高裁は以下の事項が証明されたと考えた。
(1) Vital DentはGoogleとアドワーズサービスを締結した。
(2) 申請された名称は原告の登録商標と一致するものであった。
(3) 原告及び被告に提供されたサービスは同一のものであった。
Vital Dentのウェブページのリンクを伴う広告が「Clínicas Ortodoncis」というキーワードに続いていたことを考慮し、最高裁は、平均的なインターネットユーザーが広告のサービスが商標権保有者又は経済的に関連する会社から提供されるものなのか、第三者から提供されるものなのかを判断することができず、提供されるサービスがどの会社のものなのかを特定する機能が害されているとして、商標が同一のサービスを特定するために所有者の同意なく使用されたことを認めた。
原告に生じた損害については、商標法第43.5条及び2011年5月31日付最高裁判決第351/2011号を適用し、被告の請求金額の1%相当の金額を原告に支払うことを認めた。なお、上記判決において、法によって明確に定められている場合、立証する必要なく直接損害賠償を適用することが可能であることが確立された。商標法第43.5条に定める第三者の商標権侵害者が支払うべき損害賠償額の推定は、算定不可能、もしくは非常に困難なために最終的に賠償がなされない恐れがあるケースの経済的損失及び逸失利益を正確に特定するために運用される。他方、最高裁は、上述の被告の売上高は、違法に表示された全てのサービス、つまり、本件訴訟において、原告の商標権を侵害することを通じて広告・宣伝されたことが証明されたあらゆるサービスから生じるものであり、当該広告から実際に生じた売上げ否かを区別する必要はないことを警告した。
ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)
ヴィラ法律事務所
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2022年7月8日