本稿では、2017年5月4日付の国際投資紛争解決センター(ISCID)仲裁裁定 事件番号ARB/13/36号について述べる。
申立人であるEiser Infrastructure Limited社及びEnergía Solar Luxembourg SARL社は、国際投資紛争解決センターに対しスペイン王国を相手として、以下の事実及び論点を根拠とした仲裁を申し立てた。
- 申立人はスペイン勅令(RD)2007年第661号の規定枠組みによってもたらされる経済的な期待に基づき、太陽光発電所の投資を行った。当該勅令は、政府の予算があてがわれる電力の固定買取価格制度を定めていた。
- 2007年に引き起こされた経済危機により、 スペイン政府は勅令2007年第661号により設けられた固定買取価格を維持するための予算を継続することができなくなり、一連の立法措置により、申立人の太陽光発電所にかかる経済制度が修正された。さらに、2013年法第24号、勅令2014年第413号及び命令IET2014年第1045号を制定した。
- 新しい枠組みは固定買取価格の減額を想定しており、結果として、当時存在していた固定買取価格制度を基礎とした第三者の資金でプロジェクトの資金調達をしていた申立人の収入が大きく減少した。このように、新しい枠組みによりもたらされた資金フローでは、既存の債務の返済に足るものとならなくなった。
- 申立人は、スペインの新しい枠組みは、エネルギー憲章に関する条約(「TCE」)が定める手続き義務、具体的には、同条約第10条及び第13条に違反するとして、訴えた。
仲裁裁定はそのすべての局面において、投資家への「公正かつ衡平な待遇」 の保証に関連した問題について強調して言及していることは興味深い。要約すると、ISCIDは以下の裁定をくだした。
- TCE第13条に反する「間接的な収用」の概念及び本件における潜在的な存在について、仲裁裁判所は、2012年のCharanne vs スペイン王国の事件と同様に、法令の改正によって重大な影響が引き起こされたという事実だけでは、重大な収用と評価されるためには不十分であると判断した。2012年のUNCTADのレポートでの収用の定義にもあるように、法令の改正によって被った損害は、名実ともに投資の「価値の損壊」であると評価されなければならない。
- 法的枠組みが将来的に修正されないことを投資家に保証しているわけではない。TCE第10条のいう「安定性の原則」は、特別に明確な合意が存在しない場合には、法令の改正が不可能であると曲解することはできず、すべきでもない。国家は、日々の問題や、より高度な利益である公共の利益に対応するために、法令を改正する権利を有しているが、それは一定の条件下のもとでのみ可能である。
- 法令の改正は、非合理的、法外、又は無慈悲なものであってはならない。本件の場合、仲裁裁判所は、太陽光発電所にかかる新しい固定買取価格制度の枠組みは、申立人から実質的に投資の価値のすべてを奪うものであり、「不平等かつ不公平である」と結論付けた。つまり、仲裁裁判所は、投資財産は投資家の手から奪われていないにもかかわらず、国がこれらの投資価値を奪ったとして、本件法令の改正は名実ともに間接的な収用を引き起こしたとみなしたといえる。
- また、仲裁裁判所は、法令制度は変化する可能性があること、そして投資家は、あらかじめ投資に関連する法的枠組みに関する知識の習得のみならず、それ自体の修正の可能性についても予想すべきであるが、投資家は投資価値の剥奪を想定すべきでないことを確認した。 したがって、TOTAL社 vs アルゼンチン政府の事件(2010年4月1日ISCID仲裁裁定)やOCCIDENTAL社 vs エクアドル政府の事件(2004年ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA) UN第3467号)において用いられた意味で、投資家に「公平な待遇」を与えることは、国の義務である。
- 最後にISCIDは、 新しい固定買取価格制度は収益性の計算の基礎となるが、2014年以前の典型的な太陽光発電所の費用見積もり時には現実的な数字ではなかったことから、2014年命令IET/1045号による2014年の新しい法令制度は、申立人から実質的にすべての投資価値を奪うものであり、申立人への公平な待遇を奪ったと評価した。当該命令は、新規の太陽光発電設備と既存のもののいずれにも適用されるものであるところ、その経済的持続性の基礎を2007年勅令第661号の定める固定買取価格とし、新しい制度における固定買取価格では持続することが難しい既存の設備にとって、極めて有害なものである。
上述により、仲裁裁判所は申立人に対して128百万ユーロの損害を認めた。この金額は、申立人の投資額の総額と一致するが、申立人の主張のうちのいくつかについては認められなかったため、申立人の請求額には遠く及ばないものであった。
公正な待遇と不公正な待遇の境界線、及び、公共の利益に資するが私的投資にはネガティブな影響を及ぼすような法令改正が間接的な収用に該当するかの判断基準は、あまり明確であるようには思えない。TCE 第2条にいう安定した法的枠組みの原則は、特に国と投資家との間に特別な同意が存在しない場合、及び法的枠組みの改正が緊急を要するような状況においてもなお、不変の原則として国家を拘束することはできない。
法的枠組みの一時的な改正の影響を評価することは適切である。国がある特定の緊急事態において公共の利益を保護するために私的利益に反する規則を設けた場合には、危機を乗り切った時点において元の状況に戻すことができるのと同様である。また、ある会社が一定の経済危機の状況を乗り切るために 労働者の一時的な損失において、集団の利益のために雇用の規制を実施することができる。国においても同様の権利があると考えることはできるはずであり、その理由は公共の利益の保護である。
では、公共の利益保護を理由とした一時的な枠組みの変更の場合であったなら、間接的な収用に等しい投資価値の剥奪とみなされただろうか。
国の対応で非難されるべき点は、2007年の制度枠組みを定める時点に見るべきだろう。まず、現実的な提案とは言いがたく、外国からの巨額投資を惹きつけた投資家への約束を長期にわたって維持することへの責任が欠けており、中長期的に固定買取価格制度の資金をどのように維持すべきかについての知識を有していなかったこと。次に、2007年の規制枠組みに基づいたプロジェクトを有する投資家にとって不公正で有害な状況となることを避けることができるような、前進的な規制枠組みや新規投資と既存投資とを区別するような経過措置を考えなかったこと。この点からすれば、申立人への経済的補償は結果として公正なものとなるだろう。
要するに、国の立法権は投資家の公正な待遇原則に優位するが、これは、経済状況がそれを必要とし公共の利益に応えるために、たとえそれが私的利益を害する可能性があったとしても、国がその法的枠組みを変更できる、もしくは変更すべき、ということを意味すると結論づけることができるだろう。仲裁裁判所は、法的枠組みは安定かつ透明性を有することが重要であり、そうあるべきであるとし、そうでなければ外国からの投資を誘致することができず、法改正がされる場合には合理的でなければならず、投資がから投資の価値を剥奪するような無慈悲なものであってはならないと示した。しばしば、法令改正は投資家にネガティブな影響を与えることがあるが、これが投資価値の破壊に該当しなければ補償問題は生じない。さらに、国が私的利益に反した法令を制定することはできるし、その方法によっては、公共の利益を重んじる結果、投資家から強制収用するような効果を生むこともある。しかし、当該効果は国の法的自治を制限するのではなく、単に、国が影響を受ける者への公正な補償を行うことを義務付けるものである。
ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)
ヴィラ法律事務所
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2017年5月19日