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著名(周知)商標とは、商標の対象となる商品またはサービスについて公衆の知名度が非常に高い商標のことを指す。EU商標の分野では、当該商標が登録されていること、そして欧州連合の実質的な地理的地域、少なくともあるEU加盟国において著名なことを特別要件とする。

著名商標の性質及び存続に関しては、商標をどのように取得したのか、地位証明の責任は誰が負うのか、また著名商標は突然消滅することがあるのか、という疑問が生じる。

2024年4月24日付欧州連合司法裁判所(CJEU)の判決は、上記の疑問への回答及びその他の点で示唆を与えるものである。

判決で示された本件の事実関係は、次の通りである。

  • 2019年、コスメティクス製品の製造販売を行うドイツ企業であるクナイプ(alemana Kneipp GmbH)は、欧州連合知的財産庁(EUIPO)に対し、「Joyful by nature」という名称の商標登録を申請した。商標登録の区分は、第3類(化粧品)、第4類(アロマキャンドル)、第35類(マーケティングサービス)、第44類(美容サービス)である。
  • 2022年2月、フランスの著名な香水会社であるJean Patouは、2016年に登録された第3類のCTM「JOY」に基づき、同道標登録に対する異議申立を行った。
  • Jean Patouは、共同体商標に関するEU規則2017/1001の第8条(1)(b)および第5条に基づく異議申立を行い、EUIPOはこれを全面的に認めた。
  • 2022年3月31日、クナイプは決定に対する不服申し立てを行い、EUIPOは決定を一部取り消し、第35類に出願された商標の使用を認めた。 しかし、他の商品及び役務の区分については不服申し立てを棄却した。
  • 欧州連合司法裁判所は、EUIPOの決定に対してクナイプ社が起こした上訴を審理し、以下のように判示した:

「著名商標」の地位について、裁判所は、「JOY」の商標が欧州連合、少なくともフランスにおいて、香水及び香水製品について評判を得ていることを認める。公衆の一定以上の割合がその商標を認知しているという要件はないが、その商標が存在するか否かを判断する目安となる特定の要素があるとする。すなわち、使用の度合い、地理的存在感、使用期間、当該商標を宣伝するための投資の規模に注目する必要がある。これらの要素がすべて存在する必要はなく、むしろ、これらの要素(又は利用可能な要素)を組み合わせ調査することにより、その地域の相当部分において著名商標の存在を判断することができる。  本件において、裁判所は、第三者との「JOY」

」商標のライセンス契約の写し、インターネットサイトからの抜粋、記事、書籍からの参照及び抜粋、受賞歴、広告及び請求書か、請求書からの抜粋、ソーシャルネットワーク上での活動の証拠からなるJean Patouが提出した証拠を十分なものとみなした。これらはすべて、「JOY」商標が欧州連合の重要な地理的地域、すなわちフランス、及びその商標の下で商品が販売されている他の加盟国において、「関連する」公衆の一部に知られていたことを示すのに十分であるとみなされた。

商標の著名性の確立又はその喪失は、特定の商品や役務に関する商標の市場認知、又はそのような認知の消失、又は特定の商品や役務と商標の関連性に関する消費者の認知の証拠に基づいているため、このセクションは特に興味深いものである。いずれにせよ、そもそも、著名商標の所有権に基づいて商標登録出願に異議を唱える者は、第三者が出願した日にその商標が存在していたことを証明しなければならない。

Jean Patouは、「JOY」商標が特にフランスで(他のEU圏でもそれなりに)評判があったことを示唆する証拠を提出したが、その証拠が、「JOY」商標が最近あまり知られなくなっていることを示唆していたことも事実である。CJEUは、著名商標が時間の経過とともに低下する可能性があるにもかかわらず、「歴史的」な商標が、たとえそれが使用されなくなったとしても、ある程度の評判を保持する可能性を否定できないことを認めている。

実際、裁判所は、「JOY」商標の評判の程度が近年低下している可能性があることを認めた上で、法的分析は、商標の出願人(クナイプ)が出願した日(2019年)まで遡らなければならず、「JOY」は、残存しているとはいえ、その時点で評判の一部を保持していた商標であることを示した。 通常、商標が時間の経過とともに漸進的に著名になるのと同様に、その喪失も原則として漸進的に生じるというのが裁判所の理由である。

そして、ここにクナイプの争いの主な理由の一つ、すなわち、名声の継続又は毀損を証明する責任は誰にあるのかがある。時間の経過によって徐々に、あるいは突発的な出来事の発生によって突然に、商標の名声が消滅するという具体的な証拠がないことこそが、商標の名声の存続を維持することを可能にしている、と裁判所は判示する。これまで述べてきたように、歴史的商標の名声は一般的に時間の経過とともに存続し、時間の経過とともに徐々に消滅するものであり、突然消滅するものではない。そのような証拠がない場合、商標は長年にわたって獲得した名声の一部を保持していると推定される。

裁判所は、Jean Patouが提出した証拠の多くが2013年から2017年の間のものであり(一部はそれよりもかなり前のもの)、まさに歴史的商標の存続という基準に基づいているというクナイプの主張を受け入れなかった。そして、このような場合、一般的な原則として、名声のある商標は徐々に消えていくため、そのような地位の大幅な停止を引き起こした出来事の併存を証明するのは異議申立人次第であると付け加えた。この義務は立証責任の逆転を意味するものではなく、むしろこの基準は裁判所の判例法と一致している。

判決は、「JOY」商標が著名商標として存続していることを立証した上で、クナイプが出願した商標の識別力は平均的なものであるが、著名商標との間に音声的及び視覚的な親和性があることを確認することで結んでいる。 これに加えて、市場の状況、特に特定かつ関連する公衆による著名商標の認識、つまり、クナイプが先行する商標である「JOY」の著名性を不当に利用するおそれがあり、その結果、新しい商標がカバーする商品と既存の著名商標がカバーする商品とが結びつけられ、消費者の間で両商標の混同が生じ、したがって、商品の出所についても混同が生じるおそれがあることである。

上記のすべての主張を考慮し、裁判所は、商標「Joyful by nature」(第35類を除く)を拒絶したEUIPOの決定を支持した。

 

 

ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)

ヴィラ法律事務所

 

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2024年5月17日