日本において個人で活動するフリーランスは、企業との間のパワーバランスにおいて弱い立場に置かれていた。また、フリーランスは雇用されていないので労働法でも保護されていなかった。

そのようなフリーランスに一定の保護を図るため、2023年5月12日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律25号)(以下「フリーランス法」という。)が公布された。

このフリーランス法は、2024年11月1日施行される。

日本のフリーランスと取引を行う海外の事業者にも影響がある法律であるため、本稿でその概要を説明する。

I.-フリーランス法の海外企業への影響

2023年4月21日の参議院本会議における後藤茂之大臣の答弁によれば、国・地域をまたがるフリーランスへの業務委託については、その業務委託の全部または一部が日本国内で行われていると判断されればフリーランス法が適用されるとし、 具体的には、日本に居住するフリーランスが海外所在の発注事業者から業務委託を受ける場合や、海外に居住するフリーランスが日本に居住する発注事業者から業務委託を受ける場合について、委託契約が日本国内で行われたと判断される場合や、業務委託に基づきフリーランスが商品の製造やサービスの提供等の事業活動を日本国内で行っていると判断される場合が含まれるとしている。

法令や裁判所の判断ではないものの、上記の基準は一定の参考になるものと考えられる。

II. 保護の対象となるフリーランスとは

保護の対象となるフリーランスについて、「特定受託事業者」という用語が用いられ、次の条件を満たすものとされている(フリーランス法第2条)。

(i)個人であって、「従業員」を使用しないもの

(ii)法人であって、1名の代表者以外に役員がおらず、かつ、「従業員」を使用しないもの

上記の「従業員」とは、週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を指す。

つまり、個人が、週15時間だけパートタイムを1人だけ雇用をしている場合には、当該個人は「特定受託事業者」に該当することになる。

ただし、取引相手方のフリーランスが雇っている従業員が何時間働いているかなどの情報は、通常分かる情報ではない。

厳密に法規制が適用されるかどうかを逐一判断するよりかは、相手方にフリーランス法の適用がないとしても、個人かそれに近しい法人と取引をする場合には、フリーランス法の規制に従った対応をしておくことが望ましいと言える。

III. 業務委託事業者に課される義務

1.契約条件明示義務

業務委託事業者は、フリーランスに業務委託をした場合には直ちに、契約条件を書面又は電磁的方法で明示する義務を負う(法3条)。

書面には、各当事者の名称、業務委託をした日、フリーランスの給付・役務の内容、給付受領・役務提供の日・期間、給付受領・役務提供を受ける場所、給付・役務に検査をする場合、その完了期日、報酬額(明示困難な場合は算定方法)及び支払期日、(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項などを記載する必要がある。

2.報酬支払期日

フリーランスに業務委託をした場合には、給付受領日・役務提供日から起算して60日以内に報酬を支払う義務がある(フリーランス法4条1項・2項)。

ただし、フリーランスに再委託する場合で、再委託であることや元委託の一定の情報をフリーランスに明示したときは、元委託支払期日から起算して30日以内にフリーランスに対し報酬を支払う義務がある(フリーランス法4条3項・4項)。

3.遵守事項

フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、次の行為はしてはならない(法5条)。

  • フリーランスの帰責事由のない給付受領拒絶
  • フリーランスの帰責事由のない報酬減額
  • フリーランスの帰責事由のない給付物の引き取り
  • 通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由なき物・役務の強制
  • フリーランスに経済上の利益を提供させ、その利益を不当に害すること
  • フリーランスの帰責事由なく給付内容を変更し又はやり直させ、その利益を不当に害すること

4.中途解除等の事前予告・理由開示

6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければならない。

そして、予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければならない(フリーランス法第16条)。

5.   その他の義務

業務委託事業者は、広告等によりフリーランスの募集を行うときは、その情報について、 虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならない。(フリーランス法12条2項)

また、業務委託事業者は、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならない。(フリーランス法第13条1項)

さらに、業務委託事業者は、ハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう 相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならない。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

より詳細な情報につきましては下記までご連絡ください。

va@vila.es

 

2024年10月11日