現在スペイン政府が採用している緊急特別措置の中でも、2020年3月17日付スペイン勅令法第8/2020号は、労働関連の一連の措置を定めている。本稿ではその内容を簡潔に説明する。
1. 雇用契約の一時停止と勤務時間短縮
第一に、ERTEと一般に呼ばれる措置は、雇用契約の解除を意味するEREとは異なり、一時的な雇用契約停止を指す事を明確にする必要があろう。よってERTE終了後には、労働契約条件はERTE宣言前の状態に回復する必要がある。事実、通常のERTEを修正する当該措置を採用するにあたり、前述の勅令法は、会社の事業活動が再開してから6ヶ月間の雇用関係維持を義務付けている。同様に、全部もしくは一部従業員との雇用関係の完全一時停止、もしくは勤務時間短縮のような措置も可能としていることも特筆すべきである。
ERTEの種類に関しては、不可抗力を直接原因としたケースと、不可抗力に起因した経済的・技術的・組織的及び生産的理由によるケースとを区別する必要がある。
A.- 不可抗力によるERTE
COVID-19(非常事態宣言も含む)に起因する活動機会喪失は以下の場合を意味する:
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- 事業活動の停止もしくは中止
- 公衆が集合する場所の一時閉鎖
- 公共交通機関の制限
- 通常の活動の継続を深刻に妨げるような供給不足
- 衛生保険行政機関による、もしくは緊急かつ特別状況下の、及び従業員の感染による予防的隔離措置
これらのケースは、他のERTE申請書類とともに、状況の報告書を作成し正当に証明される必要がある。
手続き:
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- 必要であれば関連証明書類を含むCOVID-19に起因する活動喪失に関する報告書を添付して会社が申請することにより手続き開始となる。会社は自社のERTE申請を従業員に通知し、従業員代表者に対し報告書及び証明書類を提出する。
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- 不可抗力の存在は、影響を受けた従業員数にかかわらず管轄労働当局に報告される必要がある。
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- 労働当局がITSSと呼ばれる労務・社会保険事務所に報告書の提出を請求した場合(任意) 5日以内に報告書を発行する。当該機関の延長は不可能とする。
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- 管轄労働当局は、申請から5日以内に承認結果を通知する。会社が主張する不可抗力の存在を確認することにとどまる。雇用契約の一時停止若しくは勤務時間短縮のいずれかを適用するかは、会社の決定事項となり、不可抗力の原因となった事象が発生した日に遡り有効となる。
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社会保険費用の納付:
COVID-19という不可抗力に起因する雇用契約の一時停止若しくは勤務時間短縮期間中、会社は以下の異なる条件により社会保険費用の支払免除を請求できる。
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- 2020年2月29日の時点で、総従業員が50名未満の会社の場合は、100%の免除
- 上記の時点で50名以上の従業員を有する場合は75%の免除
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上記措置は被雇用者には影響せず、社会保険料納付の継続状態を維持する措置であることも特筆に値する。
B.- 経済的・技術的・組織的及び生産的理由によるERTE
本件に該当する理由にて雇用契約の一時停止若しくは勤務時間短縮を決定する会社は、通常のERTEの場合と同様に、従業員の代表者にERTE開始の意図を通知しなければならない。
労働者の法定代表者が存在しない場合は、交渉を進めるための労働者代表委員会のメンバー選任のための一連の特別措置が採られる。いずれにせよ、代表委員会の成立のためには、延長不可能な5日間が与えられる。
上記期間が経過後、従業員の代表者及び管轄労働当局に、協議期間の開始が通知される。当該管轄労働当局は、会社の事業活動のテリトリーにより管轄自治州若しくは州に属する。
従業員の代表者若しくは代表者委員会との協議期間は7日を超えることはできない。(通常の法定期間15日に置換される)
協議期間が終了したら、事業主は管轄労働当局に交渉結果を通知する。当該当局は、ITSSに報告書を要請でき、本書は7日以内(通常の法定期間は15日に置換される)に発行されなければならず、この期間は延長不可能とする。
管轄労働当局に適正な通知をした後、事業主は決定意思を対象従業員に対し個別に各自の条件を通知する。
2. 勤務時間の調整及び短縮
配偶者やパートナー、および二親等以内の血縁者に対する扶養・介護義務があることを証明できる労働者は、COVID-19の集団感染防止のために必要な行動に関する例外的な状況に該当する場合、労働時間の調整または短縮の権利を有する。
上記措置を申請するための例外的な状況は以下となる。
- 年齢、疾病若しくは障害のために、前述の者の個別かつ直接の世話のため労働者の存在が必要な場合。
- 教育施設や、介護・支援施設の政府主導の閉鎖や、これまで介護・支援にあたっていた者が不在の場合。
労働時間の調整や短縮の権利は、親、介護者各自個別の権利だが、会社の状況に応じて正当かつ適切、釣り合いのとれたものである必要がある。
a) 勤務時間の調整
COVID-19影響下の例外的な期間に限定して、シフトの変更、勤務時間の変更、フレキシブルな入・退社時間、分割または連続勤務、勤務地の変更、職務の変更、テレワークを含む勤務形態の変更、または社内で利用可能なその他の勤務形態へ、若しくは適切かつ釣り合いの取れた方法で勤務時間の調整を実施することができるものとする。
b) 勤務時間の短縮
本非常事態宣言下における勤務時間短縮及び給与減額の権利には、以下の特別措置がある:
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- 労働者は時間短縮の申請を、短縮希望開始時間から24時間前に会社に通知する必要がある。
- 本件時間短縮は、勤務時間の100%までに達することができる。
- 年齢、事故又は疾病のために自立できない二親等以内の親族の直接の世話のために勤務時間を短縮する場合においては、要介護注意者の有給の活動を禁じない。
- 労働者が以前に、法定後見人であることにより労働時間の短縮の権利を享受していた場合には、一時的にその権利を放棄、又は享受条件を変更する権利を有する。
3. 失業保険給付
会社が前述の手続きを実行する場合、公共職業安定所は、
– 本勅令法の発効前に雇用契約の開始がある労働者については、失業保険給付のための最低納付期間に達してなくとも、失業保険の受給資格を認める。
-非常事態宣言下に前述の理由による失業保険の受給期間は、法定受給期間上限の算出条件には加算されない。
4. テレワークの推進
一時的な事業活動停止や、事業活動時間の短縮に対する代替措置として、在宅勤務を優先する。会社は、技術的、合理的に可能な限り、これらの代替措置の利用を可能にする組織システムを構築すべきとする。
更には、中小企業のデジタル化推進のため、デジタル機器及びサービスの購入・リースを可能とする今後2年間で2億ユーロの融資枠を設定し、テレワーク形態による遠隔勤務に対応できるような措置も決定する。
5. フリーランス及び自営業者
本勅令法が発行した日から1ヶ月間もしくは、非常事態宣言が延長された場合には、本非常事態宣言が解除されるまでの例外的措置として、自営業者もしくはフリーランスで、事業活動が一時停止、または本件給付金申請の前月の売上高が、過去 3ヶ月の平均売上高に対して75%以上減少した場合には、特別給付金を申請する権利を有する。本件申請のためには、以下の要件を満たす必要がある。
- 非常事態宣言発令時に、就労形態に呼応する社会保険に加入・登録していること。
- 事業活動が直接中断・閉鎖されていない場合は、直近の3ヶ月間比で売上高が少なくとも75%減少していることを証明する必要がある。
- 社会保険料納付に滞納等のないこと。滞納等がある場合には、会社の管理機関に対し30自然日以内の対応が要求される。
本特別措置で設定される給付金額は、該当設定金額ベースに70%を適用して決定する。当該給付金受給期間も、社会保険料拠出期間と理解されるものとし、将来受領可能な活動停止給付金受領期間に影響しない。また本給付金は、スペイン社会保障制度の下での他の給付金と同時受領は不可であるとする。
マデロ・ハイメ (Jaime Madero)
ヴィラ法律事務所
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2020年3月27日