本稿では、個人所得税申告時において食事手当、交通費、及び維持・生活費として取り扱われる従業員が受け取る諸手当の正当性に関する近時の最高裁判例を検証する。

2020年5月18日付スペイン最高裁判決第429/2020号案件は、ある有限責任会社(S.L.)の出資持分の一部を有する従業員かつ取締役である者が、複数年の個人所得税の申告について会社から支払われた交通費及び維持・生活費に関する追加書類の提出を、税務署から求められたことに発端した。

本件に関しては、2つの争点が生じた。1つ目は、当該費用が実際に存在することの証明責任が誰に生じるのかの決定、2つ目は、立証責任という効果において従業員と取締役が同一人物であるという事実の重要性を明らかにすることに関連する。

上記1つ目の争点について最高裁は、「支払額が課税対象か非課税かの立証責任は納税者に帰属するという原則に基づくものの、2つの関係性が生じることとなる。つまり税務署と納税者を結びつける主たる関係と、税務署と納税者の給与支払者/源泉徴収義務者とを結ぶ付随関係とに分けて明確にしなければならない。後者の関係の性質上、納税者にはない証明手段を給与支払者が持つ場合、管轄当局である税務署は後者に立証責任を負わせるという一般ルールの調整措置に言及する必要があろう。これは、証拠へのアクセシビリティの原則を根拠とする。」との見解を示した。

上記に関連し、最高裁は税務当局に対し、当該費用の証明は従業員ではなく雇用主が実行すべきであるとした。給与支払者/徴収義務者たる雇用主は、当該コンセプトによる支払が、特定の日時・場所での出張費用と一致していることを証明する義務を有しているためである。納税者は、確定申告書に会社が発行した源泉徴収票を添付する義務を負うにとどまる。税務当局がこれでは十分ではないと判断するのであれば、雇用主にこれを通知しなければならない。

本件紛争解決において提起された第二の争点は、給与受領者である者が、給与支払会社の従業員であると同時に、取締役である場合であることに関連する。

当該争点においては、高等裁判所は、税務当局及び第一審判決と一致しない見解を示した。第一審は、本件解決のためには、当事者が会社の取締役であるという事実は、非常に重要な要因であるとした。さらには、給与支払会社の取締役であるという事は、当局が追加提出を要請した全ての書類にアクセス可能であり、従って、適切な注意を持って自身の管理下にあった全ての書類をもって依頼に応じる書類を作成、提供するべきであった、としていた。

最高裁判所は、第一審判決及び税務署は、本案件の当事者に対し、取締役の地位が前述の理由で追加書類提供義務を負うことを警告することせずに、税務当局が状況理解のために必須と判断した補完的情報を求めたとした。つまり、自然人としての納税者に対し請求した上で、取締役であることを理由に法律上要求可能である以上の情報を求めたことを批判したのである。

結果、高等裁判所判決は、単に同一人物が給与支払会社の取締役と従業員を兼任していることを理由に、上記の立証責任に関する一般原則を必然的に変更する義務を否定した。同一人物に前記事情がある場合、例えば、出張費支給の対象となる出張の必要性の判断に、対象者の会社における地位が関係するのか、税務当局の要求の内容等、具体的な事案を検討し、一定の側面を考慮する必要があるとしたのである。

最高裁判所は、税務署に対し、納税者に自然人としての納税義務を課しているにもかかわらず、後から当事者が会社の取締役であることを理由に提供された情報では十分ではないとして、法律が要求するよりも多くの書類提出を義務付けることはできないと明確に結論づけた。

 

 

マデロ・ハイメ (Jaime Madero)

ヴィラ法律事務所

 

更なる情報を知りたい方は以下までご連絡下さい。

va@vila.es

 

2020年6月12日バルセロナにて